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「ねぇ、樹。これ・・」
すると、首元につけたネックレスに触れながら透子が尋ねる。
「あぁ。つけたところ、ちゃんと見せて」
ネックレスをつけた瞬間、我慢しきれなくなって思わずそのまま抱き締めちゃったから。
オレもつけてる姿をちゃんと見たくて、後ろから抱き締めていた手をほどいて、後ろを向いている透子を両肩に手をかけ振り向かせる。
「どう・・かな・・?」
すると、少し照れくさそうにしながら、上目遣いでオレを見て来る透子。
それだけでまたオレの胸は大きく高鳴る。
その姿がまた綺麗で。
プレゼントしたそのネックレスが、白い肌で光り輝く姿が美しくて、更に目が離せないほど。
なのに、そんな姿を誰にも見せたくない、なんて思ってしまったり。
「うん。すごく似合ってる」
そう言って微笑みながら言うと、透子も嬉しそうにはにかんで微笑む。
「透子」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
早く伝えたかった。
そして何年もかけてようやく言えた言葉。
「知・・ってたの?」
オレが知ってることに驚いてる透子。
「もちろん」
「なん・・で? 私言ってないよね?」
「秘密」
「秘密・・って」
そんなの当たり前でしょ。
好きになってから、何年一人で祝ったっけ。
そういえば、あの時一緒にお祝いしたこと、きっと透子は覚えてないんだろうな。
誕生日を知るきっかけも実は自分だったなんて思いもしてないだろうから。
たまたま修さんの店で何年か前に、透子の誕生日当日一緒の時があって。
その時すでに前の男と別れていた透子は、仕事帰りに修さんの店で美咲さんにケーキを用意してもらって、酒片手にケーキ食べてたんだよな。
なんかその姿が可愛くもありカッコよくもあり。
でも、あの時。
たまたま隣の席で修さんと話してたオレに、なんとなく親しみを感じてくれたのか、それとも誕生日だから少し気持ちが軽くなっていたのか。
その時すでに透子に惹かれていたオレは。
『お誕生日おめでとうございます』
と、一言声をかけたら、一瞬戸惑いながらも嬉しそうに
『ありがとうございます』
そう答えて透子は笑ってくれた。
たったそれだけ。
今までの自分なら、そのまま一杯酒でも奢ってその気にさせるくらいきっと簡単なのに。
そんな軽いノリで透子と繋がってしまうのがまだなんだか抵抗があって。
まだ一人前になれてないその時のオレは、多分きっと、そんな風に軽く思われてしまうのも、そんな風に知り合ってしまうのも怖かったんだと思う。
なんて、そんな弱気なままで、オレ結局ここまで何年かかったんだよ。
だけど。
それでもあの頃は、ただその『おめでとう』を伝えられただけで、言葉を交わせただけで、十分オレは幸せだったから。
それからオレはずっと透子の誕生日を忘れたことなんてなかったよ。
いつかその日を一緒に過ごせるようにって、ずっと願ってた。
だけど、透子の中でのオレとの記憶があまりにも全然ないから。
たまたま隣で飲んでる時だって、ホントは何回もあったのに。
だけど、透子はきっと今オレとの時間を始めてから、一つ一つが初めてなんだと思い込んでる。
そんな誕生日の想い出も、オレだけの想い出なんて、それがなんかちょっと悔しいからさ。
いつか想い出して。
オレとのあのなんてことない会話を。
いつか想い出させてあげる。
あまりにもオレだけの想い出なんて寂しいから。
だから、それまでは、片想いしてたカッコ悪いオレは秘密にさせてよ。