テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【𝐩𝐫𝐨𝐥𝐨𝐠𝐮𝐞】
神には記録がある。
誰が何を祈り、何を叶え、何を代償としたか――
すべてが、天の帳簿《ちょうぼ》に刻まれ、永久に残されていく。
だが、その帳簿に、ただ一柱の名が記されていなかった。
彼の名は白血(はっけつ)。
かつて人々の祈りを絶やし、
神としての在り方を忘れ、
世界の理に逆らった咎神《とががみ》。
存在そのものが記録されず、
言葉でも語られず、
誰にも祈られぬまま、
“忘却の座”と呼ばれる空間に封じられた。
忘れられた神に、再び光が当たることはない――
世界が、そう決めたから。
けれど、その封印が揺らいだのは。
たったひとつの小さな“祈り”の気配によってだった。
それは、名も知らぬ一人の少女の、
とても静かで、でも確かな声だった。
「私は、あなたを……知ってる。忘れてないよ」
そのとき、忘却の座の奥で、
ひとつの瞳が、静かに開かれた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!