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雨の夜の大阪某所…
雨音と共に古びた長屋の戸を激しく叩く音が通りに響く
バンバンバン!
「萬田ぁ!はよ出てこんかい!借金返せぇ!」
「盗っ人ぉ!」
黒いスーツに身を包んだ男たちが長屋の一軒の家の前で戸を叩きながら叫び散らしている
「はよ出てこんと…」
ガラガラ………!
その家の戸が開くと、勢いよく一人の少年が出てきた
「なんやお前らぁ!!」
「 ガキなんかに用はあらへんのじゃ! はよ親父出さんかい!!」
「父ちゃんはおらん。母ちゃんもいてへん!俺だけや!分かったらはよ帰らんかい!この外道が!」
「人の金返しもせんと生意気ほざくなこのクソガキがぁ!」
バキッ!
男の中の1人が少年の胸ぐらを掴み殴りつけた
「くっ…殴ったな?これ傷害罪いうのに当たるんと違うんか?」
しめたとばかりに男たちの方を見てニヤリとほくそ笑みながら少年はそう言い放った
「な…舐め腐りやがって!減らず口黙らしたる!」
少年に馬鹿にされ、頭に血がのぼった男たちは生意気な少年を黙らせようとさらに激しく顔を殴りつけた
ドコッ!
「く…っ!」
激しく殴られ口の中が切れたその少年の口元から血が垂れた
「ちょっと!なんやのあんたら!」
少年が殴られているところに割って入ったのは同じクラスの桜子。正義感が強く、頑固で気が強い。長らく学校に登校していないその少年を心配して様子を見に来たところだった。
「なんや…また生意気なガキが湧いてきよったのぅ」
「わ…私、あんたらが萬田くん殴ってるとこしっかり見たで!!! 萬田くんが何したか知らんけど、大の大人が子供殴ってイジメるやなんて卑怯やないの!」
「べちゃくちゃとうるさいガキ共やのぅ…! 大人舐めとったらもっと痛い目あわすぞ!」
「米原やめんかい!ワシのことはほっとけ!」
「ほっとかれへんわ!
私の事も殴ったらええやないの! その足で警察行って、萬田くん殴った事も洗いざらい訴えたる! それでもええやんやったら私の事殴ってみい!」
「な…このクソガキが! この次来たときは覚えとけよ! 萬田ぁ!親父に金用意せんと承知せえへん言うとけ!」
「おい…行くぞ!」
サッサッサッ…
これ以上長居すると面倒な事になりそうだと察した男達はその場から足早に去っていった
「はぁ…なんやのあいつら…。 萬田くん!大丈夫!?」
「クソ…。何しにきたんや! 余計な事せんでええ!」
「何よ!余計なことって!私はただ最近萬田くん学校来てへんし、学校からの連絡やらなんやら預かりもん届けに来ただけ!」
「ほんだら余計な事せんと預かったもん置いてさっさと帰ったらええんや!」
「同級生があんなに殴られてるとこ見て知らんふりして帰るとか出来るわけないやろ!?」
「だからそれが余計な事なんや!」
「なによ!なぁ…萬田くんが最近学校来てないのってあの人らのせいなん?金返せとか言うてたけど…。」
「お前に関係あらへんやろ。はよ帰れ。」
「嫌や、帰らへん。」
「帰れ!」
「あの人ら追い返したん私やで!? ちょっとくらい何か話してくれてもいいやんか!」
「誰も追い返してくれって頼んでないわい! お前ほんまに頑固なやつやな。」
「頑固なんはそっちやろ…!
