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『ねえねえ、バストロッ! 本当に良いのかしら? レイブ達に何か起きたりしたら、一体アナタったらどうするつもりなの、どうするのよっ? ああ、もうっ、イライラするわっ!』
ジグエラは自分で言った通りイライラしている感情を隠すでもなく、大きな声で自らのスリーマンセルのリーダーである、魔術師を責め立てていた。
魔術師、バストロは苦笑いで返しながらもう数度目になる同じ言葉で答える。
「大丈夫だってぇ! 心配し過ぎだぞジグエラぁ! この間お前自身が言っていただろう? ギレスラがブレスっぽい熱波を吐き出したってさっ、んでヴノだって驚いていただろうがぁ? ペトラは『微回復(プチヒール)』が使えるんだったろう? だったら何の心配も要らないぜ? レイブの肉体は強靭そのものだからな! 腕力や脚力だけなら俺に匹敵しているんだからよぉ~、あそこにいるアル・マハラージなんかにどうにかされる訳無いじゃないかぁ! あんなに小さくて弱いウサギ相手に万が一が有るか? なぁヴノぉ?」
いつもと違い両目を見開いて伏せていた大猪(おおいのしし)ヴノは自身に言い聞かせるように追随する。
『うむ、まあそうじゃのう~、大丈夫だとは思うがのぉ~、何しろアル・マハラージは弱いし小さいからのぉ~』
「だろっ? 大丈夫だってぇ、ジグエラァ!」
『ま、まあ、アタシだって判っているんだけどね…… うん、信じて待つわ! あの子達なら万が一、なんて事にはならない筈だしねっ!』
「当然だろ?」
『ああ、そうじゃろうて』
『ええ、そうだわ、ね……』
心配性な師匠達が漸(ようや)く安心する事にした頃、レイブは掻き分けた草の隙間から、初めて見たアル・マハラージを凝視しながらゴクリと唾を飲み込んでいた。
――――あれがアル・マハラージ? あ、あれで最弱のモンスターなの、か? えええっ、何か思っていたより大きい、と言うか僕の四、五倍の大きさなんだけどぉ…… それに大人しい魔物、って話だったけど、自分より小さいモンスターを鋭い犬歯で骨ごと噛み砕いてるじゃないのぉ…… うわぁ、バリバリボリボリいってんじゃんかぁ…… ほら、口の周り血だらけだしぃ、小さな角が生えた可愛らしいウサギだから恐く無い? ってか、恐いしっ! 角も雄鹿(おじか)みたいで馬鹿でかいし! ここは気づかれる前に一旦安全地帯まで戻った方が良いよね? うんっ、戻ろう!
出発前にジグエラが教えてくれた姿と、あまりにも乖離(かいり)している化け物ウサギに気圧(けお)されながら、一旦仕切り直す事に決めたレイブは音を立てないように注意しながら、ゆっくりと後退を始める。
ドンッ! バタバタッ!
『グギャアッ!』『ブヒッ!』
「っ!」
少しだけ後退(あとずさ)った所で自分の背中に何かが当たり勢い良く倒れる音がした、それと同時に驚いた様な声を上げたのは、もっと後方で隠れている様に言い付けた筈のギレスラとペトラである。
恐らくモンスターの事が気になってレイブのすぐ後ろまで出て来てしまっていたのだろう。
二頭は揃ってバツの悪そうな表情を浮かべていたが、レイブがその顔を見る事は無かった。
レイブの視線は茂みの先の化け物に釘付けである。
化け物はウサギがする様に両の長い耳をピンと立てて、鼻をヒクヒクと動かし続けている。
暫(しばら)くそうしていた化け物であったが、やがて耳を降ろすと再び食べ掛けていたモンスターに向けて大口を向けるのであった。
――――ほっ! 見つからなかったみたいだ、良かった! 良し、ゆっくりゆっくり下がろう! 今度はぶつからない様にちゃんと振り返ってから……
その場でゆっくりと振り向き始めたレイブに馴染みの声が……
『ゴメン、レイブ』『気になっちゃって、ゴメンね』
バッ!
思わず茂みの先に視線を戻したレイブの目に映った物は、血だらけの口元を歪(いびつ)に歪(ゆが)めながら、満面の笑顔をこちらに向けた化け物の姿であった。
ゾクッ!
背筋に強烈な悪寒を感じた瞬間、レイブは走り出していた。