テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第一章 リアリー・プロテリア編 開幕
「お嬢様、起きる時間でございます。」
「分かったからさっさと準備してちょうだい」
「かしこまりました。」
メイドに純金の髪をとかさせながら、鏡に映った自分を見つめる。相変わらず人形のように美しい外見だ。
わたくしは生まれた時から特別だったのだ。
「もういいわ、下がりなさい。」
「失礼いたします。」
朝の食事の為に移動すると、そこには既にお父様とお母様がいた。
父「やあ、ステーファメル。おはよう、よく眠れたかい?」
ステー「はい、お父様。おはようございます。」
母「さて、食事にしましょうか。」
ステー「そうですね。」
わたくしは誇り高きエリアトス公爵家の才女、ステーファメル・エリアトス。
勿論食事マナーだって完璧だ。
食事が終わったら、将来の王妃として王妃教育を受けに行く。
幼い頃から婚姻関係である王太子エヴァンの為にも、精一杯努力しなくては。
ズキッ
ステー「うっ…まただわ」
王妃教育の為王城に向かう途中の馬車で、突然頭痛が起こる。
こういう時は何時も、この後に「未来の記憶」が脳内で再生される。
正確にいうならば、それは「ステファニーという名前で全く同じ境遇を生きた別人の記憶」である。
教育者「ステファニー公爵令嬢様、素晴らしいです。本当に優秀なお方でいらっしゃるわ。」
ステファニー「そ、そんなことないわ。でも私、エヴァン殿下のお役に立ちたいから…」
そう言ってはにかむステファニーの場面で記憶は終わる。
このような記憶を見ていて何時も思うが、この娘は何故これ程までに自らを卑下するのか…
わたくしには勝らずとも、血の滲むほどの努力をしその結果を褒められているのだから、それを誇るべきだ。そうでなくては、それ以下の努力をした者たちを馬鹿にしているようなものなのだから。
エヴァン「やあ、ステーファメル。」
ステー「殿下!」
エヴァン「近々、魔力測定の儀があるだろう。君の事だ、心配はしていないけれど、それが終われば次は魔力を鍛える訓練が始まる。努力家な君だから、あまり無茶をしないようにね。」
ステー「ありがとうございます、殿下。わたくし、殿下の為に優秀な魔法使いになってみせますわ。」
エヴァン「ふふ、ありがとう。」
この国は、一定の年齢に達したとき「魔力測定の儀」というものを行う事になっている。それによって、自分の魔力保有可能量や魔力適性を知るのだ。
一般に魔力適性には4つ存在する。
火・水・風・雷
そして此処から派生した物で氷や土などが存在し、それらは「特殊属性」と呼ばれるが一般的な4属性との違いは特には無い。
それと、この適性は魔力の変換しやすさを示すものだから、別に風適性の人でも火や水を作ることはできるのだ。
そうして王妃教育が終わると、次は社交の場に赴く準備をする。
わたくしの日常は多忙だが、その名に恥じぬよう、全てに全力で取り組むようにしている。
どれだけ地位が高くとも、称号が素晴らしくても、それに準ずる実力が無ければ真の貴族とは言えない。国を治めるものとして、決して努力を行ってはいけない。
ノブレス・オブリージュ。
これができない貴族など、存在してはいけないのだ。
そして、とうとう魔力測定の儀の日となった。
父「緊張しなくてもいいからね、ステーファメル。」
母「そうよ、貴方は未来の見える特別な子なの。きっと素晴らしい才能を持っているに違いないわ。」
ステー「ええ、お父様、お母様。わたくし、行ってまいりますわ。」
そうして、測定官の前に立つ。
測定官がわたくしの頭の上に手をかざし、魔力を放つ。その並外れた魔力の扱いによって、人の体内の魔力と共鳴しその実力を調べるのだ。
自信があった。ステファニーだって、膨大な魔力が取り柄だったから。
絶対に自分の美しい未来を疑わなかった。
測定官「こ…これは…」
父「どうしたんです!?」
測定官「落ち着いてください…
エリアトス公爵閣下、貴方方の娘さんは…
今までに見たことがないほど魔力が低いです。」
ステー「…え?」
測定官「普通の人の50分の1程の魔力しか持てません…それに加え、魔力適性も“無”です。」
母「そんな!娘は未来予知だってできるのよ!?そんな訳がないわ!!」
測定官「ですが私の目に狂いはありません。申し訳ありませんが、事実でございます。」
ステー「そっ、そんな、そんなわけない!!!わたくしっ、わたくしは!!」
その時の両親の表情はずっと忘れない。聖人のように優しかった瞳が、ドロドロと歪んでいく、そんな顔を。
