テラーノベル
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自傷行為をしていたら
桃病みです
苦手な方Uターン
出来次第、残りの青、黒サポート投稿します👊
※今回すっごい長いです
全部で1万文字越えてるので気を付けてください
赫サポート
桃「…ん゛…ッ」
なんでこんな上手くいかないんだろ。
何度やっても、思うようにならない。
机の上に広げたものを見つめながら、桃は小さく息を吐いた。
赫はアレンジどんどん上手くなってて。
最初の頃より、明らかにできることが増えている。
水っちはどんどん可愛くなってて、リスナーさんを虜にしてるし。
白ちゃんはラップをつくるのが上手くなったし、作るのも早くなった。
青は料理したりして、どんどん色んな方面を伸ばしてる。
黒は筋肉量めっちゃ増えたし。
みんな、それぞれ自分の武器を見つけている。
少しずつでも、前に進んでいる。
なのに、俺は。
桃「俺、なんにもできないじゃん」
ぽつりと零れた声は、部屋の中に吸い込まれていった。
リーダーなのに。
社長なのに。
みんなを引っ張っていかなきゃいけない立場なのに。
自分だけ、何も増えていない気がする。
周りが成長していくほど、自分だけ置いていかれているような気がしてくる。
そのとき、机の上に置いていたスマホが震えた。
赫【桃くーん、今日の配信内容なんだけど、赤組パーティーでいいかな】
画面に表示された赫の名前。
桃「そっか、今日赫と配信か」
今日は赫と二人。
いつもなら楽しみなはずなのに、今は胸の奥が重かった。
赫はきっと、いつも通り上手に話す。
コメントもたくさん拾って、場を盛り上げて、自然に笑わせる。
その隣に、自分がいる。
桃「赫の引き立て役になるのかな」
口にしてから、胸がさらに苦しくなった。
そんなこと、思いたくない。
赫が悪いわけじゃない。
むしろ、赫のことは好きだ。
頑張っているのも知っている。
だからこそ、自分との差を感じてしまう。
桃「なんかイライラするし……しんどいし、辛いし」
机を軽く叩く。
うまく息ができない。
何をしても、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
どうしたら、この気持ちが止まるんだろう。
そう思いながら、桃は薬に頼ってしまった。
規定以上の量を手にしてしまい、止めようとする気持ちもあったのに、うまく手放せなかった。
気持ち悪い。
ふわふわする。
身体の感覚が遠くなっていく。
そんな感覚が桃に取り付き、しばらく動けないまま、桃は俯いていた。
その後、桃はひとりで抱え込んでしまい、誰にも助けを求めないまま意識を手放してしまった。
――――――――――
その頃。
赫は自分のスマホを見つめていた。
さっき送ったメッセージに、まだ既読がついていない。
赫「……」
いつもなら、遅くても何かしら返ってくる。
スタンプ一個だったり、
「おっけー」 みたいな短い返事だったり。
忙しければ、「あとで返す」と送ってくることもある。
けれど、今日は何もない。
赫「なんか…あったのかな」
もう一度メッセージを送る。
赫【桃くん、大丈夫?】
それでも既読はつかなかった。
時計を見る。
配信まで、そこまで時間があるわけじゃない。
赫「寝てるのかな……」
最初はそう思った。
昨日遅くまで作業していたのかもしれない。
疲れて寝落ちしている可能性もある。
けれど、何となく嫌な感じがした。
赫はもう一度、桃とのトーク画面を確認する。
やっぱり、既読はついていない。
電話をかけてみる。
しばらく呼び出し音が続いた。
赫「……出ない」
一度切って、もう一度かける。
