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ここをこっちだよね
と思いながら大学へ向かう。まだ少し道のりが不安なようだ。
「おぉ、あんちゃ~ん」
「あ、芽流(める)~。偶然」
杏時(あんじ)と芽流(める)が大学前で会う。2人で講義室へ向かう。
「おぉ~!2人とも~。こっちこっち」
汝実(なみ)が手を振る。隣には希誦(きしょう)がいてスマホをいじっていた。
「おはよ~」
「おはよ~」
「おはよー」
「おっはー。2人はあれ?一緒に来たの?」
「あ、うん。大学前で会って。ね」
「うん。2人とも早かったね」
「あ~私は早かったな。しょうちゃんはついさっき来た」
「あ、そうだったんだ?」
「うん。ほら」
希誦(きしょう)は耳に入れたワイヤレスイヤホンを取ってみせる。
「ほんとだ」
「さて、この講義はどうでしょーね」
「楽かな?」
「どうかな?」
お試し講義が始まり、終わる。
「キツそーです」
「却下ですかね?」
「次行こ次」
4人は荷物をまとめて講義室を出た。
赤髪が大学へやってくる。流来(るうら)だ。大学の校舎を見てあくびをする。
仕方ないといった感じで校舎内へ歩き出す。流来(るうら)が取ろうと思っている2限の講義は
人気らしく、流来(るうら)が入った頃には講義室の席は結構埋まっていた。後ろの席に座る。すると
「隣いいっすか」
と流来(るうら)に話しかける男の子。
「いいっすよ」
断る理由はない。
「1年生っすよね?」
「まあ、そうっすね」
「この講義取ります?」
「いや、わかんないっすね」
「あ、オレ真実田(まみた)明空拝(みくば)です。よろしくお願いします」
「あ、自分は杉木(すぎ) 流来(るうら)です。よろしくお願いします」
「杉木(すぎ)くん。よろしくお願いします」
「うっす」
「髪、カッコいいっすね」
「ありがとうございます」
その後、講義が始まる。そして終わる。講義室内がざわつき始める。
「次もなんか講義入れてます?」
「次?3限っすか?」
「そっすね。3限」
「3限は入れてないっす。4は入れてます」
「4なに入れてるんすか?」
流来(るうら)はスマホを取り出して確認する。
「文字の成り立ちと歴史?」
「あ!一緒っす。お昼食堂ですか?」
「あぁ~…お昼。考えてなかったな」
「あ、じゃあ、食堂でもコンビニでも。よかったら一緒にお昼どうですか?」
「じゃあ」
ということで流来(るうら)は明空拝(みくば)とお昼ご飯へ行った。
「あ。流来(るうら)くんだ」
汝実(なみ)が言う。3人ともそちらを見る。赤髪と黒髪が2人で話しながら講義室を出ていくところだった。
「流来(るうら)くん取るなら取ろうかな」
「汝実(なみ)ほんと流来(るうら)さん好きだよね」
杏時(あんじ)が言う。
「好きではないのよね~…推し?」
「推し?」
「なるほど?」
「綺麗な顔してるな~って。ま、皆の衆!お昼じゃお昼!なににする~?」
「なににしようか!?」
芽流(める)は3人よりもウキウキで4人でお昼ご飯について話しながら講義室を出た。
「こんな穴場があったとは」
流来(るうら)は明空拝(みくば)とコンビニでお昼ご飯を買い美術室へ来ていた。
「あ、そうだ。LIME教えてもらっても」
「あ、はい」
2人はLIMEを交換した。
「杉木(すぎ)くんはこの美術室よく使う…の?タメ口でいい?」
「いいよ。よく使う…っていってもまだ3回くらいだけど」
「あ、え?入学前から来てたの?」
「うん。どうせ入り浸る美術室の使い勝手に慣れておきたくて」
「え、杉木(すぎ)くん絵描くんだ?」
「まあ。うん。描くね」
「どんなの描くの?」
「風景画」
「へぇ~。油絵?水彩?よく知らないけど」
「水彩。油絵は…ムズイしめんどい」
「そうなんだ」
そんな仲良くなりそうだけど、どことなく上辺の会話をする2人。
「メニューめっちゃ悩んだわ」
「ほんとね」
「私そんな食べれないんだよね」
「マジ?ちゃんと食べないとダメよ?」
「お母さん?」
4人は笑った。それぞれカレー(ナン)
オムライス、ジェノベーゼ、パリパリサラダをシェアしながら食べた。
4人はお昼ご飯を食べ終え、食器類を片付け講義室へ移動する。
「みんな3限までだよね?今日」
「うん」
「そうね」
「じゃあさぁ~?…」
汝実(なみ)が芽流(める)を見る。
