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#初投稿
あや
30
もし桃が自傷行為をしていたら
病み系です。
今回は後半の5,6サポートです
文字数合わせて5000⬆️
青
最近、何にもやる気が起きない。
ライブも、歌みたも、会議も。
前なら楽しみにしていたはずなのに、今は予定表に並んでいるのを見るだけで、身体が重くなる。
「やらなきゃ」
そう思うことはできる。
でも、動けない。
おまけに、気分の急な変化がすごい。
さっきまで普通に笑っていたのに、急にどっとしんどくなる。
かと思えば、何事もなかったみたいに少し楽になる。
でも、調子がいい時ほど怖かった。
――どうせまた落ちる。
そう思ってしまうから、楽しいことすら素直に楽しめない。
桃「……なんでこうなったんだろ」
誰もいない部屋で、小さく呟く。
メンバーに相談しようと何度も考えた。
何度もメッセージを開いた。
青に、
『ちょっと相談したいことがある』
と打ったこともある。
けれど、送れなかった。
今はツアー中。
みんなだって疲れている。
自分のことで時間を取らせるのは申し訳ない。
そう思って、いつも画面を閉じた。
今日もそうだった。
桃「……」
机の上に置いたスマホを見る。
何も通知は来ていない。
部屋は静かだった。
しんどい。
誰かに言いたい。
でも、言えない。
その気持ちが何度も頭の中を回って。
桃はまた、一人で抱えることを選んでしまった。
自分を傷つけることで、ほんの一瞬だけ何も考えなくて済む。
それが良くないことなのは分かっている。
やめたいと思っている。
それなのに、苦しくなると同じことを繰り返してしまう。
終わったあと。
桃「……また、やった」
赤くなった腕をみて、
後悔する。
怖くなる。
でも、誰にも言えない。
桃「……隠さないと」
そう呟いて、急いで身支度を始めた。
その時だった。
スマホが震える。
青【体調大丈夫か?一応今日の10時から会議やけど……】
桃「……え」
時計を見る。
10時45分。
完全に遅刻していた。
桃「嘘……」
慌てて返信する。
桃【ごめん、全然大丈夫!!ちょっと待ってて、すぐ行く】
送信。
すぐに既読がつく。
青【了解。気をつけて来てな】
怒っていない。
それなのに、胸が苦しくなる。
桃「……本当に?」
自分でも分からない。
急いで上着を手に取る。
半袖の上から羽織る。
袖を引っ張って、手元まで隠す。
桃「……これなら大丈夫」
鏡を見る。
いつも通り。
少なくとも、そう見える。
だから大丈夫。
そう思い込む。
でも、頭の中では別のことばかり考えていた。
もし行った時、怒っていたら。
もし呆れた顔をされたら。
もし、「またかよ」って思われていたら。
考え始めると止まらない。
きっとみんな普通に迎えてくれる。
それも分かっている。
でも、
――もしかしたら。
その可能性だけが、ずっと頭から離れなかった。
スタジオの扉を開ける。
桃「……おはよう」
青「お、来た」
黒「おはよ」
桃「ごめん。寝坊した」
青「大丈夫か?」
桃「うん。大丈夫」
反射的に答える。
青が一瞬だけ桃を見る。
けれど、何も言わなかった。
桃は空いている椅子に座った。
会議が始まる。
「明日の入り時間は――」
「ここ、もう一回確認しよう」
メンバーの声が飛び交う。
桃も頷く。
桃「うん、それで大丈夫」
声も普通。
笑顔も作れる。
ちゃんと会議にも参加できる。
だから、大丈夫。
そう思っていた。
けれど。
桃は何度も袖を気にしていた。
少しでもずれそうになると、すぐに引っ張る。
青「桃」
桃「……ん?」
青「寒い?」
桃「え?」
青「さっきからずっと袖気にしてるから」
桃「ああ……うん。ちょっと寒いだけ」
青「そう?」
桃「うん」
笑う。
青はそれ以上聞かなかった。
けれど、視線だけが一瞬桃の袖に落ちた。
会議が終わる。
桃はすぐに荷物をまとめ始めた。
早く帰りたい。
これ以上見られたくない。
桃「じゃあ、俺先帰るね」
黒「お疲れ」
桃「うん」
立ち上がる。
その瞬間、少し身体が揺れた。
黒「桃?」
桃「……え?」
黒「今、ふらついた?」
桃「いや、寝不足なだけ」
黒「そっか」
桃「うん。大丈夫」
また、その言葉。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
言っているうちに、自分でも本当にそうなのか分からなくなってくる。
翌日。
ライブ当日。
桃はステージ袖に立っていた。
歓声が聞こえる。
いつもなら、その音を聞くだけで気持ちが切り替わる。
でも今日は、胸が重かった。
桃「……大丈夫」
小さく呟く。
その時。