それでも出ない。
赫「桃くん……?」
普段なら、ここまで気にしなかったかもしれない。
でも今日は、胸騒ぎが消えなかった。
少し迷ったあと、赫は桃のいる場所へ向かった。
――――――――――
コンコン。
赫「桃くーん?」
返事がない。
赫「入るよー?」
もう一度声をかける。
それでも、何も聞こえない。
赫はそっと中へ入った。
部屋は静かだった。
いつもなら聞こえてくる音もない。
赫「桃くん?」
返事を待ちながら、部屋の中を見回す。
そこで、ようやく桃の姿が見えた。
赫「……桃くん?」
寝ているようにも見える。
けれど、何かがおかしい。
赫は慌てて近くまで行き、桃の名前を呼んだ。
赫「桃くん、聞こえる?」
反応がない。
赫「桃くん。赫の声、聞こえる?」
肩を強く揺さぶるのではなく、落ち着いた声で何度も呼びかける。
すると、ほんの少しだけ桃が動いた。
桃「……はぃ……しん……」
赫「桃くん?」
かすかな声が聞こえた。
それだけで、赫は少しだけ息をつく。
けれど、桃の様子を見ていると、安心してはいけないことも分かった。
顔色が悪い。
声も、いつもの桃とは全然違う。
赫「赫の声、聞こえてる?」
桃「……ん」
赫「うん。返事してくれてありがと」
桃「……だいじょぶ……」
かすかな声。
赫は一瞬、言葉を止めた。
大丈夫。
そう言っているのに、全然大丈夫そうじゃない。
赫「そっか。でも、今は大丈夫じゃなくてもいいよ」
桃「……」
赫「赫がここにいるから。まずはそれだけ覚えてて」
配信のことなんて、今はどうでもいい。
桃のそばにいることだけを考える。
赫「今、代わりの人を探してるからね。配信のことは気にしなくていいよ」
その言葉で、桃がゆっくり目を開ける。
桃「ぁ……赫… 」
赫「うん。俺だよ」
桃「ごめん……全然大丈夫。配信準備しよ」
起き上がろうとする。
けれど、身体に力が入らない。
赫「無理に起きなくていいよ。そのまま横になってて」
桃「でも、今日……赫と配信……」
赫「うん。楽しみにしてたよ」
桃「じゃあ……」
赫「でも、今は桃くんのほうが大事」
桃「……」
赫「配信は誰かに任せられるけど、桃くんの代わりはいないから」
桃「大丈夫だって……」
赫「うん。そう言いたくなるよね」
赫「でも、今は俺に任せて。大丈夫かどうかを決めるのも、頑張るのも、あとでいいから」
その言葉に、桃は何も返せなくなった。
赫は怒っていない。
責めてもいない。
ただ、当たり前みたいに桃のそばにいる。
それが、逆に怖かった。
年下のメンバーに、こんなふうに気を遣わせるなんて。
リーダー失格。
社長失格。
そんな言葉が頭の中を覆っていく。
桃「俺だって……頑張ってるのに」
声が震える。
赫「うん。頑張ってるよ」
桃「俺だって……」
赫「分かってる」
桃「でも、何にもできなくて」
赫「何にもできない人は、こんなにみんなのこと考えないよ」
桃「……」
赫「桃くんが気づいてないだけで、俺たちは何度も桃くんに支えてもらってる」
桃「でも……俺は……」
赫「今は、できてないことの話をしなくていいよ」
桃「……」
赫「頑張ってるって言っても信じられないなら、赫が覚えてるから。桃くんが頑張ってきたこと、がちゃんと覚えてる」
その一言で、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
知ってる。
覚えてる。
その言葉が、今はどうしようもなく嬉しかった。
赫は桃が握っていたスマホをそっと預かる。
赫「これ、俺が持ってるね。今は連絡も配信も見なくていいよ」
桃「でも……」
赫「大丈夫。必要なことは俺がやるから」
桃「……ごめ……」
赫「謝らなくていいって言っても、今は難しいよね」
