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薄暗い雲の下、山の麓の村では毎年恒例の行事である農作物の豊作を願う祭り事の準備をしていた。祭りの楽しい雰囲気とは別に男は小さな気配に気付いていた。「”魔物”か?」男は言う。幼き頃に家族を殺され半年前までは野良の狩人として生活をしていた男も今では魔物を専門に対峙する組織”冥刃”に勧誘され組織の一員となった。彼は魔物を狩ることだけに人生を捧げる覚悟だった。そんな彼が今日この街に来た理由はある男に”今宵この村に魔物が出る”と言われたからだ。何故そんな事がわかるのか、あの男は誰だったのか疑問が残るがまた1匹狩る機会を男は無駄にはできなかった。夜になると男はすぐに魔物特有の”瘴気”の濃度が高いことに気がついた。これは近くに魔物がいるということだ。男は警戒を怠ること無く村を巡回した。豊作の神への捧げ物を置く祭壇が微かに動いた。男はそれを見逃さなかった。「何奴!?」男は腰の刀に手をかけ冷静に敵の様子を伺った。そして敵が起き上がりその姿があらわになった。炎のように紅く端に行くほどオレンジ色になる長髪を持つ少女で、手には菜の花が美しく刺繍された羽織を持っていた。額には二本の角がありそれを見た瞬間男は確信した。「貴様、鬼か?」少女は静かに「元はの」と答えた。「元と言うと今違うのか?」「今は魔物の一人じゃ」「何故鬼が魔物などになったのだ?」「全て貴様ら人間のせいじゃ!儂らはただ山で事静かに暮らしていったのに…、貴様ら人間のせいで!姉者や父上は…」「それはこちらも同じだ。貴様ら魔物に家族を殺された。だから俺は魔物を狩る。しかしどうやら魔物にもいろいろいるようだな。話くらい聞いてやる」「そうか…人間にもいろいろおるのじゃな…。儂はさきも言ったように元鬼じゃ、しかし人間によって里を壊され奴にそそのかされたのじゃ!」「奴?」「魔物の使徒”灼蛇”じゃ」「灼蛇?」「みなは奴にそそのかされ魔物の国でかくまってもらうなどとぬかしおった。儂も仕方なくついて行ったが…奴らは儂らに自らの血を飲めと要求してきおった」「血を飲むとどうなるのだ?」「半強制的に魔物にされてしまう。儂のようにな…。魔物になると元の身体能力が強化され個人に適性のある”能力”を得られる」「それは貴様らにとって何ら悪いことでは無かろう」「そうじゃな…しかしやつら、自作自演をしておった。奴らは人間を利用し儂らの里を壊し自らの戦力にしようとしていたのじゃ」「それは何故?」「やつら、近いうちに自分たちを辺境の地へ追いやった人間どもに復讐する手助けをして欲しいと言っておった。みなは敵が同じ人間ならばと魔物についたが儂は違う。そんな奴らの手玉にはなりたくなかった…。それで逃げ出してきたのじゃが、行く当ても無く、食料すら無かったがためにこんなつまらんことに手を出してしもうた。申し訳無かったの」「事情はわかった。ならばその後悔を魔物を狩り、人を守ることで気を落ち着かせるのはいかがだろうか?」「儂が?人を守る?クフフ…まぁ良いじゃろう。ただし条件がある」「何だ」「今日の夜食は腹いっぱい……肉じゃがが食べたいの」「肉じゃが?」「儂が里にいた頃は毎日母が丹精込めて作ったじゃがいもと自然の恵みに感謝して狩った鹿肉で作ったのじゃがこれが本当に美味くてのぉ」「わかった。鹿肉の肉じゃがだな。そうと決まれば買い出しに行こう」「そうじゃな。貴様、名は?」「九条黎(レイ)だ」「レイというのか?よい名前じゃな、儂の名は焔(ホムラ)じゃ」「そうか。じゃぁ焔お前はこれを被れ」「何じゃ?これ?」「笠だよ」「何故に?」