「はいはい。わかってるって。うちね?」
「そうっ!」
「片付けました」
「よっしゃー!みんな!エロ本探すぞ」
「いいね」
「ないから!」
芽流(める)以外の3人が笑う。講師の方が入ってきて講義が始まる。
一方その頃、3限が空きコマの流来(るうら)と明空拝(みくば)。
「オレも4限までここにいていい?」
「別に。全然いいけど」
「ありがとー」
流来(るうら)はスケッチブックと筆箱を取り出す。
「マジで絵描く人ってスケブ持ち歩いてんのね」
「まあオレはそうなだけで他の人はわからんけど」
「そっか。見てもいい?」
「まあ。おもしろくないだろうけど」
「ゲームしながら見てるよ」
明空拝(みくば)の手元を見るとスマホを持っていた。
流来(るうら)はスケッチブックをイーゼルに置いて絵の構成を考える。
「なんのゲームしてんの?」
「ん?パズルゲー。ホリー・パッターのパズルゲーム」
「へぇ~。そんなんあるんだ」
「杉木(すぎ)くん高校のときとかやんなかった?ゼリーというか宝石みたいなパズルゲーム」
「あぁ~。やってたわ」
「それ。それのホリー・パッター版」
「へぇ~」
2人はたまに喋ったりしながら、流来(るうら)はスケッチブックに絵の構成を描き
明空拝(みくば)はパズルゲームをし、たまに流来(るうら)の絵を見て過ごした。
3限の講義が終わり
「うっしゃー!行こうぜ」
汝実(なみ)の準備が早い。
「汝実(なみ)はやっ」
希誦(きしょう)が驚く。
「しょうちゃん遅いぃ~」
早く行きたくて落ち着かない汝実(なみ)を無視して、3人は自分のペースで帰る準備を進める。
準備完了。汝実(なみ)はウキウキで
「ウキウキしすぎ」
とか言いつつも杏時(あんじ)も希誦(きしょう)も
東京に来て初めてできた友達が初めての一人暮らしの部屋に来てくれるという初めて尽くしの芽流(める)も
内心ウキウキしていた。
流来(るうら)と明空拝(みくば)は美術室から出て、4限の講義のある講義室に行くため階段を上っていた。
すると上から4人の女子のグループが下りてきた。
「あ」
「あ」
流来(るうら)と杏時(あんじ)が顔を見合わす。
「これから講義?」
「そ」
「あ!私です!あの、えぇ~、あ、LIMEしたの」
「あ、アンジーの友達の汝実(なみ)さん?」
「ですです!初めまして」
「あ、どうも初めまして」
「あ、あの。4限なに取ってるんですか?」
「え。あ、まだお試しですけど…文字?なんだっけ?」
流来(るうら)が明空拝(みくば)に聞く。
「文字の成り立ちと歴史かな?たしか」
「それです」
「あ、そうなんですね!ありがとうございます」
「うっす」
「じゃ、またね」
杏時(あんじ)が流来(るうら)に手を振り、明空拝(みくば)に会釈をして階段を下りる。
「おぉ。また」
流来(るうら)は軽く手を挙げて汝実(なみ)、希誦(きしょう)、芽流(める)に会釈をして階段を上がる。
汝実(なみ)、希誦(きしょう)、芽流(める)も流来(るうら)と明空拝(みくば)に会釈し階段を下りる。
明空拝(みくば)も汝実(なみ)、希誦(きしょう)、芽流(める)に会釈をして階段を上がる。
「誰?あの4人組」
「誰って聞かれると困るな。知り合い?」
「へぇ~。高校の同級生とかではないのね」
「ないね。昨日知り合った。知り合った?」
「なんだその語尾ハテナは」
「いや、友達とかそーゆーんじゃないし。顔見知り程度?」
「へぇ~」
明空拝(みくば)は
あのミルクティー色の髪の子は杉木(すぎ)くんに気あると思うけどなぁ~
と思ったが言わずにおいた。4限の講義室に入る。席に着く。
「あ。なるほど。美術関係が好きだからこの講義を」
「あんま関係ないけど」
流来(るうら)はスケッチブックと筆箱を出し、絵の構図を考える。
「それってさ、過去に描いたやつもある?」
「あるけど?」
明空拝(みくば)は無言で手を出す。流来(るうら)も無言で手渡す。スケッチブックを捲る。
「えっ。うっま。マジか」
鉛筆での下書きだが、綺麗な風景画。鉛筆で濃度を変え、陰影を出している。
細かく色の指定も文字で書いてある。
「ヤバ。美大に行こうとは思わなかったん?」
「まあ思ったけど、ハードル高いし、合格発表がめっちゃ遅いのよ。
たしか卒業後か卒業寸前とか?」
「マジ?そんな遅いんだ?」
「わかんない。でもめっちゃ遅かった。そうなると合格してたとこも蹴って
