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#先生と生徒
「元宮センセェ~!!」
校門を出た瞬間、元気な声が響いた。
「え!? 上重くんと半沢くん!なんで来たん!?」
「元宮先生のお母さんを今朝見かけて。すっごい綺麗な格好してたから、今日絶対卒業式やと思って!」
「俺は、はんちゃんの付き添いです。はんちゃんが花束をどうしても渡したいって言うから」
そこには、かつての教え子である上重くんと半沢くんが立っていた。
卒業の余韻に浸りすぎて、校内を出るのがすっかり遅くなってしまったのに。彼らはこの寒い中、ずっと俺たちを待っていてくれたらしい。
「……これが噂の、元宮先生の彼女の空さんですね? ……実物、綺麗すぎる」
上重くんが、うっとりとした顔で空を眺める。
まぁ、そうやろうな。中学生の君にとって、今の空が纏う完成された美しさは、毒が強すぎるかもしれん。俺も毎日のように翻弄されてるからな。
当の空は何も答えず、ただ静かに俺たちのやり取りを観察していた。……怖い。何を考えてるんやろう。この間の嫉妬の怒りが残っていなければええけど。
「センセェ、これ、お小遣い叩いて買いました! 卒業おめでとうございます!」
「ありがとう! 半沢くん、めっちゃ嬉しい」
半沢くんの少し甘い声とともに差し出されたのは、ピンクのガーベラと薔薇で彩られた豪奢な花束だった。
「あ! はんちゃん、俺も半分出したのに自分だけ渡すのズルいわ」
唇を尖らせて拗ねる上重くん。少し混ざる霞草の白さが、純粋な彼らの様でとても微笑ましい。
「こんな豪華なお花、二人ともほんまにありがとうな?」
俺が礼を言った、その時だった。
上重くんが俺の手元にある花束をぐいと押さえつけると、そこから一番鮮やかなピンクの薔薇を一輪、強引に抜き取った。
そのまま吸い寄せられるように空へと歩み寄り、跪くような勢いでそれを差し出す。
「……これは、空さんに。俺から。ご卒業おめでとうございます」
「……ありがとう」
「トゲ、危ないから気をつけてくださいね」
「……うん」
え、何その淀みのないテクニック。
中三にしてやり手すぎんか?空の方を見れば、口元が嬉しさを隠しきれていない。
「……もう、せっかくの花束がぐちゃぐちゃになったやん!」
半沢くんが上重くんを窘める。「ごめんごめん」と悪びれなく笑うそのやり取りは、俺が勉強を教えていた頃と何も変わらない。
まるで、俺と空のやり取りを見ているようで少し笑みが溢れた。
「あ、二人は卒業式、いつなん?」
「俺らはあと二週間後くらいです。卒業祝いにまたパフェでも奢ってください」
ニカッと大きな口で笑う上重くん。俺は思わず、空の様子を伺った。
「上重くん、良い子やから。もとちゃんにめいっぱい奢ってもらいな?」
「ふぁっ! 空さんにそんなこと言われたら!! 俺、全メニュー奢ってもらいます!!」
「いや、おかしい! 世界が空中心に回ってるのおかしい!」
三人が笑い声を上げる中で、一人だけ、笑ってない半沢くん。いやもう2人の空気怖すぎるやろ。
空と、半沢くん。
二人は決して目を合わせない。けれど、その沈黙の間にはバチバチと激しい火花が散っていた。
……まずい。早くこの場から逃げ出さないと、空の判断次第で、あの約束は大学卒業までお預けを食らってしまう。
「空、そろそろ……」
「うん、俺らこれから用事あるねん。気をつけて帰りな?」
え?俺ら?今日はこの後約束なんて無かったけど。少し緊張している俺なんかお構いなしに、空が慈しむような手つきで上重くんの頭を撫で、上品に手を振った。
その振る舞いに、突然考えても見なかった予感がよぎる。
え……待って、もしかして三人目のLoverが爆誕する可能性ある!?
「空待って!! ……じゃあな、今日は本当にありがとう! 絶対二人にはお礼するから!」
捨て台詞のように叫んで、俺は逃げるように空の後を追いかけた。