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麻衣は、ネット上に公開してある録音を再生してみせた。
玲香と森川の密会の音声、雅美の恐喝の証拠、由美の裏切りの証拠。
そのすべてが流れた。
「つまりはこういうこと。もう、あなたたちは逃げられない」
しかし、三人は諦めなかった。
「まだ終わってないわ!」
雅美がナイフを取り出す。
「あなたを始末すれば済むこと」
玲香と由美も武器を取り出した。
三対一の状況だ。
「おやおや、物騒なものを出してきましたわね。なあに、それ? それで私を殺そうってことなの? つくづく、あなたたちにはうんざりさせられるわね」
麻衣は言い放った。
「そんなもの、出したのが運の尽きってこと」
その瞬間、倉庫の外から大勢の足音が聞こえた。
扉が開かれ、警察官たちが突入してきたのだ。
「全員、凶器を捨てて手を上げろ!」
三人は愕然とした。
麻衣は事前に警察に通報し、この時間に突入するよう手配していたのだ。
「氷室玲香、氷室雅美、佐々木由美、おまえたちを傷害未遂の現行犯で逮捕する!」
三人は警官隊に取り押さえられ、手錠をかけられた。
由美が最後に麻衣を見つめた。
「あなた……いつからこんなに賢くなったの?」
「あなたたちが教えてくれたのよ」
麻衣が答えた。
「人を信じすぎることの危険性を、ね?」
三人は連行されていった。
そして、麻衣は一人倉庫に残された。
ついに、すべての敵を打ち破ったのだ。
しかし、勝利の喜びよりも、深い虚無感が麻衣を襲った。
三人の逮捕は大きなニュースになった。
産業スパイ事件、詐欺事件。
そして、彼女たちの長年にわたる計画的な犯罪の全貌が明らかになった。
ワイドショーでは連日、この事件が特集を組まれて報道された。
会社では、一転して麻衣は英雄として扱われた。
「佐倉さんのおかげで、会社は守られました」
宮塚部長は深く感謝した。
「麻衣くんの昇進の話も進めましょう」
麻衣は昇進し、念願だったプロジェクトリーダーの地位を得たのだった。
しかし、その喜びは空虚なものに感じた。
なぜなら、麻衣にはその喜びを分かち合える相手がいなかったから。
健太は、今回のループでも麻衣から離れてしまっていた。
三人の犯罪者との関連を疑われ、会社での立場が悪化したことが原因だった。
実際には健太は無関係なのだが、世間の目は厳しかった。
「麻衣、俺はしばらく実家に帰ることにする」
健太が別れを告げに来た。
「健太、待って! もう危険は去ったのよ」
「でも……俺の人生はもうめちゃくちゃなんだ。どこに行っても、あの事件のことを聞かれるんだ。君と一緒にいると、俺まで巻き込まれてしまうんだ……」
そう言って、健太は麻衣のもとから去っていった。
三度目のループでも、結局のところは最愛の人を失ってしまったのだった。
由美という親友も、結局のところは敵だった。
麻衣には本当の友人はいなかった。
職場でも、麻衣は孤立していた。
同僚たちは麻衣を恐れていたのだ。
「あの人には近づかない方がいい」
「裏切り者を見つけるのが得意らしい」
そんな噂が立っていた。
麻衣は勝利したが、それと失ったものも大きかった。
数ヶ月後、麻衣は高級マンションに一人で住んでいた。
昇進に伴って収入も大幅に増加し、物質的には豊かな生活を送っていた。
しかし、精神的には荒廃していた。
夜、一人でワインを飲みながら、麻衣は過去を振り返っていた。
「私は何のために戦ったの?」
復讐は完了した。
敵たちは全員刑務所にいる。
しかし、麻衣が本当に取り戻したかったものは手に入らなかった。
愛する人との幸せな時間。
信頼できる友人との友情。
そして、純粋だった頃の自分自身。
タイムリープという奇跡的な力を手に入れたにも関わらず、麻衣は結局、最も大切なものを守ることができなかったのだ。
「もう一度やり直せるなら……」
麻衣はそう思ったが、今度は死ぬわけにはいかない。
タイムリープは死をきっかけに発動するようだったからだ。
しかし、その時、麻衣は重要なことに気づいた。
「復讐にとらわれすぎていたのかも……」
前回のループで、麻衣は敵を倒すことにのみ集中し、大切な人たちを守ることを疎かにしていた。
健太との関係、家族との絆、そして自分自身の心の平安。
「今度は違うアプローチが必要ね」
麻衣は決心した。
もし、もう一度チャンスがあるのなら、今度は攻撃ばかりを考えるのではなく、守ることも大事にしよう。
その夜、麻衣は珍しく早く眠りについた。
そして夢の中で、不思議な声を聞いた。
「あなたの願いは何ですか?」
「もう一度チャンスをください」
麻衣は夢の中で答えた。
「今度は、大切な人たちを守りたいのです」
「分かりました。しかし、これが最後ですよ」
目覚めると、麻衣は再び三か月前の朝に戻っていた。