俺は海岸まで行くと
ベンチなんかに座って待機した。
来ないかと思われたが
しばらくすれば海が真っ黒になり
辺りが何も見えなくなった。
気がつけば目の前には
真っ黒の毛色に、目が百ほどある龍が居た。
少し身構えてしまったが
俺が構える前に龍はヒゲを震わせて言う。
「お前が…お前のせいで…!
裏切りやがったな!!」
「裏切る?なんのことだ?!」
俺が強く言うと
龍が牙を剥き出して三本ほど生えた舌で木を切り倒した。
思わずゾッとしたが、こちらも武器ならある。
先輩の刀だ。名を夜叉刀(しゅらとう)と言う。
「喰らえ!」
垂直に夜叉刀を振り上げ、龍の腕を切り落とすと
血が薔薇の花弁のように散った。
「ウガァァァァ!!!」
龍は腕を抑えて頭を切られた鰻のように暴れた。
俺をしっかりと九十八個の目で睨みつけながら。
「やりよった…サーガラめ。この悪魔が!!」
「お前が言うことを聞かぬなら…喰ってしまおうか。」
「は?待て…」
俺がそう言ったが
龍には聞こえていなかった。
ただハシュー…ハシュー…と呼吸を荒くしながら
こちらに近づいてくる。
「俺の体の一部になることを光栄に思えよ。」
俺は逃げようとしたが
捕まえられてパクリと頭ごと食べられた。
痛いという感情は一切ない。
ただ、鉄の味がした。
何も聞こえずに静かであった。
まぁ、死んだのだが
暗いということは地獄なのだろう。
しばし歩けば鬼が居る。
熱された鉄板で焼かれてしまった。
凄く熱いのは勿論。
死ねないのが苦しい。
俺は何もしてないのに、何故死んでまで
苦しまなければならないのだろう?
今、先輩は大丈夫だろうか?
という気持ちが心を襲った。
(こうしちゃいられない。)
俺は口から火を吹いて鬼を燃やした。
そうして空を飛んで奥まで行くと
誰もいないところがあったので
洞窟に寝そべった。
出口もわからないし状況もわからない。
だからこそ冷静に時を待った。
ある日は人の骨が落ちてきた。
ある日は鬼の頭が飛んできた。
そして、いつも通り抜け出そうと
計画を練っていたその時の話だ。
目の前に透き通るような白い鱗をした
竜が居たのだ。尻尾の太さからして雌(めす)
俺は近づきたいなと思い顔を出した。
すると、その白竜は鬼に虐められたのか
痣がある。それで苦しんでも尚、鬼は白竜を虐めた。
熱した鉄で炙った。
血の池に沈めた。
身を剥がれた。
俺は我慢なならないと鬼を片っ端から殺した。
本来なら大罪だが仕方ない。
女を傷つけるやつなんてクズだし
別にこれで大罪でも良い…そう思った。
全て終わった後、竜を血の池から引きずり出し
声をかけてみた。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫よ。_貴方のお名前は?」
「私はグーロ・グリン。
龍に喰われて亡くなりました。」
「そう。良いお方でして。私はドロップ・ロビー。
人に胸元を刺されてしまったの。」
「それは…お気の毒さまです。」
俺は十字を切って言った。
彼女は笑うと俺の隣に来た。
「私、生憎来るところがありませんこと。
グーロさんの住処にでも泊まらせてはくれませんか?」
「…良いですよ!
それといった物はありませんがね。」
苦笑いをして
住処の洞窟に案内した。
顔を合わせる度に
彼女の瞳に魅了されてしまったが
チラチラと顔を見ていることがバレたのか
「どうしたの?」
と聞かれて
「なんでも…なんでもないのです。」
としか返せなかった。
洞窟で二人になり静かに息を潜めていると
彼女が口を開く。
「敬語を外して下さい。堅苦しいのは嫌ですよ。」
「えぇ…分かった。」
「そう。それで良いのよ。
私達以外ほとんど居ないじゃない。」
「貴方が焼き殺してしまったわ。」
「そうだな。…仕方ない。
俺は不器用な性格なんだから。」
少し思い出して、渋々と彼女に言う。
すると、彼女はどこか
俺に近寄ろうとしていると感じた。
数日すれば距離が近くなって
シンとした地獄で俺たちは賑やかである。
「ふふ。貴方は冗談がお上手ね。」
「そうでもないさ。君の感性が鋭いだけ。」
冗談混じりに言いながら
二人で笑っていた。
ある日は天に近い所まで行ってみたり
地獄旅行のように楽しんだ。
時が経つに連れて俺たちの仲は深まり
子を授かった赤紫の竜で名を「グル」という。
二人で育てようと奮闘していたが
食料もないしで苦しんだ。
途方に暮れて暗闇をさまよう中
彼女は決意を固めた。
「グーロさん。グルを連れてここから出なさい。」
「…そんなことできねぇよ。」
「海神…サーガラに頼めば
全ての願いを叶えてくださるわ…!」
「…サーガラ?!」
仰天した。
サーガラといえば先輩の友達で
確か大海龍王。
そんなやつが願いを叶えるのか?
「サーガラがどうした?どういうことだ?」
「知らないの?彼の娘は悟りを開いたのよ。
つまり…龍なのに仏になったそう。」
「それって…」
俺等、理不尽じゃね?
頭をよぎった言葉はそれだった。
「うん!理不尽だね!」
真後ろから男の声が聞こえた。
驚いて振り向くと
上品な着物に髪を縛った男が、
麒麟姿の先輩に乗っていた。
目元には赤い模様がある。
赤い模様は…王章だ。
「サーガラ?!」
「うん。そうそう。サーガラだよ。
…思ってたのと違ってごめんね。」
「あ、いや。はは…」
「妻は?リキに乗ります?」
「私は飛べますわ。サーガラさんは…」
「龍王ですよ?飛べます。」
「なら麒麟は要らないんじゃ……」
「砂ホコリが嫌なんです。」
サーガラは即答すると
こう言った。
「竜界という所がありて、そこには竜が住まいます。
貴方達も移動しなさい。俺は海底龍の都。
龍宮に居ますのでお困りがあるなら来てください。」
「ここから南東に進み、天井にある扉を開けば
竜界の中央…Appleと呼ばれるところへ出ますので
行ってください。」
サーガラは指を指し言うと
先輩が続けた。
「グーロ、そして…その妻は一回死んでいるから
寿命はない。俺と同じだが覚悟しとけよ。」
「あ、はい。」
返事をして
俺と彼女で南東へ進んだ。
サーガラは細長い目で俺を見てから
素早く移動した。
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