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そして彼は無言のまましばし、探るような目でアリスを見つめている―
アリスは彼の唇から目が離せない
彼がアリスの唇を見下ろしながら顔を近づけてきた時、みだらな興奮がアリスを貫いた
―彼はキスするつもりだ―
鬼龍院にキスされると思った時は、不快感しかなく逃げ回っていたのに
今のアリスの中で荒れ狂っているのはまったく別の感情だった
欲望で心臓がドキドキして全身を血が駆け巡る、アリスは彼を今激しく求めている。つい1時間ほど前に会ったばかりなのに・・・・
なんとか理性を総動員させアリスは囁いた
「もう行かなくては・・・・母達の所に戻らないと・・ 」
「ああ・・・・そうだな・・・ 」
北斗の力強い手でアリスの手を包まれた、ここは居心地が良く、椅子もなんて座り心地がいいのだろう
彼の片腕がアリスの背もたれに伸び、覆いかぶさって来た
もう二人の顔は1センチぐらいしか距離がない。でもアリスは逃げる気などまったくなかった
「こんなことをしてはいけないのよ・・・・」
まるで二人っきりのボックス席で、誰かに聞かれるかのように小さな声で囁いた
「ああ・・こんなことをしてはいけない・・」
彼の声は、なお小さく、アリスの唇に注がれる視線は焼けるほど熱い
チュッと彼がしたのは子供が唇に軽く触れるようなキスだった
優しい仕種だった、ほんのかすかに閉じた唇の上を彼の唇がかすめただけのキス
舞台では歌舞伎役者が一斉に出てきて、大見得えを切って花道を忙しく徘徊している
あちこちで叫び声が聞こえ、舞台はいよいよクライマックスだ。金色の紙吹雪が豪雪のように客席中に吹き荒れ、周りが見えない
そしてアリス達のいる特別ボックスの天井からも紙吹雪が宙を飛んでいる
紙吹雪が舞う中、アリスは彼を見た。彼の視線はアリスの唇を捉えている
彼がぐいっとアリスの腰を引き寄せる
紙吹雪が彼の髪に・・肩についた。彼がもう一度キスするつもりなのがアリスにはわかった
――とにかくわかっていた興奮が高まり呼吸が速くなる
彼の唇が再び重なった。今度は遠慮がなかった、口を開けろとアリスに合図している
アリスは合図通りにした
彼の舌の感覚
その味わいに衝撃を受けた
温かで
濡れていて
とってもやわらかい
そして生き物のようにアリスの口の中を動いている。舌で優しく歯を撫でられ、思わず手に力が入った
―さぁ・・・君もきて・・・―
彼の舌がアリスを誘っていた
なので抗しがたく魅力的な彼の舌に、アリスも同じように自分の舌を絡ませた
二人でお互いの口の中で舌を遊ばせる
濡れて・・・温かくて・・・なんとも気持ちが良い
彼は少しミントの味がした、こんな感覚は初めてだ
どうしよう・・・・気持ちいい・・・
演奏している最後の鳴り物が響き、役者が幕外で深々と頭を下げている。誰もが拍手喝采で会場は熱気に包まれていた
プハッとアリスが息づぎをしようと唇を離して言った
フゥ・・・
「・・・キスをしてはいけないって・・・言ったのに・・・ 」
ハァ・・・・
「そうだ・・キスをしてはいけない・・・・」
「んん・・・」
また北斗が唇を重ねてきた。アリスは目を閉じて口を開け彼の舌を再び迎えた
舞い散る紙吹雪の中
二人はいつまでも唇を重ねた