滑り止めとかない状態で合格発表聞くことになるじゃん?もしそれで落ちたらって思ったら…」
「なるほど?で美大はやめたんだ」
「そ」
「ありがと」
明空拝(みくば)がスケッチブックを流来(るうら)に返す。
「うい」
講義室に講師の方が入ってきて4限の講義が始まった。
「ここが芽流(める)の家かぁ~」
マンションの2階の扉の前に4人がいた。
芽流(める)がバッグからキーケースを取り出し、ガチャッっと鍵を開けて中に入る。
「どぞ~」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します」
「お邪魔しまーす!」
「あ、スリッパとかないんだ。ごめんね」
「全然全然!スリッパって歩きづらいし」
「わかる」
「わかってしまうんだな」
4人はリビングへ行く。
「全然綺麗じゃん!」
「だから昨日片付けたんだって」
間取りは1ルーム。なのでリビングでもあり寝室でもあるのだ。
「ごめんねぇ~。狭いけど座って」
3人はローテーブルを囲むように座る。
「みんなストレートティー飲める?」
「飲めるー」
「ありがとー」
「いただきます」
杏時(あんじ)が立ち上がり、キッチンへ行く。芽流(める)が4つのグラスに心の紅茶のストレートティーを注ぐ。
「持ってってもいい?」
「あ、うん。お願い。ありがとー」
「こちらこそありがとー」
杏時(あんじ)がグラス2つを持って戻る。
「あんちゃんありがと~」
「ありがと」
「どーいたしましてー」
間を開けず芽流(める)がグラス2つを持ってくる。
「芽流(める)ありがと~」
「いいえ~」
芽流(める)はまだ座らず、キッチンへ戻っていった。木のボウルにチョコやクッキーなどを入れて戻ってきた。
「こんなのしかないけど」
「ありがとー」
「ありがとー」
「ありがと!いただきます!」
みんなストレートティーを飲みながらチョコだったりクッキーだったりを食べた。
「てか、結構しっかりしたマンションだよね」
「たしかに」
「でも1ルームなんだね」
「あぁ、そうそう。2階までが女性一人暮らし専用のマンションなんだって」
「そんなのあんの!?」
「あるらしい。3階から上はファミリー用らしい」
「へぇ~。おもしろ」
「ね」
「めちゃくちゃ人気なんだって。
奇跡的に空いてたのを不動産の方が見つけてくれてお父さんに契約してもらった」
「あ、そっか。お父さんね」
「そうそう。お父さんが家賃払ってくれてるから、私もバイト探してバイトしなくてはってね」
「あ、バイトか~。考えてなかったな」
「私も考えてなかった」
「私も考えてはないけど、求人は見てる」
希誦(きしょう)がクッキーを食べながら言う。
「え、しょうちゃんそれはなんで?」
「ん?いや、激簡単で激楽なバイトあったら応募しようと」
「あぁ、下心ね」
「下心ではないけどね」
「あ、下心で思い出した」
汝実(なみ)がニヤッっとして芽流(める)を見る。
「また汝実(なみ)が変なこと考えてる」
「“おもちゃ”とかあるかなぁ~って」
「おもちゃ?」
「チカちゃん人形とか?」
「あんちゃんん~カマトトぶっちゃってぇ~」
「あ、なに?汝実(なみ)はそっちのオモチャのこと言ってたの?」
「しょうちゃんはわかった?それですよそれ」
「ないから。そーゆーのは」
「あぁ、なるほど」
杏時(あんじ)もわかったようだ。
「え、オモチャ持ってる人いないの?」
「いても言わんやろ」
たしかに。
「にしても物少ないね」
汝実(なみ)が部屋を見回す。
「まだ引っ越して短いからね」
「芽流(める)ってなにが好きなの?」
「ん?なにが好きって?」
「え。趣味とか」
芽流(める)は表情には出さないものの困った。本当は食べることがこの上なく好きなのだが
大学生になるにあたってぽっちゃりはアカンと思って食べるのを抑制していたし
そもそも食べるのが好きってどうなんだ?と思った。
「あぁ~…あんま趣味って趣味はないかな?MyPipe見たりとかになるかな?最近はバイト探してるし」
「そっか。バイトね」
「バイトかぁ~私もしようかな」
「遊ぶ時間なくなるけどね」
「遊ぶ時間なくなるけど、バイトしないと遊ぶお金もないのよね」
「そこだよねぇ~」
大学生らしい悩みである。
「ま、でも私はあれだけど、みんなは実家だし、まだ私たちお酒も飲めないしさ?
