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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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『最近、寒いね。』











__ その日は、雲一つない新月の夜だった。




外に出れば、夏日に吹く風とは一変した透き通るような秋風が肌に触る。

まだ、10月半ばだというのに冬を連想させる寒さだ。




「はやく帰らなきゃ」





大分下に下がっていたチェック柄のマフラーを口元の方までぐいっ、と上げると、先程立ち寄ったコンビニの袋を片手に、足早に家路へと向かう。





___________






ふぅ、  と一つ溜息を吐き、徐々に閉まっていく扉のノブを引けば、扉を閉めると同時に鍵と安全の為にチェーンを掛ける。

乱雑に靴を脱ぎ捨てると、ぱたぱた、 急ぎ足で玄関から、リビングルームへと繋がる短い廊下を行く。 リビングの扉を開けると、机に大量のお菓子を広げ、ソファでダラダラ食べをしているキルアの姿があった。 ソファで寝転がっていたキルアはこちらに気付くとすっ、と体を起こして手に持っていた一枚のポテトチップスを袋に投げ入れる。すれば、れ、 と自身の指についたポテトチップスの粉を舌で舐め取る。何をするのかと思いながらその光景を眺めていると、キルアはオレに向かって緩く手を広げた。

物欲しそうにこちらを見つめるキルアの行動を理解すれば、オレはコンビニの袋をその辺に置いて、キルア目掛けて飛びかかる。 キルアは一瞬だけ驚いた顔をしていたけど、オレを受け止めてくれたその体は、オレとなんら変わりないのに、一回り大きいような気がして、暖かくて、胸の奥がきゅん、 と疼く感じがした。





「おかえり。」





頭から降りかかる言葉になんだか安心して、思わずニヤけてしまう。

それは、相手も似たような境遇で。 キルアもなんだか恥ずかしそうにして笑ってる。



自分も、相手も同じようににやけている。 そんな展開に何となく、心が踊った。





「ただいま。」




相手の顔を見て、 ふへ、  と笑うも、にやけて変な顔になってしまった気がした。







_________









暫く抱き合っていると、コンビニに行って来たことを思い出した。 そういえば、袋の中にほかほかの肉まんを入れていたことをすっかり忘れていて、ごめんね、と一言謝ると、キルアから離れる。

帰った後、手も洗わず着替えてもいなかった為、急いで諸々終わらせる。


コンビニ袋を持ち上げて机に置けば、購入した物を取り出していく。

キルアの好きなチョコロボくんの下に埋まっていた肉まん。袋越しに肉まんに触ればすっかり冷めきっていた。 折角、ほっかほか熱々の肉まんが、こんなにも冷たくなってしまうだなんて。




____ 秋の寒さのせいだ。 何となく、そう思うことにした。 

だって、キルアと抱き合っている時間のせいにはしたくないんだもん。









__________












「キルア、肉まん食べるでしょ?」







「おー…」






カチカチとスマホの画面を操作しながらソファにだらけているキルア。

問いかけには、食べるのか食べないのか分からない曖昧な返事。 折角買ったのに… と思いながら、ふと、キルアがずっと見ているスマホの画面が気になった。


肉まんは手に待ったまま、ソファの後ろからゆっくりとキルアに近付く。

少しワクワクしながらスマホの画面を覗き込むようにキルアの真後ろに行くと、 強めに腕を引っ張られる。

思わず、 うわぁ!!  と叫んでしまった。








「き、キルア……?」







「ばーか、バレバレだっつーの。」








むぎゅっと頬を掴まれて、困惑しているオレに、キルアはからかうようにしてけらけら笑っている。


笑いがおさまったのか、いきなり真剣な顔をするから、何となく身構えた。 頬は掴まれたまま、両手に肉まんを持っている為、離してもらうように口を開いてお願いすることも、キルアの手を握ることも出来ない。

そろそろ肉まん食べたいんだけどな〜…… なんて考えていたら、 「ゴン」 と名を呼ばれる。 少し下に向けていた顔をキルアに向けると、 ぐい、 と引き寄せられる。









びっくりして、思わず手にしていた肉まんをぼとり、と落としてしまう。


目を見開いた前にはふわふわした白銀の細やかな髪、透き通った色白い肌にくっきりとした二重、オレを真っ直ぐ見て捉えるその真っ黒な瞳孔は、うるうると輝いている。そして、その周りを覆う奇麗な瑠璃色の瞳。

その全てに何処か魅了されて、引き込まれる様に彼に身を預ける。

ふにゃふにゃとした感覚は、互いの唇が交わったもの。最初は触れるだけの単純な口付け。徐々に口の間を割って、舌を絡められる。 歯をなぞられるだけでゾクゾクして、無意識に体が跳ねてしまう。 ぴちゅぴちゅという水音と、短く浅い息継ぎがこの静寂の部屋の中に響き渡る。




次第に限界を迎え、酸欠で目の前がチカチカしてくる。 息が切れると思った途端に互いの口が離れる。

長い間口付けをしていたにも関わらず、キルアは息一つ切れていない。そして、互いの唇を繋ぐ銀の糸は、まだ離れたくないと拒んでいるみたいだった。 





すぐに糸がぷつん、 と切れるとオレは全然出来ていなかった呼吸をする。 自分でも分かる荒い呼吸、自身の顔は見えないけれどきっと、頬は紅潮していて耳まで真っ赤に染まっているだろう。頬が熱を帯びて、風邪を引いたときの様にぽかぽかしている。 恥ずかしさやらを紛らわす為に、肉まんの話を持ちかけてみる。





「…… き、 キルア! 肉まん! 食べるの、食べないの、 どっち!!」




とても、話をする雰囲気じゃ無かったのは重々承知だ。 それでも、このまま無言のままだと、オレが困る。 恥ずかしさで死んじゃいそうだから。


そう言うと、キルアは一瞬戸惑った様な顔をした後に、 ぶはっ、 と吹き出して少し頬を赤らめながら「食う!」 って。







お互い、恥ずかしいのも全部隠して、忘れて。 

終いには、チンして熱々の肉まんを2人して食べて、笑って。





この秋の寒さを全て吹き飛ばしちゃうくらいの温かさは、オレたちの  『友情』であり、 『愛』 。





これはただの憶測でしかないし、オレ自身の願望だけど、キルアもそう思っているはず。





















_____ きっとね。


















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