桃「……」
赫「じゃあ、謝る代わりに息を吐いてみよ。ゆっくりでいいから」
桃「……できない」
赫「できなくてもいいよ。俺と一緒にやってみるだけ」
赫は桃の様子を見ながら、ゆっくり息を吐いた。
赫「ふー……って。ほら、急がなくていい」
桃「……っふ……」
赫「うん、上手」
桃「子供じゃないし……」
赫「知ってるよ。でも、今は甘やかされていい日」
桃「……そんな日、あるの?」
赫「あるある。少なくとも今日は、赫がそう決めた」
桃「赫が決めるの……?」
赫「うん。桃くんが自分に厳しすぎるから、今日は赫が代わりに甘やかす」
桃「……」
赫「だから、今だけは赫の言うこと聞いて」
桃「……分かった」
小さな返事だった。
それでも、赫には十分だった。
赫「ありがと。じゃあ、もう一つだけ」
桃「なに……?」
赫「自分のこと、責めるのやめよ」
桃「でも……」
赫「じゃあ、赫がしんどいって言ったら、赫のこと責める?」
桃はしばらく黙っていた。
そして、ゆっくり首を横に振る。
そんなこと、するわけがない。
赫がしんどいなら、きっと心配する。
休んでほしいと思う。
頑張らなくていいって言う。
それなのに、自分には同じ言葉をかけられない。
赫「でしょ。桃くんが赫にしてくれることを、桃くん自身にもしてあげて」
桃「……難しい」
赫「うん。すぐにはできなくていいよ」
桃「できないかもしれない」
赫「そのときは、赫が何回でも言うから」
桃「何回でも?」
赫「何回でも。桃くんが信じられるまで」
桃「……赫」
赫「桃くんは、自分のことを責めなくていい。今は休んでいいし、誰かに頼っていい」
桃「……っ」
その瞬間、張り詰めていたものが切れた。
桃「赫……」
赫「うん」
桃「俺……」
言葉にならない。
何を言えばいいのかも分からない。
ただ、涙だけが止まらなくなった。
桃「俺、頑張ってるのに……」
赫「うん。頑張ってる」
桃「みんなみたいに……できなくて……」
赫「できないことがあっても、桃くんの頑張りがなくなるわけじゃないよ」
桃「俺だけ……何にもできなくて……」
赫「赫には、何にもできないようには見えないけどね」
桃「……でも……」
赫「うん。今はそう思っちゃうよね」
桃「ごめ……ごめん……」
赫「謝らなくていいよ。泣いてていいから」
桃「だって……」
赫「泣くのも、頼るのも、迷惑じゃないよ」
桃「……っ、赫……」
名前を呼びながら、子供のように泣いた。
ずっと我慢していたものが、涙になって溢れていく。
赫は何も急かさなかった。
ただ、桃のそばにいた。
背中をゆっくり撫でながら、桃の呼吸に合わせて声をかける。
赫「大丈夫。ここにいるよ」
桃「……うん」
赫「今は何も決めなくていい」
桃「……うん」
赫「配信のことも、仕事のことも、明日のことも、全部あとでいい」
桃「……うん」
赫「今日は、赫に預けて」
桃「……ありがと」
赫「うん。ちゃんと聞こえた」
桃「赫……ありがと……」
赫「どういたしまして」
桃は目を閉じる。
まだ何も解決していない。
明日になれば、また周りと自分を比べるかもしれない。
また自分を責めるかもしれない。
それでも今だけは。
ほんの少しだけ。
自分を許してもいい気がした。
頑張れない自分も。
弱い自分も。
何もできないと思ってしまう自分も。
全部、今はそのままでいい。
桃「……大丈夫だよ」
誰かに言ってもらうんじゃなくて。
今度は、自分自身に向けて。
桃「俺……大丈夫」
赫「うん。大丈夫」
桃「……赫が言うと、ちょっと信じられる」
赫「じゃあ、これからも言うね」
桃「……うん」
赫「桃くんは大丈夫。ひとりで頑張らなくていいよ」
小さく呟いた桃の声に、赫はそっと返した。