「お前、角が生えてるだろ?周りから見たら不審極まりない。お前が鬼だとバレた暁には肉じゃがどころか宿すら取れなくなるぞ」「うむ…理由はわかったが主はなかなかにいい男じゃな!」「なんだ急に」「いやぁ、さっきまでは笠で顔が見えんかったからのぉ、これなら”こみゅにけーしょん”?とやらもやりやすかろう」「お前いくつだよ」「女子(おなご)に歳を尋ねるとは随分と無礼な奴じゃな」「悪かったよ。それじゃ買い出しに行くがその羽織着ないのなら売りたいのだが…」「これはな魔物の国の唯一のいいところで周りの気温に合わせて温度が変わるらしいのじゃ」「どういう仕組みだよ」「空気中の冷気を糸で絡め取り気温が高くなると糸が緩くなり蓄えていた冷気が漏れ出て涼しくなる。逆に周りの気温が低くなれば糸は硬くなり保温性が高まり快適な温度になるというわけじゃ」「随分と詳しいのだな」「コレでも里では服を作っておったからな」「兎にも角にも早く買い出しに行かないと店が閉まるぞ」「む、それはいかんな…」「わかったらさっさと行くぞ」「うむ」それからは八百屋や肉屋から鹿肉やらじゃがいも人参、玉ねぎなどの具材を調達し無事に宿を確保できた。「今から作るからちょっと待ってろよ」「うむ…。しかし待っているだけでは少々暇になるのぉ」「なら魔物の国や勢力についてまとめておいてくれ」「わかった」料理ができ焔と共に夜食を食べた「魔物の国はどこにある?」「儂は知らぬ」「知らんとはどういうことだ?魔物の国から逃げ出したのだろう?方向くらい分かるだろ」「主は神隠しなるものは知っておるな?」「あぁ。一部では魔物に食われてるんじゃないかって」「あの場所には強力な幻覚作用を引き起こす結界が張られておる」「結界?」「うむ。範囲内の指定した対象に方向麻痺や幻覚、幻を見せそこから出にくくするのと同時に方向感覚を狂わせることでどの方向から出てきたのかも分からなくなる。たまに人間が迷い込んでそこで生活しておる野良の魔物たちが貪っておった。酷い匂いじゃった」「野良の魔物?」「魔物は大きく3つに種類分けされている。1つ目は強力な魔物から血を分け与えられ魔物になるもの。2つ目は怒りや憎しみ、嫉妬心と言った行き場のない感情が瘴気を呼び身体を蝕まれ魔物になる”野良”。そして魂だけで肉体を持たぬ魔獣に憑依された魔憑獣じゃ。1つ目のいわゆる”普通の魔物”は元の姿の特徴が残ってはおるが比較的人に近い形をなしておる。対する野良は感情を爆発させただけあって恐ろしいほど醜い姿をしておった。魔憑獣はその魔獣の特徴が出るものも入れば元の身体のまま操り人形のような状態なる奴らもいるようじゃ」「随分と詳しいのだな」「儂もただ魔物の国に行ったわけではない。大図書館でいろいろ調べておったのじゃ」「そうか。俺は魔物には10匹の統治者がいることと稀に街に現れ人を魔物にするということしか知らなかったな」「無理もない。奴ら最近は妙に慎重なのじゃ。何か隠しておるのかのぉ?」「さぁな、どちらにせよ魔物は全員狩る」「儂もかや?」と焔はまるで子供のように上目遣いとやらをして俺を見た「お前は例外だ」「そうなのかい?ならいいのじゃけどのぉ」「食べ終わったらこの桶に入れておいてくれ俺は寝る」「儂はどこで寝ればよいのかのぉ?」「はぁ…布団、使っていいぞ」「はぁ!感謝するぞ!主が望むのならば添い寝なども視野にいれてやらんことも」「ジャーオレハネルカラナ、オヤスミ」「なんじゃ人が折角添い寝を申し出てやったというのに」「もう少し警戒心持ったほうがいいぞ」「主は儂のような可愛らしい娘と一緒に寝たくはないのか?」「そういう事はそういう関係になってからだ」「なんじゃ…つまらんのぉ」