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大きな会議室は途端に乱戦が入り乱れる中で、唯一、周りの空間と遮断されたパーティがいた。
「これが……闇魔法なのか……」
グラム・ディオールを交えた魔族パーティだった。
「カカッ! これは『闇の防御魔法・帳』。部隊長クラスの規模で結界は張れないが、俺たち訓練生でも、一部空間を周りと断絶することは可能だ! ま、俺はその為のシールダーだからな!」
他のパーティや兵士たちと断絶し、各個撃破を目指す方針のグラムと魔族パーティは、エルフ王国でヒノトにも話しかけていた、ドラフ=オークの闇魔法により、周囲とは断絶された空間内で戦闘を開始しようとしていた。
その中でも、グラムは不思議な感覚に陥っていた。
(やはり……魔力が吸われている気配がない……。リリムの話では、闇魔法は仲間の魔力を吸ってしまったり、代償が付くと話していたが……魔族パーティと共にしていても特に何かあるわけではない……)
「さあ、ボーッとしてる暇はないぜ、グラム! 俺たちシールダーが、このパーティの要だからな!」
そう言うと、ドラフは真っ先に前衛に飛び出た。
「シールダーが前衛を務めるのか!?」
慌てながらも、グラムもドラフの後に続き、エルフ帝国軍兵士の前に出る。
“岩防御魔法・グラウンドオーダー”
すると、ドラフは突如として自分たちと兵士を隔てる巨大で透明な岩の壁を張った。
「隔てる壁を……? これでどうやって攻撃するんだ……?」
「カハハッ! この防御魔法は、相手からの攻撃のみを遮断し、こちらの攻撃のみを通す中級魔法さ。うちらのアタッカーは、ガンナーだからな!」
「それならば……無理にでも破壊しようとしてくるのではないか……? 魔力は兵士の方が優勢で……」
チッチッチ、と指を立て、グラムの前に出る。
「その為の “俺たちシールダー” だろ? 壊させない為に何度もシールドを “重ね掛け” するんだ」
「シールドの重ね掛け……?」
「そうだ。対ヒト、ではなく、シールドに向けてバフを与える。そして、シールド効果を継続させるんだ」
「なるほど……そんな戦い方があるのか……」
うぅむ、と、素直に感心を示すグラム。
「まあでも、重ね掛けするには……」
ドヤ顔のドラフを差し置いて、グラムは心の命ずるままに魔法を詠唱する。
「こ、これで出来てるか……!?」
「マジかよ……」
常にヘラヘラと笑っていたドラフも、見様見真似で可能にしてしまったグラムに唖然とする。
(凄い……力がみなぎってくるようだ……。今なら、どんなことでも出来る気がする……!)
(対ヒトに掛ける魔法は『支援魔法』。当然、誰しもが扱える魔法。しかし、魔法に掛ける魔法は特殊。魔族にしか扱えない『闇魔力』なんだが……気付いていないのか)
より強固となったシールドを前に、必死に破壊に勤しむ兵士だが、ヒビすら入らなくなっていた。
「グラム、シールドが破壊されないように、敵の攻撃に合わせて交互に掛け直すぞ。その間に、アタッカーさん方の出番だ」
そうして、ニタリと背後を振り向く。
ドラフ、グラムの背後で弓を構え、エネルギーを溜めていた魔族は、ニタッと笑みを浮かべる。
「さあ、離れてな! お前たち!!」
ゴゥッ!!
放たれた矢から感じる属性は、『岩』。
「岩魔法使いが……アタッカーを勤められるのか……!」
しかし、岩魔力を纏う矢を放っただけでもグラムは唖然とする中、その矢には更なる仕掛けがあった。
「少し退いていてください……!」
グラムとドラフの隙間を、細い針を縫うように飛び抜けてきたのは、一人小柄な魔族だった。
“岩魔法・ロックシュート”
小柄な魔族は、小さく、敵には傷すら付けられないであろう小石を放つと、ふぅ、と息を吐く。
「今のは……?」
あんな些細な攻撃で疲れた顔を浮かべる小柄な魔族の肩を支えながら、ドラフは笑みを浮かべた。
「カハハッ! コイツが、俺たちのパーティの要。『岩魔法防御デバフ』だ!」
「岩魔法防御デバフ……!? あの攻撃が……!?」
岩魔法防御デバフとは、その名の通り、相手に対して岩魔法の防御力を下げる魔法。
その効果は……
ゴッ……オォン!!
