涼ちゃん視点に戻ります。時間軸が戻ってきました。
元貴と揉めた日からしばらくたった。どうなる事かと心配していたがミセスの活動は普段通り続いていた。
あの後、数日後の会議では色々な事が決定し順調に仕事は進む。FC用の撮影などもあったが今までと同じ和気あいあいとした雰囲気の中で終わった。
何かが変わったといえば、元貴がプライベートでは全く俺たちとは関わらなくなっただけ。
俺は戸惑っていた。
もっと何かリアクションがあると思っていたのに…。
何事もなかったかのようにふるまう元貴。
元貴は本当に俺たちと一線を引いて『ただのバンドメンバー』として接してきた。まるで俺と元貴の関係は最初からなかったことにされたようだ…。
「あっ、涼ちゃん。ここの部分直したからこれで変更お願いね」
「うん…」
じゃあよろしく、と手を振って去っていく元貴の背中を見つめため息をついた。
「元貴のヤツ何か言ってきた?」
若井がたずねてくる。
「何にも言ってこない。元貴の中でもう終わった事になっちゃったのかな…」
「そんな事ないって!元貴のヤツ、絶対に無理してるんだよ」
ちょっと落ち込みながらつぶやく俺に慌てて若井は励ましてくれる。
でも……。元貴は顔色もよくてちゃんと眠れているように見える。今も遠くでスタッフと笑顔で話している姿を見るとなんだかもう俺は必要とされていないのかな、と思ってしまった。
「涼ちゃん。元気出して」
「うん。今は練習の方に集中して頑張るよ」
そう。やらなくてはいけない事はいっぱいある。俺は余計な事を考えないように仕事に集中することにした。
仕事から家に帰ってきて、ふぅ、と一つため息をつく。今日は本当に疲れた。
そのままベッドの上に転がる。
元貴とはメンバーとして表面上はうまくいっている。でもプライベートでは完全に壁を作られてしまった。
いったいいつから元貴とゆっくり話せていないだろう。
確かにあの時、元貴に言われた事はショックだった。ちょっと会っていないからといって若井に乗り換えるくらい軽いヤツだと思われた事にとてつもなく腹がたった。
でも…その結果、元貴は今、俺との事を無かった事にしようとしている。
俺が信じていたほど元貴は俺の事を好きでは無かったのかと落ち込んでしまう。
確かに最初始まった時は『元貴が1人で眠れるようになるまで』という条件だった。今、元貴は俺がいなくても体調を崩していないところをみるとしっかり眠れているのだろう。
そうしたら俺と一緒にいる理由などない。やっぱりあの幸せな時間はこんなちょっとした事で壊れてしまうくらいのものだったのだ。
つかの間の夢が覚めたのかもしれない。
元貴のいない空間にとてつもない寂しさを感じていた。
今度は涼ちゃんがもっくんのスルースキルに落ち込んでます。