そんなにお金かからないから平気じゃない?」
「あぁ、そうか。たしかに」
「そういえば兄ちゃんが「飲みは金かかるぞ」って言ってたな」
汝実(なみ)は視線を斜め上に向け、思い出しながら言う。
「あ、汝実(なみ)お兄さんいるんだ?」
「いるね~優しいけどダメダメな兄が。あ、ちなみにみんなは?兄弟姉妹いる感じ?」
「私はお姉ちゃんと妹が1人ずつ」
芽流(める)が言う。
「私は妹に弟2人」
希誦(きしょう)が言う。
「わぁ~結構大人数。あんちゃんは?」
「私は一人っ子」
「一人っ子かぁ~。いいなぁ~」
「そお?」
「わかる。一人っ子いいよね」
「わかるわかる」
「私は兄弟姉妹いるの憧れるけど」
「お兄ちゃんと比較されてばっかよ?ま、うちは比較ってか
お母さんに「お兄ちゃんみたいになっちゃダメよ」ってプレッシャー?かけられる感じだけど」
「うちはないなぁ~」
「マジ?芽流(める)ん家(ち)いいなぁ~」
「私は長女としてしっかりしないとってのはある。あんま言われることはないけど」
「マジかぁ~。うちだけ?お兄ちゃんがあんなだからか」
汝実(なみ)が自分の兄を思い浮かべる。自由人で大学を中退し、就職活動もせず夢を追っているバンドマン。
ただお兄ちゃん以上に優しい人はいないんじゃないか?と思うほど優しいお兄ちゃんで
汝実(なみ)は大好きなのだ。
「お兄さんとは仲良いの?」
「まあ悪くはないかな?優しいし」
「優しいお兄さんめっちゃいいじゃん。あんなってなに?」
「あぁ。性格とかではなくてね。お兄ちゃん25歳なんだけどね?働いてないのよ」
「Oh」
みんなリアクションに困る。
「バンドマンなんだけど、バイトして練習しての繰り返し」
「バンドマンなんだ?カッコ良いやん」
「まあ…カッコは良いよ?」
汝実(なみ)は優しくカッコ良い兄を思い浮かべ、少しニヤける。
「なんだ。惚気か」
「惚気って」
「あんなお兄ちゃんとかいうから死ぬほどヤンキーとかかと思ったわ」
「たしかに」
「違う違う」
汝実(なみ)が笑う。
「ちゃんとした大人になりなさいよって言われるって意味」
「でも夢があるってカッコいいよね」
「わかる。正直やりたいことってないしなぁ~」
芽流(める)も頷く。
「そうなんよ。だからお母さんにそう言われても
社会的には外れてる人かもしれないけど、人としてはカッコいいんだよなぁ~って」
「やっぱ惚気だ」
「たしかに」
芽流(める)もうんうん頷く。各自の家の夜ご飯の時間まで芽流(める)の家で女子会をした4人。
一方その頃、4限に出ていた流来(るうら)と明空拝(みくば)。
「意外とおもしろかったね」
「たしかに」
「…名前で呼んでいいっすか」
「なに急に」
「いや、これから大学を通しての友達としてはなんか苗字呼びってのもなって思いまして」
「…ま、いいけど」
「流来(るうら)」
「おん」
なんか照れる明空拝(みくば)。
「名前なんだっけ?」
「あ、オレ?」
「そうだね。真実田(まみた)しかいないからね」
「たしかに。名前は明空拝(みくば)です」
「あぁ~そうそう。変わった名前だなって思ってたんだよね」
「お互い様じゃね?」
「そう。だからなんか親近感あったんよね」
「お!マジ?嬉しいっす」
特に片付けるものもないが片付けるような仕草をしながら
「流来(るうら)この後は?」
筆箱をしまう流来(るうら)の手が一瞬止まる。
「あ。この後は…」
親友の病院のことが頭に過ぎる。正直毎度毎度病院に行って、心が苦しくなるのも辛かった。
なので1日置きに行こうかとか、親友の家族とバッティングするのも気まずいしとかいろいろ考える。
