テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
車から降りると、建物の奥のプレハブ造りの事務所スペースから5人の男たちが出て来た。うち4人はスーツを着てはいたが、見るからに暴力団風の雰囲気を身にまとっている。
最後に出て来たのは、白髪をオールバックに撫でつけた髪に、紋付袴の和装のいで立ちの老人だった。スーツの男の一人がヒミコに言った。
「取引のブツの女はそいつか?」
ヒミコが答える。
「へえ、この子ですわ。そちらさんが探してはる子に間違いありまへんか?」
別のスーツ姿の男がタブレット端末をかざす。トモエの写真が映っているらしく、和装の老人がゆっくりうなずいて言った。
「間違いない、その女だ。それでいくら欲しい?」
ヒミコが首を傾げて訊く。
「はて? 何の事ですやろ?」
「何を言ってる? 取引だと言ったのはそっちだろうが。いくら払えばその女を引き渡すのか、と訊いてるんだ」
「ウチはこの子を引き渡すとは一度も言ってまへんで。この子の友達を返してもらいに来ましたんや」
「おいおい。俺たちが裏社会の人間だって事に気づいてないとでもいう気か?」
その時、ヒミコのスーツの内ポケットでスマホの着信音が鳴った。ヒミコはスマホを取り出し、スピーカーモードをオンにして、男たちにも会話が聞こえるようにした。
スマホからはトワノの声が響いた。
「おねえさま、監禁されていた女の子たちは全員、無事救出しました。イオンとナミネが安全な場所まで誘導中です。マユキも配置についてます」
和装の老人がぎょっとしてスーツの男に命じる。
「第3倉庫の様子を確認しろ!」
事務所スペースに飛び込んだその男は、監視カメラの映像を見た。空っぽの大きな部屋と、ドアの外の床に倒れている数人の男の姿があった。
飛び出して来た男は老人に告げる。
「やられてます! もぬけの殻だ!」
スーツの男のうち、特に大柄な一人が近くのロッカーから長ドスをつかみ出して怒鳴った。
「このアマども! サツの手先か?」
突然ウルハが駆け出し、反対側の出入り口の扉を横にスライドさせて開き、ヒミコはトモエの手を取って外に走り出した。
だが出た先は、サッカーコート程の広さはあるが、高い塀に囲まれた何もない空き地だった。さっきの男たちが後を追って駆け寄って来る。
ふとトモエの耳に、聞きなれない音が響いた。蜂の羽音を何倍にも増幅したような、細かい振動音。ブルルルルルという音が、斜め上の四方から聞こえて来る。
ヒミコが夜空を見上げてつぶやいた。
「準備は出来とるようやな」
トモエもつられて上を見上げると、星の光が何かに遮られている場所がいくつかある。何かが夜空を飛んでいる。ヘリコプター、いや、ローターが四つとか六つある小型のドローンだ。
ヒミコがどこへ向かってというでもなく叫ぶ。
「ええで、トワノ。ウチらの得物(えもの)寄こしいや!」
ドローンのうち二つが低く舞い降りて来て、ヒミコとウルハの真上に来た。その下にぶら下がっていた物がそれぞれ二人の頭上から落ちて来た。
二人は手を伸ばして空中でそれらを受け取る。ヒミコの手には日本刀が、ウルハの手には一対の細長い四角い棒のような物が二つ、握られる。
ヒミコの手にもう1個、丸めた布が落ちて来た。それを広げると、白い羽織だった。袖があまりふくらんでいない男物っぽい羽織。
背後に立っていたトモエの目に、ヒミコが袖を通した羽織の背に、大きく模様が浮かび上がっているのが見えた。
百合の一種だろうか、薄いピンク色の細長い花びらが6個円を描いて並んでおり、その花びらの先端にそれぞれ、6個の丸い何かがある。
それは鈍い青緑色の円形で、真ん中に正方形の穴が開いている。昔の銭の形だった。それからヒミコは眼鏡を外し、羽織の袖の中に仕舞った。
ヒミコが柄を持って鞘から刀身を引き抜く。だが、その刀身は白木で出来た竹光だった。長ドスを持った男がせせら笑う。
「何だそりゃ? チャンバラごっこでもする気か?」
ヒミコは白木の刀身を左手でつかみ、柄の部分を細かくひねるように動かした。その白木の刀身は二重の鞘だった。
刀身の形をした白木が柄から外れ、その下から、通常の日本刀の半分ほどの幅と厚みの、銀色の刃が姿を現した。
長ドスの男の表情が引き締まった。スーツの上着を脱ぎ捨て、本気で刃を構える。
ヒミコは外の鞘も、内側の鞘も地面に転がし、その細い日本刀を斜めに構えた。首の後ろで髪を束ねていた紐を外し、その長い黒髪が広がる。そしてヒミコは低い声で言った。
「ウチらは蔭(おん)の白拍子(しらびょうし)、あんさんたちの今夜のお相手させてもらいますえ」