青「桃」
桃「ん?」
青「昨日のことなんだけど」
桃「……昨日?」
青「やっぱり、終わってから話そう」
桃「……」
嫌な予感がした。
桃「何?」
青「終わってからでいい」
桃「……うん」
ライブが始まる。
桃は笑う。
歌う。
話す。
いつも通りに見えるように。
ライブが終わった。
楽屋に戻る。
黒「お疲れ」
桃「お疲れ」
黒「今日よかったな」
桃「本当?」
黒「うん」
桃「……よかった」
笑う。
けれど、どこかぎこちない。
青はそんな桃を見ていた。
そして。
青「桃」
桃「ん?」
青「ちょっといい?」
桃「……うん」
二人で楽屋の外に出る。
扉が閉まる。
静かになる。
青「昨日のこと」
桃「……うん」
青「遅刻したことは、もういい」
桃「……」
青「俺が気になってるのは、別のこと」
桃「何?」
青「最近、ずっと袖を気にしてるよな」
桃「……」
青「昨日も今日も」
桃「……寒いだけだよ」
青「昨日、家でもずっと長袖やった?」
桃「……」
桃の顔が固まる。
青「ごめん。聞き方悪かった」
桃「……」
青「でも、何か隠してるのは分かる」
桃「……何もないよ」
青「桃」
桃「……本当に」
青「じゃあ、なんでそんな顔するん?」
桃は答えられなかった。
俯く。
青は少し距離を取って、静かに言った。
青「無理に見せろとは言わない」
桃「……」
青「話したくないなら、今は話さなくてもいい」
桃「……」
青「でも、一人で抱えてるなら」
桃の目が揺れる。
青「俺には言ってほしい」
桃「……」
しばらく沈黙が続いた。
桃は袖を握りしめる。
そして、ようやく口を開いた。
桃「……最近」
青「うん」
桃「自分を傷つけてる」
青「……」
桃「……やめたいんだけど」
声が震える。
桃「しんどくなると、またやってしまって」
青「うん」
桃「終わったあとに後悔するのに……また繰り返して」
桃は俯いたまま続ける。
桃「だから、袖で隠してた」
青「……そっか」
桃「バレたくなかった」
青「うん」
桃「引いた?」
青「引かないよ」
桃「……怒ってない?」
青「怒ってない」
桃「……本当に?」
青「本当」
桃の目から涙が落ちる。
桃「……よかった」
その一言が、ひどく小さかった。
青「でも、一つだけ約束してほしい」
桃「……何?」
青「またしんどくなった時、一人だけで抱えんで」
桃「……」
青「『助けて』って言うのが無理なら、『今日ちょっとしんどい』だけでもええ」
桃「……言えるかな」
青「最初から上手く言えなくていい」
桃「……」
青「今日みたいに、途中まででもいいから」
桃はゆっくり頷いた。
桃「……うん」
青「それでいい」
少し沈黙が流れる。
桃「……俺、みんなに迷惑かけたくなかったんだ」
青「うん」
桃「ツアー中だし。みんな大変なのに、自分のことで止めたくなくて」
青「でもな」
青は少しだけ笑った。
青「桃が一人で限界になるまで黙ってる方が、俺は嫌や」
桃「……」
青「メンバーなんやから、頼っていいよ」
桃は何度も頷いた。
桃「……ごめん」
青「謝らんでいいって」
桃「……ありがとう」
青「うん」
桃は涙を拭った。
全部が解決したわけじゃない。
それでも。
今まで一人で抱えていたものを、初めて誰かに言葉にできた。
桃「……明日も、ちゃんと笑えるかな」
青「笑えなくてもいいんちゃう?」
桃「……え?」
青「無理していつも通りじゃなくてもいいってこと」
桃「……」
青「しんどい日は、しんどいままでいいよ」
桃は少しだけ笑った。
桃「……それ、難しいな」
青「じゃあ練習やな」
桃「何それ」
青「『今日はしんどいです』って言う練習」
桃「……ふふ」
久しぶりに、自然な笑い声が出た。
青「ほら、言えた」
桃「……ほんとだ」
青「今日はそれで十分」
二人で楽屋へ戻る。
まだ不安はある。
明日のことも分からない。
それでも桃の中には、ほんの少しだけ違う選択肢ができていた。
苦しくなった時に、一人で抱え込むだけじゃない。
誰かに、
「しんどい」
と言うこともできる。
そのことを、桃は今日初めて知った。
黒
最近、桃には変な癖がある。
黒がそれに気づいたのは、ほんの些細なことだった。
会議中。
桃「じゃあ、この部分は俺がまとめとくね」
青「お、助かるわー」
桃「うん」
いつも通り。
笑って、頷いて、みんなの話を聞いている。
だけど。
桃の手だけが、ずっと袖口を握っていた。
ぎゅっと。
指先が白くなるくらい。
黒「……」
一瞬だけ視線を落とす。
けれど、桃はすぐに手を離して、何事もなかったようにパソコンへ向き直った。
黒「気のせいか」
そう思った。
そのときは、それだけだった。
数日後。
収録が終わったあと。
桃「お疲れー」
青「桃、今日このあと暇?」