その温かさが、今は何より嬉しかった。
少しだけ、自分を許せた気がした。
大丈夫だよって、自分に言えた気がした。
ありがとう、赫。
水
今朝腕を切っちゃったけど、見えてないかな。
そんなことを、会議中になって急に気にし始める。
カーディガン、もう少し小さなサイズにすればよかった。
袖が少し余っているせいで、手を動かすたびにずれてしまう。
桃「こん時赫と黒のアレンジ入れたら綺麗そうやない?」
青「お、ええやん。そこちょっと雰囲気変わるな」
桃「確かに確かに、ここにアレンジ入れよっか」
そう言いながら、机の上に置いていたペンに手を伸ばす。
その瞬間。
コトン、と音を立ててペンが床へ落ちた。
桃「ぁ」
しゃがんで拾おうと手を伸ばす。
袖が少しだけずれる。
見えた。
ほんの一瞬。
自分にしか分からないくらいの、ほんの少し。
桃「……」
すぐに袖を引っ張って、何事もなかったようにペンを拾う。
新しいカーディガン買わなきゃ。
そんなことをぼんやり考えながら、サッと立ち上がった。
黒「アレンジもええけど、赫のゾンビボイスでもいいかもな」
赫「あー確かに確かに、いい感じに合いはするよね」
桃「今回ちょっとここら辺寂しいし、全メンバーいい感じにちょっとしたソロみたいなの入れたいね」
白「めっちゃええやん。ここやんな?」
桃「そうそう、ここ」
指で画面をなぞる。
いつも通り。
ちゃんと話してる。
ちゃんと笑ってる。
だから、大丈夫。
そう思わせるように。
白「じゃあ俺ここ考えとくわ」
桃「お願いー」
黒「俺もなんか考えとく」
桃「よろしくー」
そんな会話が続いていた。
けれど。
青「…水大丈夫か?顔色悪いけど」
水「えぁ……う、うん。大丈夫」
青「ほんまに?」
水「うん。ちょっと眠いだけ」
白「体調悪いんか??いつもより静かやし」
水「大丈夫大丈夫」
その言葉を聞いて、なんとなく胸がざわついた。
自分と同じこと言ってる。
大丈夫。
平気。
何でもない。
その言葉だけで、全部を隠せると思ってた。
桃「もう終わろっか。ソロそれぞれで考えてきてーって感じで」
黒「ええと思う」
白「じゃあ今日はここまでやな」
桃「はい、解散ねー」
椅子が引かれる音。
机の上を片付ける音。
それぞれが立ち上がっていく。
青「次の会議って来週の月曜やんな」
桃「そー……だね。そこが最短になるもんね」
青「お前も休めよ」
桃「…んー、努力します」
青「努力じゃなくて休め」
桃「はいはい」
そう言って笑う。
青は少しだけ呆れたような顔をしてから、桃の頭をぽん、と軽く叩いた。
青「ちゃんと寝ろよ」
桃「青もね」
青「俺はええねん」
桃「よくないでしょ」
青「はいはい」
そう言って、青も部屋を出ていった。
扉が閉まる。
静かになった部屋。
桃「……」
休める時間、余裕
そんなものがあれば、とっくのとうに休んでるよ。
黒「……水、顔色悪なったんいつやろ」
白「俺も気づかんかった」
黒「さっきより明らかに悪いやろ」
桃「ね。気づいたらだいぶ顔色悪かった」
白「桃ちゃんがペン落としたぐらいから静かやったな」
桃「ぇ、?」
一瞬、心臓が跳ねた。
白「いや、なんか急に静かになったなーって」
桃「あー……そう?」
黒「なんかあった?」
桃「何もないって」
笑ってみせる。
黒「ほんまに?」
桃「ほんまほんま」
黒「ならええけど」
そのとき黒が時計を見る。
黒「あ、やべ。そろそろ白と筋トレやわ」
桃「おけおけ、行ってきな」
白「水君よろしくなー」
水「ん、行ってらっしゃい」
黒「桃もちゃんと帰れよ」
桃「はいはい」
白「また来週なー」
桃「また来週ー」
二人が出ていく。
扉が閉まる。
残ったのは、少し気まずいような。