「す、すごい……」
矢が敵に触れた途端、大きな衝撃波を放ち、振動がグラムたちを揺らした。
「矢の一撃が……ここまで強化されるのか……」
唖然とするグラムに、そのまま気絶するエルフ族。
その中でグラムは、沸々と感じていた違和感の正体に気付き始めていた。
「何故だか……俺はお前たちと戦っていると心地が良いんだ……。力が漲ってくるような……」
「カハハッ! お前なら気付くと思ってたぜ。それこそが『闇魔法の真髄』だからな!」
「『闇魔法の真髄』……!? しかし、俺は闇魔法は使えないし、リリムが闇魔法を使う時も、俺たちは魔力を削られながら戦う危うさしか知らないぞ……?」
「それは、闇魔法が充満して流れていないからだ。確かに闇魔法は仲間の魔力を吸う。でもな、それと同時に、循環するように互いに流れ合っていくんだ」
「じゃあ、リリムが仲間の魔力を奪うのは……」
「ああ、闇魔法の循環が出来ていないだけ。そして、お前は今、俺たちと戦う中で、その術を身に付けた」
「俺が……闇魔法の循環を……!? 俺は……ただの平民街の生まれで、たまたま髪が黒っぽいだけで……」
そんな悲観的で、動揺するグラムの肩を掴む。
「お前は魔族じゃねぇよ。でも、お前たちキルロンドの奴らは知らない。お前たちは、『全員が魔族でもある』んだ」
「全員が……魔族でもある……?」
「カハハッ! まあ、この戦いが終わったら、どうせ知ることになる。まずは、生き残ろうぜ、兄弟!」
そう言うと、いつの間にか結界は解かれ、他の魔族たちも他の戦闘の加担に向かっていた。
「俺は魔族じゃない……でも……魔族でもある……」
グッと拳を握り締め、違和感の中をグラムは駆けた。
――
セノが汗を滴らせ、ニヤリと笑みを浮かべる中、兵隊全てと断絶されたアザミ・クレイヴは、無表情のまま、相対する面々を眺めていた。
「魔族軍四天王 セノ=リューク。そのオレンジ髪の少年が、 “灰人” だな?」
「そうだ……お前を確実に仕留める為にな……!!」
「族長、ロードは……ふふ……愚かな」
すると、アザミの背後から女性の姿が現れる。
確かに一人だったアザミの背中から、エネルギーのように長髪の女性が出てくる。
「その人は……!!」
その姿に、リオンは声を上げる。
「あの人を知ってるのか、リオン」
「ああ……一度、ここに来た時、眠れなくて外に出てたら、噴水に座って空を眺めていたんだ……。まさか、アザミの仲間だったなんて……」
悔しそうな顔のリオンに、セノが遮る。
「あの人はアザミの味方じゃないよ、リオンくん。アダムにより連れ去られたエルフ族長 ロードさんの妃、シニア・セニョーラさんだ……。何年探しても見つからないわけだ。身体の中に入れられていたなんて……」
「勘違いするな、セノ=リューク。コイツ程度の力など、私には不要。しかし、便利であることには間違いないがな」
すると、シニア・セニョーラの身体は透明になり、とある映像を映し出した。
そこに映し出されたのは、エルフ族長 ロード・セニョーラと、対峙する黒髪で長髪の戦士、全員が瞬時に悟る、アダム・レイスの姿だった。
「さて、この勝負、どちらが勝つと思う?」
そこには既に、ロード以外のアダム討伐班に選ばれたエルフ族は伏せられていた。
その盤面に、セノは顔を苦くし、徐々に、アザミの顔はニタニタと笑みを浮かべさせ始めた。