桃「んー、どうやろ」
そう言いながら笑う。
でも。
まただ。
袖口を握っている。
今度は、さっきより強く。
黒「桃」
桃「ん?」
黒「……なんでもない」
桃「なにそれ」
桃が笑う。
黒も笑って返した。
でも、頭の片隅から離れなかった。
それから、何度も見た。
桃が疲れているとき。
失敗したとき。
誰かに褒められたあと。
逆に、何も起きていないようなときにも。
決まって、手を隠す。
袖を握る。
視線を落とす。
そして、少しすると何事もなかったように笑う。
黒「……」
いつからだろう。
それが気になって仕方なくなったのは。
ある日の帰り。
メンバーが先に帰って、部屋には黒と桃だけが残っていた。
桃は荷物をまとめている。
桃「黒、先帰ってええよ」
黒「桃は?」
桃「俺もうちょいおる」
黒「……そっか」
桃「うん」
黒は立ち上がった。
そのままドアへ向かう。
でも。
数歩歩いたところで、足を止めた。
黒「なあ、桃」
桃「ん?」
黒「最近、無理してへん?」
桃の手が止まった。
ほんの一瞬。
でも、黒には分かった。
桃「……してないよ」
笑っている。
いつもの笑顔。
黒「ほんま?」
桃「ほんまほんま」
黒「そっか」
桃「うん」
黒はそれ以上聞かなかった。
桃が話したくないなら、無理に聞くべきじゃない。
そう思った。
ただ。
ドアを閉める直前。
もう一度だけ振り返った。
桃は、また袖口を握っていた。
それから少し経った夜。
黒は忘れ物を取りに戻ってきた。
廊下を歩いていると、桃の部屋の前で足が止まる。
中から、物音がした。
黒「桃?」
返事がない。
もう一度呼ぶ。
黒「桃、いる?」
しばらくして。
桃「……いる」
声が小さい。
黒「入ってええ?」
桃「……ちょっと待って」
その声で、黒は何かがおかしいと思った。
しばらく待つ。
けれど。
中から聞こえてくるのは、落ち着かない物音ばかりだった。
黒「桃」
桃「……なに」
黒「大丈夫?」
桃「大丈夫」
また、その言葉。
黒は静かにドアを開けた。
桃「……っ」
桃は慌てて何かを隠した。
しかし。
黒は少し赤色に染まったカッターが見えてしまった。
黒「……」
桃「見ないで」
黒「桃」
桃「お願い」
その声が震えていた。
黒はそこで、ようやく気づいた。
今まで見てきたあの癖。
袖を握ること。
手を隠すこと。
一人になろうとすること。
全部、繋がっていた。
黒「……自分のこと、傷つけてたん?」
桃「……」
答えがない。
でも、それが答えだった。
桃「……ごめん」
黒「なんで謝るん」
桃「だって……」
桃は俯いた。
桃「こんなの、知られたくなかった」
黒「……うん」
桃「知られたら、絶対嫌われると思った」
黒「嫌わんよ」
桃「……分かんないじゃん」
黒「分からんこともあるけど」
黒は少しだけ距離を取った。
桃が逃げなくて済むくらいの距離。
黒「少なくとも、今ここで桃を責めるつもりはない」
桃「……」
黒「しんどかったんやろ」
桃「……っ」
桃の目から涙が落ちる。
桃「……やめたいのに」
黒「うん」
桃「やめたいのに……しんどくなると、また……」
声が途切れる。
桃「自分でも、止められなくなる」
黒は黙って聞いていた。
桃「誰にも言えなかった」
黒「うん」
桃「言ったら、面倒くさいって思われるから」
黒「……」
桃「こんなことで、って思われるから」
黒「桃」
桃「……なに」
黒「それ、こんなことちゃうよ」
桃が顔を上げる。
黒「ずっと一人で抱えてたんやろ」
桃「……」
黒「それだけでも、しんどかったやろ」
桃は何も言えなかった。
ただ、何度も頷く。
黒「今日はもう、無理して普通にせんでええよ」
桃「……でも」
黒「俺、ここにおるから」
桃「……」
黒「話したくなったら話せばええし、話したくないなら黙っとってもええ」
桃「……黒」
黒「ん?」
桃「……嫌いにならない?」
黒「ならんよ」
桃「……ほんと?」
黒「ほんま」
しばらく沈黙が続いた。
やがて桃が、小さな声で言った。
桃「……もう少しだけ、ここにいて」
黒「ええよ」
その返事を聞いて。
桃はようやく、袖口を握っていた手を少しだけ緩めた。
黒は何も言わなかった。
ただ隣にいた。
桃が、自分で言葉を探せるようになるまで。
コメント
3件
更新されてた😭 やっぱ好きですー!
しんどいのに「大丈夫」って言い続ける桃の姿が、見ていて胸が締め付けられました。特に、青と黒がそれぞれのタイミングで気づきながらも、無理に引きはがそうとせず「隣にいる」スタンスを取るところが、この作品の優しさだと思います。桃がようやく「しんどい」と言えた瞬間、自然な笑い声が出たシーン、本当に良かった。伏線としての袖口の仕草も効いてましたね。