「美術室で絵の続きかな」
と病院に行かない選択をとった。
「あ、そうなんね。何時に帰る?」
「6時くらい?」
「夜ご飯前に帰るのね」
「そんな感じ」
「じゃ、オレも付き合っていいっすか」
「別にいいけど」
「よし。もう行く?」
「行くよ」
「なんか買ってこようか?コンビニで。飲み物でも」
「いや、まあ。一緒に行くよ」
「そお?」
「なんで自らパシリになるんだよ」
「え?いや、暇だし」
「オレも暇だけどね?」
2人は立ち上がり、講義室を出てコンビニへ向かう。
「いやいや。流来(るうら)には絵を描くという使命があるけどオレはなんもないから」
「パズルゲームをするという使命があるじゃん」
「使命って使命じゃないから」
「それ言ったらオレもだけどな」
つい流来(るうら)が笑う。初めて見た流来(るうら)の笑顔が嬉しくて明空拝(みくば)も笑う。
コンビニでそれぞれ飲み物を買って、もう一度大学に戻って美術室へ行った。
流来(るうら)はイーゼルにスケッチブックを立て掛けて、引き続き、絵の構図を考える。
明空拝(みくば)は美術室特有の木の長方形のスツール兼イスに座り
スマホでパズルゲームをしている。しばらく無言。
「流来(るうら)ってバイトとかしてんの?」
明空拝(みくば)が口火を切った。
「してない」
体勢も視線も動かさず、鉛筆を動かしながら答える。
「探してたりする?」
「しない」
「そうなんだ」
「なんで?人手が必要だったりするん?」
「ん?いや?ただ聞いただけ」
「あ、そ?」
「うん」
「明空拝(みくば)は?」
「バイト?」
「そ」
「オレは居酒屋」
「へぇ~。ここら辺?」
「そう。ほら。定期あるからお得だし」
「なるほどね」
「あとこっちのほうが時給もいいし、求人も多かった」
「へぇ~。いつから?」
「始めたのはつい最近だね。入学式のちょい前」
「あえぇ~。じゃあまだ研修期間?」
「うん。大体1ヶ月くらいは研修かな」
「時給は?変わんないの?」
「変わんないの。めっちゃ良心的。
ただ、まあ当たり前だけど、研修期間中に辞めたりしたら時給は下がるらしい」
「当たり前だね」
「そりゃそうよね。ま、1ヶ月っていっても時間なんだけどね。何十時間とか?忘れたけど」
「へぇ~。そーゆーもんなんだ」
などという名前呼びになったといえ
どこかまだ少し距離感のある、なんとなくの真繋ぎの会話をしていると
「あ。もう6時だよ?」
明空拝(みくば)がスマホの画面を流来(るうら)に向ける。流来(るうら)が振り返る。
明空拝(みくば)のスマホの画面を見るが、パズルゲームの最中の画面で時刻表示は画面の上のちっさいやつ。
流来(るうら)が目を細めても見えるわけない。
「あ、マジか。そろそろ帰るか」
「おけー」
流来(るうら)はスケッチブックを持って息を吹きかける。
そして畳んでバッグにしまい、イーゼルを畳んで壁際に立て掛ける。
「帰りましょ」
「うい」
2人は美術室を出て、大学を出る。空はもう暗い。
「んじゃ。僕はこっちなので」
駅の方向はないほうを指指す明空拝(みくば)。
「バイト?」
「そーゆーこと」
「おぉ。じゃ」
頑張って。と言おうとして一度飲み込んで
「ま、無理しない程度に頑張ってください」
と言った。明空拝(みくば)はパッっと笑顔になり
「無理しない程度に頑張ってきます」
と敬礼しながら言って
「じゃ、流来(るうら)、また明日ね」
と手を振る。「また明日」という言葉が好きで少し嬉しくなり
「また明日な。明空拝(みくば)」
と手を振って別れた。