【力天使】が追撃を仕掛けてくること無かった。奴も直撃していないのは解っているはずなので、おそらくは俺の状態を観察しているのだろう。 しかし、それは俺にとっても好都合だった。もしあのまま追撃を受けていれば、街にも大きな被害が出ていたことは間違いない。すでに半壊といっていい状態ではあるが、難を逃れて今も避難を続けている人たちのことを考えれば、これ以上街へ被害が出ないに越したことはない。
「《Claidheamh Soluis》を破棄。サブCode《Aeolus》」
黒剣を手放し、両手を自由にする。
そっちが物理でくるのであれば、こっちは魔法で対抗させてもらう。
『サブCode《Aeolus》を発動します。《Anemoi Magic Code》が4番まで解放されました』
両手にメイスを構えた【力天使】。
空に浮かぶ奴までの距離は百メートルほど。
大きく深呼吸をしながら体の状態を確かめる。
激痛だった痛みはほぼ治まり、AIの言うように戦闘に支障は出無さそうだ。
「タイミングは任せた」
そうAIに告げて、俺は黒翼を羽ばたかせ【力天使】へと飛翔した。
『カウントダウン……3……2……1……』
それは【力天使】の攻撃のタイミング。
俺が奴の間合いに入った瞬間、右手に握っていたメイスが俺へと振り下ろされる。
「Notos!!」
左手を【力天使】へと向け、Magic Code4番を発動。
巨大な体を丸ごと包み込むような突風が【力天使】の足下から吹き上がり、メイスの勢いを一瞬で殺す。
動きの遅くなったメイスを躱して《Notos》を解除。そのまま一気に胸元まで接近し――
「Boreas!!」
右手からMagic Code1番を発動。
目の前の大気を圧縮、そして一気に拡散。大気を急激に上下に押し出されたことで真空となった空間《スペース》が、全てを斬り裂く巨大な真空の刃へと変貌する。
時空ごと刈り取らんばかりの死神の鎌が【力天使】の胸を真一文字に切断し、巻き起こる風圧によって切断された上半身が宙へと舞った。
『サブCode《Prometheus》を入力』
真っ二つになった【力天使】の姿を見た時は勝ったと思った。
しかし、同時に次の行動を促すAIの声が頭の中に響いた。
『自動制御による迎撃が可能です』
視線を上へと向けると、そこには無数の――千を超えるだろう巨大な氷柱が空を埋め尽くしていた。
『あくまでも物理的に押し潰すつもりのようですね。――街ごと』
ということは、真っ二つになったアイツは――
「おいおい……不死身とかじゃねえよな……」
すでに切断された身体は元通りになって、俺から距離をとった位置にいた。
『人類の考える生命体とは種類が違いますからね。無限の生命活動を可能としているエネルギー体のようなものでしょうか。ですからどこを攻撃したというよりは、攻撃によってHPを減らしていき、それが0になれば天使としては死ぬということです。そんなゲームを前世でやったことあるでしょう?』
「無限の生命活動なら死なないんじゃないのか?ダメージは通るんだろうけど……」
『来ますよ?どうしますか?2……1……』
「Hephaistos!!」
おい!本当に倒せるんだろうな!?
空へ向けて両手の平を掲げると、頭上に真紅の魔法陣が出現する。
『全標的ロックオン。迎撃します』
火山の噴火のように魔法陣から吹き出す火球。
千を超える氷柱が降り注ぐ中、その全てを打ち落とす様に正確に向かっていく。
『《Aegis》の修復完了。再発動が可能となりました』
「サブCode《Aegis》最大出力!!」
氷柱と火球が激突する瞬間、回復した《Aegis》を瞬時に展開。
出現した闇の盾が瞬く間に町の上空を覆い尽くす。
《Aegis》によって遮断した空間越しにすら伝わってくる衝撃。
高密度の氷魔法と超高熱の火の魔法の衝突によって発生した水蒸気爆発は、空を覆っていた雨雲を跡形もなく吹き飛ばし、その規模がどれだけ巨大なものだったかを証明した。
『今の爆発が魔力を含んでいなかったら、とてもじゃないですけど《Aegis》で受け止めることが出来なかったですね』
「……街ごと吹き飛んでたんじゃないのか?」
『いえ、観測したエネルギーから推測するに、この国ごと地図上から消滅していたと予測されます。まあ、そうならないことは最初から全て計算通りの結果ですけどね』
……。
………。
もう少し心臓に優しい計画を立ててくれないものだろうか……。