なぁ?ちょっと二人で話さへん? 近くの公園で、好きなジュース奢る!」
「………。」
どう言っても食い下がってくる桜子に言い返すのがめんどくさくなり黙り込む少年。
「な?ええやろ?ええやんな? ほら、手っ!」
「自分で立てるわい!」
「もう…。萬田くんほんま頑固なんやから…。」
“それはこっちのセリフや…。”
銀次郎は心の中でそう呟きながら桜子に差し伸べられた手を振り払うように、しぶしぶ立ち上がった。
小雨が降る中、少し距離を取りながら2人は近くの小さな公園へ向かった。
雨が降る夜の小さな公園。
当然そんな日に人など来るはずもなく、ガランと静まり返ったどこか淋しげな公園に何を話すことも無く2人は入っていく。
公園の中に入るとおもむろに駆け出した桜子。
ブランコに腰掛けるとゆっくりと漕ぎ始めた。
キィーコ…
キィーコ…
桜子がブランコを揺らすたび錆びた鉄が擦れる無機質な音が公園の中に響いた。
「なぁ、萬田くんブランコ乗らへんのー?」
「乗らへん…。」
めんどくさそうに答えた銀次郎。
「ノリ悪いなぁ… 家でもずっとそんなぶっきらぼうで怖い顔してんの?」
「家も外も関係あらへん…ワシはずっとこうや。」
「学校にいてるときいつも一匹狼やもんね萬田くんは。」
「それどういう意味や?」
「どういう意味もないよ。なんか謎めいてるよな萬田くんって…。」
「ワシのことなんて別に誰も知りたないやろ。話す気もあらへん。」
「そんな事ないよ?少なくとも私は萬田くんの事もっと知りたい!」
「……。お前もさっきの見たやろ。ワシみたいなんに関わったら厄介な事しかあらへんぞ。」
「厄介かぁ…私の家も相当厄介な事だらけやけどね〜。同じやね ふふっ。」
「……なんか、問題でもあるんか?」
「自分の事は話してくれへんのに人の事は聞くんや…。」
「あ……。」
銀次郎は痛いところを指摘されて思わず言葉に詰まってしまった。
「まぁ、いいや!どうせ皆知ってることやし…話すけど。
私、妾《めかけ》の子やねん。
近所でも学校でも噂されてみーんな知ってるし、有名な話やから萬田くんも知ってるって思てた!はは!」
空気が暗くならないように桜子は明るく笑い飛ばしながら自分の身の上話をした。
崩れてしまいそうな心をなんとか保とうとしているように思えて、銀次郎は桜子の明るさが逆にたまらなく痛々しく哀れに感じてしまった。
「ワシのこともそのうち学校や町中で噂されるようになるやろ…。他人の不幸話は格好のネタや、ほんまにどいつもこいつもしょうもない。」
「ほんまにね…。私なその事で学校でいじめられてんねん。だからさっき殴られてる萬田くん見て、なんかこう…凄い腹立って!ほっとかれへんかったんよ。」
「米原…。」
「だって!萬田くんは何にも悪い事してへんやん…!親のせいで怖い思いして…一人で立ち向かって痛い目にあって、そんなんおかしい!大人は逃げてばっかやし皆ずるいわ…!」
「そやから子どもやから言うて舐められたらあかんのや。ずるいやつらに負けへんようにワシがもっとずる賢うならなあかんのや。」
「萬田くん…やっぱり強いな。私なんかこんなアホやし…全然あかんわ。」
「さっきみたいなこと…。なかなかできるもんやない!だから…お前は全然あかんことなんか…ない。そんな事言うな。」
「萬田くん…。ありがとう!こんな事誰にも話されへんかったから、なんかすっきりした!そや!明日もここで2人で話そ?」
「え…?」
桜子からの突然の提案に銀次郎は少し戸惑ったものの、桜子のこの提案が暗く沈んだ心の底を少し照らしてくれたような気がした。
「ほら!ジュースも奢ってあげたんやから!
明日、今日と同じ時間にこの公園で待ち合わせな?」
「そんな勝手な…」
「絶対やで!約束破ったら今日の分の手数料とジュース代取り立てに行くんやから!」
「なんちゅう奴や…分かった…また…明日な。」
「やった!ほなまた明日ね!」
「おう。」
そう言ってまた会う約束をした2人
その小さな公園をあとした。
“また明日会える”
そんな小さな希望がお互いの家に帰る足取りを少しだけ軽くさせた。
次の日。
米原は約束の場所に姿をあらわさんかった。それどころか、その日を境に米原は町から姿を消した…。
“また話そう”
その約束がその日以来果たされる事はなかった。
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