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キースとロスのパーティが、入れ替わりで戦闘に応じる中、隣では険しい顔を浮かべる者たちがいた。
「クソッ……バリアが張り直された……!!」
紅眼の力を使ったリゲルと、シャマの絶え間ない炎魔法により、見事に氷バリアを破壊したキャンディス率いる元風紀委員パーティ、順調にバリア破壊にまで持って行けたことで、アイクをキースの下へ向かわせたが、炎と草で起こせる “燃焼” でダメージを出すのは難しく、苦戦を強いられる内に再びバリアを張られてしまっていた。
「キャンディスさん、大丈夫です!! また、俺とシャマさんで破壊してみせます!!」
しかし、リゲルも慣れない紅眼の力により、無茶をしているような息切れを見せていた。
(もう一度バリアを破壊するのは簡単だろう……。だが、決め手がないと同じことの繰り返し……。リゲルの体力もそう何度も持たないだろう……)
キャンディスは、露骨に苦い顔を浮かべる。
「副委員長……」
その様子に、シャマも青褪めた顔を浮かべた。
「キャンディスお兄様」
「お前……」
そこに現れたのは、クラウド・ウォーカー。
「流石はキラのパーティ……悠々と一人を撃破して来たのか。しかし、私たちの相手は氷属性……。お前の攻撃は全て、無効化となるぞ……」
「何を言っているんですか、お兄様?」
クラウドは、こんな危機の中だと言うのに、ニコニコとキャンディスを見向く。
「僕がシールダー、お兄様が戦うんですよ」
「私が……戦う……? 私はシールダーだぞ……!」
“氷防御魔法・氷波陣”
すると、クラウドはリゲル、シャマ、キャンディスの三人に、氷のシールドを張った。
「覚えていますか……お兄様……。僕たちが小さい頃、お兄様の夢は、リーダーとして前衛で戦うことだった……!」
「そんなものは昔の話だ!! 私たちウォーカー家が前衛職になれることはない!! 私もお前も、シールダーとなっただろう!!」
そして、言い切った後に、キャンディスは俯く。
「それに……私はお前を裏切ってしまった……」
「ふふ……。やっぱりお兄様は、相も変わらずお優しいですね。眼鏡をしても、涙は誤魔化せませんよ?」
キャンディスは指摘されて気付く。
一筋の涙が、頬を伝っていることを。
「クラ! 私は雷魔法を授かった! 必ずや前衛剣士になって、兵士たちの前線で戦うんだ!」
「流石です、お兄様! 僕は……へへ、仲間を守れるシールダーがいいかな……なんて。この水色の髪……僕は水属性なのか氷属性なのか……どちらでしょうか……?」
クラウドに、まだ魔法が発動できない頃の話だ。
当時は貴族院の中でも、前衛のグランデ家、後衛のウォーカー家と、その横に出る者はいないと称されていた。
だが、子供というのは単純なもので、役割などあまり関係はなく、前線で果敢に戦う勇者に憧れた。
クラウドは当時から、女性的な見た目をしており、当時の幼いクラウドは、女子とよく間違われていた。
そして、気弱な性格から、貴族院の中でも虐めに遭遇することが少なくなかった。
「この貴族院の恥晒し! 堂々としろよ!」
「えへへ……」
他人を傷付けたくないと、人一倍に想ってしまうクラウドは、言い返しもせず、泣くこともせず、ニヤケ面でいつもやり過ごしていた。
自分が泣いてしまえば、問題になるかも知れない。そして、罪悪感に見舞われてしまうかも知れない。
子供ながらに、クラウドは大人びた考えを持っていた。
当時の私は、火種が映るのが怖くて、ただただ見て見ぬフリを続けていた。
八歳から十五歳までの七年間で通える魔法学校では、ほぼ人生が決める選択を迫られることになる。
それは、『役職』だった。
元王族のキラやカナリアなど、多くの将来有望株が囁かれる中、私は何の躊躇もなく前衛職を選んだ。
癖者揃いで、王族だった子供たちも、 “元王族” と揶揄され始める世代に直面していたが、自分には丁度良い刺激となっており、日々の精進、強くなる実感が楽しかった。
しかし、二年に上がり、クラウドが入学すると、その虐めの光景をまた目の当たりにすることになる。
「女男が来たぞ! お前、シールダーなんか選んで、まともなバリア張れんのかよ!」
(そうか。クラは血筋の通り、役職にはシールダーを選んだのか……。メイジくらいが良いと思ったが……)
「うっわー、俺はクラウドのパーティは絶対ごめん〜!」
「えっへへ……」
クラウドは、何も変わらずに笑みを溢していた。