薄暗い空気。
水「……」
桃「……」
水「ねぇ桃ちゃん」
桃「んー?」
水「ちょっと話そ」
桃「ごめん、今からミーティングあってさ」
水「嘘」
桃「……」
水「今、そんな予定ないでしょ」
桃「いやいや、あるって」
水「誤魔化さないでいいよ」
桃「……何を?」
水「見えちゃったから」
桃「……」
一瞬だけ、笑顔が固まる。
桃「何言ってんのー?」
水「腕」
桃「…」
水「さっき見えちゃった」
桃「あー」
わざと軽く笑う。
桃「猫に引っ掻かれちゃって」
水「……なんでそういつも嘘つくの?」
桃「嘘じゃないって」
水「なんで、なんで話してくんないの?」
桃「ちょ、落ち着いて。大丈夫だから」
水「大丈夫じゃない人に大丈夫って言われても信用できない」
桃「……」
水「ずっとそうやって笑ってるじゃん」
桃「笑ってた方がいいでしょ」
水「そういうことじゃない」
桃「…」
水「僕らに迷惑かけたくないとか、心配させたくないとか、そういうの全部分かるよ」
桃「分かんないでよ」
水「え?」
桃「……何でもない」
水「桃ちゃん」
桃「ほんと大丈夫だから」
水「じゃあ、手の話も込みで教えてよ」
桃「ありがとう」
水「……」
桃「大丈夫だよ」
水「じゃあ青黒呼ぶね」
桃「ちょ、だめだめ」
水「なんで?」
桃「大事にしたくないから」
水「大事にしないといけないことじゃないの?」
桃「…」
水「誰にも言わないから」
桃「…」
水「お願い」
桃「……ちょっとしんどくなっただけ」
水「うん」
桃「突発的に、なんか……やっちゃっただけ」
水「……」
桃「だから」
言葉が詰まった
また、自分と、メンバーに嘘つこうとしてる
桃「……もう大丈夫」
水「嘘だ」
桃「…」
水「顔見たら分かるよ。嘘かほんとかぐらい」
桃「……言ったって、何か変わる?」
水「変わるかもしれないじゃん」
桃「変わんないよ」
水「そんなの分かんない」
桃「何も変わんないよ」
水「僕は変わる」
桃「……」
水「何も言われず、急に目の前から消えちゃうのが嫌なの」
その言葉に、桃の表情がほんの少しだけ揺れる。
桃「……見捨てられたくないもん」
水「うん」
桃「だから言いたくない」
水「うん」
桃「弱いって思われたくないし」
水「うん」
桃「めんどくさいって思われたくない」
水「……うん」
桃「だから、もういいの」
水「よくないよ」
桃「……」
水「絶対見捨てないから」
桃「……そんなの」
水「うん」
桃「……信じられない」
水「今すぐ信じなくてもいいよ」
桃「……」
水「でも、僕はそう思ってる」
桃「……ありがとう」
そう言って、桃は立ち上がった。
水「桃ちゃん?」
桃「ごめん、ちょっと行ってくる」
水「どこに?」
桃「……トイレ」
水「分かった」
扉を開ける。
背中に、水の視線を感じる。
なんで。
なんでバレちゃったんだろう。
モヤモヤする。
イライラする。
怖い。
心配されるのが怖い。
見捨てられるのが怖い。
でも、何より。
自分のことを見られるのが怖かった。
そのまま一人になれる場所へ逃げ込む。
頭の中がぐちゃぐちゃになっていく。
さっきの水の言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返される。
『絶対見捨てないから』
そんなの、嘘だ。
そう思おうとする。
でも。
完全には否定できなかった。
そのことが、余計に苦しかった。
色んな気持ちが混ざりながら風邪薬を取り出す。
絶対規定以上だとわかるほどの薬を手に取り、水で流す
しばらくして、スマホが震える。
水【詰めちゃってごめん。今日のことは誰にも言わないし、無理に話せとは言わない。でも話しても見捨てることはまずないし、言えるなら教えてほしいな】
