『それ』との出会いは、突然で、とても刺激的なものだった
小さい頃にフィクサーの母親から貰った一粒のチョコレート
包装紙を外し、中から出て来た欠片を口へ運ぶ
「…!!??………~♪♡♡」
初めて感じる味
口の中で転がす度に、刺激的な感覚に心を躍らせる
多幸感で頬が釣り上がり、幼いながらにこの感覚を表現する事が出来無い事へのもどかしさに身をよじらせた
口の中で溶け行く甘味はやがて薄れていき、消えた。
美味しい
思考が塗り潰され、それでもその余韻に、多幸感に身を任せる
今まで何とも思っていなかったけれど、都市には沢山の甘味があった
アイスクリームにシュークリーム
柔らかな口触りに優しい甘味が脳をとろとろにする
プリンにマカロンにモンブラン!
しっとりした食感にふわふわのクリーム
その全てが筆舌に尽くしがたい甘味で、多幸感に脳がパチパチする
…そして、チョコレート
私の一番大好きな甘味
体温で溶けてしまうそれは、口の中でゆっくり溶かしてゆっくり楽しむのが好き
溶け出した甘味が全身に巡り、体中がその甘味に喜ぶ様に踊り出す
…そして、お母さんと一緒に食べるのが大好き
私と一緒にその甘味を味わうお母さんを見ると、私も嬉しくなる
空を見上げる
「…とっても大きいわたあめ!!!」
手を伸ばして掴もうとするが、届かない
…いつか、食べてみたいな
私がジャンプしてわたあめを食べようとしていると、人にぶつかってしまう
その拍子で私は転けてしまい、地面に着いた手が切れてしまう
痛い。
痛いのは嫌い
甘味と違って、楽しくないから
流れそうな涙を頑張って我慢する
涙も嫌い。
涙はしょっぱくて、甘くないから
ふと怪我をした手を見ると、何か赤い物が流れていた
……いちごジャム?
そう思って舐めてみる
…が、全然美味しくない、変な味。
色々限界となり、泣いてしまった私の背中をお母さんはゆっくりさすって、手の怪我も治してくれた
ある日、私の夢が叶った
世界がわたあめに包まれたのだ
頑張って掻き集め、精一杯口に運ぶ
…でも、美味しくない
私はその味のしないわたあめを必死に食べ続けた
わたあめを食べきってしまい、お母さんに内緒で外に出た
「…わぁ!……すごい…!!!」
外では沢山の人が大声で踊りを踊っていた
みんなもわたあめを食べに来たんだ!!
「───この──煙───家族が───!!!!!」
「───くた───この───死に───!!!!!」
…でも、少しうるさい
私はその人達を無視して、更にわたあめを口に運ぶ
…そうしていると、お母さんが走ってきて、私を抱えたまま踊ってる人達を押し退けていった
……怒られちゃうかな
そう思っていると、
「……お”ぇっ……」
口の中から緑色の液体が出てくる
メロンジュースだろうか
そう思っていると
「………にがい」
にがい、にがい、にがい。
苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い!!!
美味しくない!!!甘くない!!!にがい!!!
甘いものが食べたい
……気付けばお母さんは知らないところまで来ていて、私を抱えたまま倒れてしまった
大嫌いな痛みに、もっと大嫌いな苦みで泣き出してしまう
涙でぼやける視界の先には、いちごジャム塗れのお母さん
「………!!」
私はそのいちごジャムを指で掬い、舐めてみる
「!!!」
甘い………おいしい…!!!
口の中の苦みが無くなり、目の前のスイーツを食べ始める
更に流れる涙さえ、最高の甘味だった
おいしい
おいしい
おいしい
おいしい
おいし──
食べ終わってしまう
口周りに着いたいちごジャムまで舐め取った所で、またあの苦みが襲って来る
「…?!?!にがい!!!苦い!!!!!」
また別の甘味を……そう思い探そうとすると、私からあめ玉が出て来る
緑色の液体が着いたそあめ玉は、白くて真ん中に黒い点があって、ぷにぷにしていた
…おいしそう
堪らずそのあめ玉を口に放り込み、噛み砕く
想像以上に柔らかいそのあめ玉はゼリーのように柔らかく、中から甘い物が流れてくる
………おいしい!!!
私はまたあめ玉を探すと、私の視界にクリームパンが映る
私はそれに齧り付く
痛い。
痛い痛い痛い
……おいしい
また一口
痛い。
おいしい
一口
痛い。
おいしい
一口
痛い。
おいしい
痛い。
おいしい
おいしい
おいしい
おいしい
おいしい
おいしい
…おいしい。
…私は私というスイーツとわたあめに囲まれて、
夢が叶った喜びと共に目を瞑った
(……ごちそうさまでした)
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