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沢田千鶴
審神者名 ちづる
陰キャ。180cm。V系バンドのボーカル。
初期刀 加州清光
初鍛刀 薬研藤四郎
第一部隊
薬研藤四郎(隊長)
加州清光
信濃藤四郎
大和守安定
燭台切光忠
鶴丸国永
ヤナギ
気弱な糸目の政府職員。
千鶴の担当。28歳。
梨兎
千鶴の演練相手。
「演練?」
「そう。他の審神者との交流を深めるのとか、清光たちの鍛錬相手になる…らしい。自分と対戦出来たり、とか」
千鶴は自身の担当職員、ヤナギとの対面を済ませたあとに説明を受けた演練について加州たちに話していた。
「でも大将交流とか苦手なんじゃない?」
赤い髪を揺らし、信濃が言う。
「…俺も、変わらないと、だから」
「俺は賛成だぜ?きっと今の大将なら大丈夫だ。」
第一部隊隊長、薬研藤四郎がそっと千鶴の背中を押す。
「じゃあいってみる、か。」
【陸奥国サーバー演練場】
「…帰りたい」
千鶴の眼前に広がるのは、人と刀剣男士の海だった。
「大将こっち受付あるよ!」
信濃が千鶴を受付に連れてゆき演練相手選択に入る。
「明らかに強そうなところはやめておいた方がいい…って話だから…」
ヤナギに言われた演練での注意点を反芻する。
__なるべく、総合の戦力から判断したほうがいいです。演練では男子が破壊されることはありませんが、一発KOはちづるさんも気が済まないでしょうし…同じくらいの戦力のところとやり合うのがいいと思います。少し強くても問題はありませんよ。
__破壊されない…?負傷はするんですか。
__するっちゃしますけど…まあ、手入れは必要ありませんよ。見てたらわかると思いますが…
「…この人で」
目の前に表示される画面には、太刀中心の編成で戦力はあまり変わらない部隊が表示されている。
審神者名は梨兎。
演練場の混雑具合の関係で一時間後に対戦となった。
「大将、終わった?俺アイス食べたい!」
信濃が千鶴に話しかける。
「わかった。光忠、一緒に行こ」
「OK、みんなのリクエスト聞いてくるよ」
そういって燭台切は離れたところで待機していたメンバーに声をかけに行った。
「ところで大将、緊張してる?」
「いや…意外と落ち着いてる。不思議なくらいに。」
「なら大丈夫!安心して、俺ら絶対勝ってくるから!」
燭台切が帰ってきて、他の刀たちが観覧席を取りに行ったことを千鶴に伝える。
信濃のお目当てのアイスなどを買って合流する。
「ここで他の人の演練が見れるのか。」
そういう千鶴に鶴丸が答える。
「そうらしい。驚いたぜ、こんなにも強い刀たちがいるなんてな!」
千鶴はゆっくりと周りを観察する。
今の千鶴の本丸には今日連れている6振りの他に短刀数振り、脇差、打刀、大太刀がそれぞれ1~2振り程度しかいなかったため、見たことのない刀を連れている審神者に少し興味があった。
その刀のお名前は、一言そう言えばいいのに、何も言えずつい俯きがちになる。
演練はどのように行えばいいのか思考を巡らせていると、肩に衝撃が走る。
「!?」
「わわ、すみません!コーヒーかかってませんか?火傷とかしてませんか?」
驚き振り返ると自分よりはるかに小柄であどけない顔つきの少年がそこにはいた。
真珠のような肌に浅葱色の瞳、染めているのにもかかわらず手入れの行き届いた瑠璃色の毛先。
まるで絵画から出てきたような美しさに圧倒される。
「あ、えっと、大丈夫、です、気にしないで」
「ほんっとにごめんなさい!」
少年と一緒にいた刀、乱藤四郎が同じように頭を下げると慌てたように階段を駆け下りていった。
「たぁいしょ、そろそろ時間だぜ」
薬研がぼうっとしていた千鶴に声をかけ、千鶴も広場の階段を下りた。
「1-B室…ここだ。」
指定された部屋の前に辿り着くと千鶴は部隊全員に指示し、演練に送り出す。
「相手の編成は太刀3、打刀2、短刀1。まず最初に短刀をつぶして。薬研と信濃は太刀とやって。小回りの利く二人にしか任せられない。国永、光忠は逆に打刀を、清光と安定は短刀のサポートに回って…いい?」
「りょーかいっ、任せてよね、主」
「派手に暴れるとするか。」
「光坊、驚きが俺を呼んでいる。すまないが楽しくなりそうだ」
「無理しちゃだめだからね。」
「大将、俺頑張るから!」
「じゃあ行ってくるね。」
「ああ、いってらっしゃい。」
顔を上げ、初めて気づく。
演練相手の審神者が先程の美少年だった。
彼が、梨兎。千鶴は勝手に同じくらいの年の女性かと思っていた。
齢17くらいだろうか、こんなに儚い美少年は何を思って審神者になったのだろうか。その小さな背中にどれだけ大きなものを背負っているのだろうか。
考え出すと止まらない。
知りたい。
梨兎を知りたい。
「演練開始」
その機械音で意識が戻ってくる。