画面を見つめる。
返事をしなきゃ
そう思うのに、指が動かない。
揺らいでしまった自分が嫌だった。
助けてほしいと思ってしまった自分が嫌だった。
誰かに気づいてほしかったくせに、気づかれたら逃げたくなった自分が嫌だった。
スマホを握りしめる。
桃「……」
何度も文字を打っては消す。
そして。
桃【助けて】
送信ボタンを押した。
その直後。
力が抜ける。
視界がぼやけていく。
最後に見えたのは、画面に表示された自分の送った短い言葉だった。
目が覚めたのは、喉の違和感だった。
桃「……ん」
ぼんやり目を開ける。
どこにいるのか、一瞬分からない。
水「うぉっと……雑巾どこだっけ……」
聞き慣れた声。
桃「……水っち」
水「ぁ、起きた?」
水がこちらを見る。
その顔が見えた瞬間、桃は少しだけ安心した。
水「ちょっと待ってね。口濯ぎたいよね」
桃「……うん」
水「お水ここ置いとくから」
桃「……ごめ」
水「それ禁止」
桃「……」
水「今はごめん禁止ね」
桃「でも」
水「僕が欲しいのはごめんじゃなくて」
少し間を置いて。
水「弱音とか、本音だよ」
桃「……」
その言葉を聞いた瞬間、目の奥が熱くなる。
桃「…ごめ」
水「だからそれ禁止だって」
桃「……っ」
水「そんな顔しないの」
桃「だって」
水「うん」
桃「迷惑、かけた」
水「かけたっていいよ」
桃「……」
水「迷惑かけない人間なんていないよ」
桃「…でも」
水「でもじゃないの」
そう言って、水が桃の頭をそっと撫でる。
水「もぉー、そんな泣かないの」
桃「……泣いてない」
水「泣いてるやん」
桃「泣いてないって……」
水「かっこいい顔がもったいないよ」
桃「……そんなこと言う?」
水「言うよ」
桃「……ばか」
水「はいはい、ばかでいいです」
桃「……」
水「ちゃんとここにいるから」
桃「……うん」
水「今日はもう頑張らなくていいよ」
水「話したくなったら話して」
桃「……うん」
水「話したくないなら、それでもいい」
桃「……うん」
水「でも一人で全部抱え込むのだけは、やめよ」
桃「…できるかな」
水「できなくてもいいよ」
桃「……」
水「一回で全部できなくていい」
桃「…水っち」
水「ん?」
桃「ありがとう」
水「うん」
桃「……助けてって言えてた?」
水「言えてたよ」
桃「…そっか」
水「ちゃんと届いてた」
桃「……よかった」
そう呟いた途端。
また涙が落ちた。
今度は隠そうとしなかった。
水「ほら」
桃「……ん」
水「大丈夫。ここにいるから」
桃「…うん」
その言葉だけを、今は信じてみようと思った。
白
ライブ後の楽屋に、笑い声が重なる。
公演後の重大発表について、話が折り重なる
そんな中、1人桃だけそんな楽しい会話にも真面目な会話にも入れなかった
桃「トイレ行ってくるわー」
そう言いながら部屋を抜け出す
何度もバタバタしているスタッフさんとすれ違う
その度、お疲れ様です。と律儀にお辞儀までして横を通っていく
脳内で、何度もフリを間違えたことがフラッシュバックする
早足でトイレまで行き、個室に籠る
桃「……だめだなぁ」
そう言いながら、少し錆びたカッターをポケットから取り出す。
やっとツアーが終わり何も考えず切ることができる
白【大丈夫?】
そんな通知が目に入る
大丈夫なわけなくて、なんて考えながら何度も腕の上でカッターを転がす。
桃「……っ」
別にグループに俺入らないのではないか。
いつか切り捨てられるんじゃないか。
そんな不安が積もる
桃「ゃだよ……」
白「…どーしたん。何が嫌なん」
想定外の聞き覚えのある声に身体が震える。
知られてしまえば飽きられてしまう。
桃「なんでもない」
