テラーノベル
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ただの妄想。
ーーー
兄ちゃんは、不思議な人だった。
俺より何でも知ってて、
俺より怒りっぽくて、
俺よりずっと不器用で。
「にいちゃん、すごいね!」
「うるせぇ、褒めんな」
そう言いながら、
ちゃんと俺の前を歩いてくれた。
兄ちゃんは、何も食べなかった。
パンも、パスタも、ジェラートも。
「お腹すかないの?」
「別に」
「ずっと?」
「…ああ」
変だな、とは思ったけど、
兄ちゃんは兄ちゃんだった。
外に出ると、
兄ちゃんは俺の後ろに立つ。
誰かが来ると、
いつの間にかいなくなる。
「にいちゃん?」
返事は、少し遅れて聞こえた。
「ここだよ」
俺が成長するにつれて、
兄ちゃんは小さくなっていった。
声が遠くなって、
顔がぼやけて、
触れたはずの手の感触が、
思い出せなくなった。
「……にいちゃん?」
呼ぶ回数が減っていく。
いつからか、
誰も兄ちゃんの話をしなくなった。
俺も、しなくなった。
気づいたら、
何十年も経っていた。
書類には、
「一人っ子」と書いてある。
写真には、
俺しか写っていない。
「……あれ?」
でも。
朝、目を覚ますと
隣が少しだけ、冷たい。
誰かが座っていたような、
そんな跡だけが残っている。
「……にい、ちゃん……?」
名前を呼ぶと、
胸が少しだけ、苦しくなる。
理由は、分からない。
だって。
俺には、
最初から兄なんて――
いなかった、はずだから。
コメント
2件
妄想がマジで本格的過ぎてめちゃくちゃ凄い.... めちゃくちゃ尊敬や~✨✨✨