相手の乱藤四郎が飛び出し、薬研に切り掛かる。大倶利伽羅、和泉守兼定を燭台切が、膝丸、小烏丸、鶯丸を信濃が一人で相手するのは厳しいと判断した大和守が小烏丸を引き受け、加州は鶯丸に回る。
「首落ちて死ね」
「柄まで通ったぞ!」
「フェイントに見せかけて攻撃ぃ!」
小烏丸、乱、鶯丸を戦闘不能にするが、薬研が中傷を負う。
「正念場だな…!」
「薬研っ」
思わず小さく叫ぶ。
だが、薬研の目は爛々と輝く。
信濃の元へ駆け、膝丸と対峙する。
「瘴気、断つべし!」
「貫かせてもらうぜ!」
薬研が真剣必殺をすると、膝丸も戦闘不能となる。
ふと気づく。
「国永がいない…」
いくら太刀といえど、1振りで打刀2振りを相手にしていた燭台切が何かを合図すると、鶴丸が大倶利伽羅の死角から飛び出す。
「予想外だったか?がら空きだぜ!」
「チッ…!読み違えたか…!」
大倶利伽羅、中傷。相手の部隊に脇差がいなくて良かったと心の底から思う。
これなら、勝てる。初めて確信を持って思えた。
「鶴さんナイス!」
「当然だぜ」
相手側の表情は見えない。
「演練終了。西、勝利」
千鶴の勝利を機械が告げる。
相手の部隊は重傷4、中傷1、軽傷1。
対して自部隊は中傷1、軽傷3。あとの2人は軽疲労程度であった。
ゲートを潜ると送り出した時と同じように無傷に戻る。
「おかえり、強かった?」
「ああ。でも、楽しかったぜ」
薬研がそういうと他の5振りも頷く。
「しっかし驚いたぜ、さっきの坊ちゃんが演練相手だったとはな!」
「うん、予想外だった。」
そんなことを話していると、その坊ちゃん、梨兎が目と前に飛び出してきた。
「廊下ここで繋がってるのか」
「うぎゃ、ごめんなさい!!またぶつかりそうになっ…ちゃっ…」
梨兎は千鶴を見て予想外の背の高さに絶句する。
「あの…強かった、です。ありがとう、うちの刀たちが楽しかったって、言ってました。」
「えっあっありがとう?ございます?あ!せっかくだからコーヒー、飲みませんか?あえっと、自分、梨兎って言います!ちづるさん、ですよね!僕てっきり女の人かと思ってました!」
「お、おちついて…俺も梨兎さんのこと女性かと…思ってました…」
「えへへ、よく言われます、あと、20歳すぎてるのに子供っぽいとか…あ、ちづるさん何歳ですか?」
今度は千鶴で絶句する番だった。ずっと未成年だと思っていたこの少年が年上の可能性が出てきたからである。
「あっ…24…です」
「え!!僕も24!!同い年だー!にしてもちづるさん背高い!何センチあるんですかー?」
同い年。
考えてたよりずっと明るい性格に戸惑いながら、千鶴は問いに答える。
「ひゃ、180…に、5センチヒール履いてるから、多分余計に高く感じる…と思う」
「合計185!!すごい!いいなぁー!」
話が弾む。
千鶴は元来聞き上手な部分があり、人の話を聞くのは嫌いじゃない。
梨兎は持ち前の明るさで人から言葉を引き出すのが上手だった。
「…誰かと、こんなに話したのは、久しぶりだな。」
「そうなんですかー?ちづるさんのこと、もっと知りたいです!」
「俺も、梨兎さんを、知りたい」
そういうと不意に静寂が訪れる。
「…僕、何もないですよ?」
感情の消えた瞳で、相変わらず笑顔を保ったまま千鶴に向き合う。
一瞬で元の表情に戻る。
「ここ、ですよ」
よくあるカフェのような外観の店に通される。
それぞれカウンターで甘いものを頼み、また会話を再開する。
「それで、ちづさんって審神者になって何年ですか?」
「えっと、1週間前に…なったばかりで…」
「へぇー、にしては、めちゃくちゃ強くてすごかったです!」
どうしても千鶴は梨兎の顔が忘れられなかった。
最初に抱いた感情は「絵画のように」美しい、だった。しかし、今見てみると感情が抜け落ちたような、どこか人間離れした「冷たい」表情をしている。
たくさん話をする。
誰にもいえなかった本音を、分かり合える。
そんな気がする。
なのに、どうしてか「梨兎」の本音が見えない。
冷たい目をしている。
優しい笑顔なのに目の奥は全く笑っていない。
「主さん、そろそろ時間だよー!」
乱が梨兎に話しかける。
「あっごめんなさいこのあと予定あったの忘れてた、またねちづさん!」
「あ、あぁ、また…」
そう言って梨兎はどこかへ走って行った。
それを見届けると冷め切ったコーヒーを一口飲んで、千鶴も店を出た。
「おっ、お疲れさん、大将」
「ああ…」
「大将大丈夫?なんかお店入る前より疲れてない?なんかされた?」
「いや、大丈夫。」
大丈夫だけれど、の一言は飲み込んだ。
「主、さっきあったことなんだが…」
千鶴の顔が曇っているのを気にかける刀ばかりだったので、鶴丸が気を紛らわすようなことを話す。
話を聞きながら千鶴はようやく気がついた。自分とって一番安心できる場所はやはり初期刀の横だということに。
「どうしたの主?」
「んーん、なんでもない…今日このあと鍛刀するか」
「お、いいねぇ」
何事もなかったように、ゲートを潜る。
「おかえり、今日はどんな1日だった?」