しかし、強くなった実感を得た一年を過ごした私の方が変わっていた。
「私の弟に手を出すな、卑怯者共が」
「クラウドの兄貴だ」
「ああ、あの噂の?」
「噂?」
「 “シールダーから逃げた長男” 」
その言葉を聞いた途端、背筋が凍った。
そんな言われ方をしていた事実……ではない。
「取り消せ……」
クラウドから、膨大な氷魔力が放たれ、虐めっ子二人組の足元を確実に凍らせていたからだ。
「ク、クラ……?」
「お兄様への侮辱は許さない!!」
半狂乱になりながら、氷で尖った氷柱を作り、それを一人へと投げ付けようとするクラウド。
身体は、勝手に動いていた。
クラウドの投げ飛ばした氷柱は、虐めっ子の寸前で静止していた。
止めたのは、私が無自覚で発動した防御魔法だった。
「おい……シールダーやめたなんてデマじゃねぇか……。この歳であんなバリア張れる奴なんかいねぇよ……」
そう言うと、虐めっ子たちは去って行き、クラウドも怒ると何をしでかすか分からないと噂は直ぐに広まり、虐められることはなくなっていた。
それから、私もまた、クラウドを避けていた。
怖い、不気味だ、何を考えているか分からないなどの想いもあったが、一番は嫉妬だった。
止められたのはまぐれで、あの魔力量は、並大抵の訓練で得られるものではない。
元王族たちと張り合おうとする気持ちよりも、弟に越されることが怖くなり、次第に私もシールダーとなった。
「私は……お前から逃げていただけだ……」
「お兄様はいつも気絶していましたからね……」
「何……?」
そして、キャンディスの閉ざされた記憶が開かれる。
「お兄様は、僕が虐めを受ける度に、最初はチャチな防御魔法で、泣きながら助けてくれていたんです」
「そんな馬鹿な……! 私が助けたことなど……!」
「いつも魔力切れで気絶していました。僕は、お兄様のことを恨んだことなど一度もありません。お兄様が気絶してまで僕を救ってくれたように、僕もそんなお兄様に憧れて訓練を続けてきたんです」
そして、唯一確かな記憶へと繋がる。
「じゃあ、お前が魔法学校へ入学した時、見せた力……私が止めた力は……」
「互いに、幼少より積み上げてきた力です。あの時のお兄様は、暫く防御魔法は使わずに、不器用ながらも前衛職の剣術や魔法の練習に励んでいました。それで、記憶を失うことはなかったんでしょうね」
クラウドの言葉に、全ての記憶は思い出せないまでも、断片的な記憶が流れ込み、更に涙を溢れさせる。
「じゃあ私は……何の為に前衛職を諦め、大切な弟と決別して生きてきたのか……」
自分が如何に哀れかと、脳裏を悪感情が巡る。
静かに、涼しい氷がキャンディスの身体を巡る。
「クラウドの……氷防御魔法……?」
「お兄様、それでも、忘れて欲しくない記憶が一つだけあるんです」
ニコッと微笑み、クラウドは涙を流す。
その瞬間、最後の力を振り絞るかのように、リゲルとシャマは再び敵の氷のバリアを破壊していた。
「前線で戦ってください。シールダーでも、副委員長でも、僕の兄としてでもなく、このパーティのリーダーとして……!!」
その瞬間に、幼少の頃に見せた、クラウドの氷柱の氷攻撃魔法が脳裏に過ぎる。
涙を拭いながら、眼鏡を掛け直し、ゆっくり両手を伸ばす。
バチバチと魔力を集約させ、両手に雷魔法を集める。
「行くぞ、エルフ族!! 私が基点となろう!!」
その声掛けに、エルフ族も魔法の準備を始める。
(草魔法との反応で必要なのは、高火力の魔法ではなく、魔力量の多い熟知に溢れた魔法……。つまり、強い攻撃である必要はない……!)
「魔力量であれば、私もクラも鍛えて来たんだ!!」
“雷攻撃魔法・雷槍砲”
ゴォン!
巨大な音と同時に、草魔法の付着した兵士に、一直線の雷魔法が放たれる。
そのまま、“超激化” を起こすと、兵士は静かにその場に倒れた。
「私の攻撃で……倒したのか……」
しかし、唖然とするキャンディスや、笑みを浮かべながらも戸惑うリゲルやシャマを他所に、
「お兄様ー!!」
クラウドは大泣きしながら、キャンディスに抱き付いた。
「流石、僕の尊敬するお兄様です!!」
「や、やめろ!! 分かったから、クラ!!」
「またその愛称で呼んで頂けて光栄です!」
「あ、あんなに仲が良かったんですね……キャンディスさんと弟さんって……。別の学校に進学したから、仲の悪い兄弟なのかと思っていました……」
「私も初めて見たわ……。でも、副委員長の涙は、私も結構見てきたわね……」
ホッと、微笑みながらシャマは二人を見守っていた。