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R
23
#執着
さぶれ
1,448
食事を済ませた後にも、いくつかSAを回りドライブを続けている内に、やがて日が暮れてウインドウガラスの外が暗くなってきた。
「……これから、ホテルにでも行くか?」
ハンドルを握ったままで、春樹がストレートに言う。
「ホテルに……?」
「たまにはいいだろ? ほら場所を変えると、新鮮な気持ちにもなるとか言うし」
「新鮮な気持ちって……」
顔が火照って熱くなってくるのを感じていると、
「……最近、マンネリだったしな」
春樹が呟いて、彼の方も気づいてたんだ……と思った。
場所を変えたらっていうのは確かによく聞くけど、ラブホテルのいかにもっていう雰囲気はそんなに好きでもないんだよね……。
正直あんまり気乗りはしなかったけれど、彼がマンネリの解消を考えてくれたのを少しうれしくも思う気持ちもあって、「うん、いいよ……」と、応じた。
高速道路の降り口にあるラブホに車が回される。
──部屋の中に入ると、ベッドの上に腰を下ろした春樹が、
「こっちに来いよ、舞」
なぜだかいつにない俺様口調で、私を呼んだ。
呼ばれるままに隣に座ると、
「キスしてやるから、目閉じろよ」
彼の顔が近づけられ、おとなしく言われるがままにしておくつもりが、
「……なんで、そんな言い方なのよ?」
いつもとは違う雰囲気に、つい黙っていられなくなった。
「いいだろ、命令されるのもたまには悪くないだろうが?」
顎がつかまれて、やや強引にキスをされる。
「んっ……ねぇ、春樹……」
口の中に入り込んでくる舌を、やんわりと押し返して、
「……俺様っぽいのとか、似合わないんだけど……」
そういうシチュエーションなんだろうからとはわかっているんだけど、どうにも拭い切れない違和感にそう口に出すと、
「もう気分削ぐようなこと言うなよな……」
春樹が、ガックリと顔をうなだれて拗ねた。
「ごめん…春樹…」だって言わずにいられなかったんだもんと思いつつ、ムードを壊してしまったことを謝る。
「人が、せっかく気分出そうとしてるっていうのに……」
「だよね、ごめんね……」
もう一度、ちょっとシュンとして謝ると、
「……そういうところが、かわいくないんだよ、おまえは」
春樹が、嫌味っぽく言い出して、
「……かわいくないとか、言わないでくれる?」
シュンとしたのも束の間、ついつい言い返さずにはいられなくなる。
「かわいくないだろ。社長の彼女なんて、あんなにしとやかそうだったのに、少しは見習えよ?」
(またあの彼女の話なの?)と、うんざりしてきて、
「見習えって、何よ? いい加減、あの女の人のこと言うの、やめてくれない!?」
イラついてまくしたてると、
「おまえが先に煽るようなこと、言ったんだろうが!?」
売り言葉に買い言葉で、互いに言い合いになって、
「はぁーあ」と、二人いっしょにため息をついて黙り込んだ。
やっぱり私たちって合わないんじゃないかと、さすがに落ち込んでくる。
春樹がベッドを立って行って、備え付けの冷蔵庫から飲み物を出すと、「ん……」と私に手渡して、
「……。……テレビでも見て、少し頭冷やそうぜ」
と、リモコンを手にテレビをつけた──。
テレビ画面をぼんやりと眺めていたら、
「あ、あの人じゃないか? あれ」
と、春樹が映っている女の人を指差した。
「ホントだ……」
画面には鷹騰社長と一緒にいたあの女性が出ていて、『クールズ・コーポレーションの美人秘書』と、テロップが付いていた。
「……社長秘書だったんだ、あの人って……」
「ああ、秘書だったんだな」
春樹が横で同じように呟く。
「秘書じゃ、いっしょにいる時間も長いよね……」
会社でも家でもずっと彼といたら、知らないことなんてないんじゃないかなと思う。
「そうだな、いろいろ知ってるんだろうな、プライベートとかも……」
プライベートか……そう言えば、颯さんって名前で呼んでたっけ……。
「彼女の名前、霧島 麗華っていうんだな」
「ああ…なんか、そんな名前っぽいかも。鷹騰社長も颯って名前だし……お似合いって感じだね」
エレベーターの中で会った時の二人のシルエットが浮かんだ。
「颯と麗華って名前からして、セレブなカップルって感じだよな」
言う春樹にケンカして凹んでいたのも忘れて、フッと笑いが漏れる。
「ねぇ…うちらも、お似合いかな……?」
なんとなくまたそういう雰囲気が盛り返して、彼の顔を上目に見つめると、
「似合ってるだろ? 俺たちだって、長い付き合いなんだから……」
ごく自然に唇が寄せられキスをされた。
「ねぇ、春樹。さっきは、ごめんね……」
素直な気持ちが口をつく。
「いいって、もう……。お互いさまだろ……ほら、黙ってキスさせろよ」
再び唇が重なり合い、抱き合ってベッドに倒れ込んだ。
──つけっぱなしのテレビからは、
「そんなに美人だと、さすがの鷹騰社長も黙ってないですよね?」
そんなことを質問するレポーターに、
「いえ社長は、きっとそういうことは、あまり気にしてないと思うので」
そう謙遜をして答える彼女の声が、微かに聴こえていた──。
コメント
1件
ラブホテルでの「俺様口調」、春樹さんらしくなくて思わず笑っちゃいました。でもそこから「かわいくない」の言い合いになって、お互いヘソを曲げる展開、すごくリアルで胸がぎゅっとなりました。テレビで秘書の麗華さんが出てきたことで自然と空気が戻っていく流れ、自然でほっとしました。「お互いさま」って言える関係、いいなって思います。