白「なんでもない人はそんな震えた声でなんでもないなんか言わんよ」
桃「ぉれ……リアイベもう」
なんだか、喉から出てこない
嫌だって思ってるのに
口から出てこない
白「……うん」
桃「もう、出たくない」
やっと出てきた言葉は、
思っていたよりずっと小さかった
白「……なんで?」
桃「わかんない」
本当はわかってる
歌うのが怖い
踊るのが怖い
みんなの前に立つのが怖い
失敗するのが怖い
でも、そんなこと言ったら
きっと面倒くさいって思われる
桃「……俺、今日も全然できんかったし」
桃「フリも間違えたし……」
白「それだけ?」
桃「……」
答えられない
白「桃ちゃん」
名前を呼ばれて、
肩が跳ねる
桃「……なに、白ちゃん」
白「ドア、開けて」
桃「やだ」
白「なんで?」
桃「……見られたくない」
白「そっか」
無理に開けさせようとはしない
ただ、トイレのドアの前に
しゃがみ込む気配だけがした
白「じゃあ、開けんでええよ」
白「でも、俺には言って」
桃「……何を」
白「怖いなら、怖いって」
桃「……言ったら?」
白「うん」
桃「嫌いにならん?」
一瞬だけ、
沈黙が落ちた
白「ならんよ」
桃「……ほんま?」
白「ほんまやって」
桃「でも俺、めんどくさいやん」
白「桃ちゃんがそう思ってるだけやろ」
桃「……」
白「今日失敗したからって、桃ちゃんがここにおられんようになるわけやないし」
桃「……でも」
白「でも、やなくて」
少しだけ困ったように笑う声が、
ドア越しに聞こえる
白「今はもう、頑張らんでええよ」
桃「……っ」
その言葉を聞いた瞬間、
張りつめていたものが
ぷつんと切れた気がした
桃「……怖かった」
白「うん」
桃「ずっと、怖かった」
白「うん」
桃「みんなに追いつけんくなったら……俺、いらんくなるんかなって」
桃「いつか、切られるんかなって」
声がどんどん震えていく
桃「だから、ちゃんとせなって思って……」
白「うん」
桃「でも、もう……疲れた」
白は何も急かさなかった
ただ、桃が言葉を出し切るまで
ドア越しに黙っていた
白「桃ちゃん」
桃「……ん」
白「そんなの、今は考えんで大丈夫やよ。リアイベのことも、これからのことも」
桃「でも……」
白「自分のこと急かさんでええから」
桃「……白ちゃん」
白「ん?」
桃「俺、どうしたらいいんかな」
白「どうもせんでええよ」
桃「……」
白「今はただ、ここにおったらええ」
桃「……そっか」
白「うん」
桃は俯いたまま、
小さく息を吐いた
ドア一枚隔てた向こうに、
白がいる
触れられてはいないのに、
そこにいるのがわかる
楽屋の方から、 また誰かの笑い声が聞こえる
さっきまでなら、 その声すら怖かった
でも今は
隣に誰かがいる
それだけで、
ほんの少しだけ呼吸がしやすかった
白「桃ちゃん」
桃「……ん」
白「もうちょい、ここにおってもええ?」
桃「……うん」
白「ありがとう」
また、静かになる
しばらくして、
桃はドアに手を伸ばした
白「桃ちゃん?」
桃「……俺、自分で開ける」
白「うん」
白はそれ以上、
何も言わなかった
桃はゆっくり息を吸って、
自分で、トイレのドアを開けた。
コメント
3件
やばい😭😭 これ青黄もめっちゃ楽しみになる😭
メンバーそれぞれの桃への向き合い方が違うのに、どのシーンも「大丈夫じゃなくていい」って伝えてくれるのが沁みました。赫は冷静な寄り添い方、水はまっすぐな言葉、白はドア越しに待つ距離感——どれも違うのに、どれも正解に思える。桃が最後に自分でドアを開けたところ、胸が熱くなりました。
♔.゚ 𝕊
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