わたくしも半狂乱で叫んだ。認められない。認められるわけがない。わたくしは特別なのに…………
そこからは本当に地獄のようだった。
どこに行っても噂される、「最弱の貴族」。
両親やエヴァンはわたくしを励まそうとしたけど、その瞳の奥に全く愛が無かったのは分かっていた。
愛されている自覚があった。一人娘として大切にされている自覚があった。
そんな幻想が、一瞬で音も立てずに崩れていく。
わたくしは努力した。どんなに少ない魔力だって、精密に、力強く、そうやって頑張れば巻き返せる。そう思って、魔法に関する本を何冊も読み漁り空いた時間は全て魔力を使うことにあてた。
何度も何度も失神し何度も何度も馬鹿にされたけれど、絶対に諦めなかった。
でもだめだった。
「そもそも魔力が少ないんじゃあねえ…」
「どんなに技が強く打てても使える魔力が少ないし…将来性もないからなあ…」
努力はわたくしを裏切った。
人々はわたくしを裏切った。
才能は…わたくしを裏切った。
でもわたくしは…自分は特別なんだと、その気持ちだけを胸に強く秘め努力を諦めなかった。
わたくしは…未来の王妃、なのだから………
「お前との婚約を破棄する!!!!」
「かわりにクリスティーナを我が妻に…」
「お前を…」
「極刑に処す!!!!」
ステー「いやあ!!!!!」
ステー(なんなのこの記憶は
嘘よ、こんなの。嘘に決まってる。 なんで貴方までわたくしを否定するの
ステファニー…
わたくしは、わたくしは貴方とは違うの…違うのよ)
でも、夢は現実だった。あのパーティーの日、それが分かった。
エヴァン「ステーファメル、君との婚約を破棄する!!!!」
ステー「う、うそっ、嘘よエヴァン、そうよね?冗談よね…」
エヴァン「違うよステーファメル。君もどうしてこうなるかはわかるだろう?」
ステー「いや…だってわたくしはこんなに努力をしてっ」
エヴァン「そんな努力、無意味なんだよステーファメル。君は弱すぎるんだ。」
ステー「なんで、エヴァン、貴方までわたくしを否定するの…?」
エヴァン「君は王妃には向いてない。僕の王妃には…この、クリスティーナになってもらう。」
クリスティーナ「ごめんなさい、ステーファメル様…」
ステー「ふざけないで…ふざけないでよ…」
エヴァン「だけど君がどうしても僕の側にいたいと言うならば、第…4の妻としてなら側にいても構わないよ。どうする?」
なんなの、その酷すぎる上から目線は?
救ってやったと思ってるの?
哀れな公爵令嬢を
今思えば貴方はあの日から常にわたくしを見下していたものね
きっと何をしてもいいおもちゃとでも思っているんでしょ
認めないわよ、そんなの絶対に
ステー「…よ」
エヴァン「ん?」
ステー「一生後悔すれば良いわよ能無し野郎って言ったの!」
エヴァン「なんだとっ!!!!?」
ステー「じゃあさようなら!!」
逃げるようにその場から走った。無我夢中で走った。気付けば追ってくる人は誰もいなくて、一人きりなのに気付いた。
ステー「う…ぐすっ……なんで…」
神様なんて嫌いだ。なんでわたくしがこんな目に遭うの…
「あらあら可哀想に…大丈夫?」
ステー「…だれ…よ…」
その女に目を向けた瞬間、感じたことのない頭痛で頭を押さえる。
ステー「いっ、痛いッ!!」
「私は創世の四女神 の一人」
「ウェポン・ベネヴォレンス」
「邪魔になっちゃったから…」
「死んでね」
何…?どういう事?ステファニーは死んでしまったの…?
それに、そんな……
そんな女神、存在しないのに
創世の女神はいるけど、それは3人だけ
創世の三女神
原初の神 シェントット・カタストロフ
力の神 スタリス・ラム・フラッシア
情愛の神 リアリー・プロテリア
そして神はもう一人、「降臨の神」…
でもその神は、確か姿を消しているはず
じゃああれは誰なの…?
「おーーーい、聞いてる?」
ステー「はっ、な、なに!?」
「あー、よかったよかった。」
「こんにちは、私はエリカ。」
エリカ「貴女を助けに来たの!」
ステー「助けに…?」
エリカ「そうなの!貴女には本当はすごーーーい才能があるのよっ!」
ステー「ど、どういうことなの?」
エリカ「貴女、創世の三女神を知ってる?」
ステー「もちろんよ。この世界を生み出した、3人の神。」
エリカ「実はね、貴女の本来の力がその3人によって奪われてしまっていたの」
ステー「なんですって!?ならわたくしはっ!!」
エリカ「そしてね、私も…力を彼女たちに奪われてしまったのよ…だからお願い、私に協力して!そしたら、貴女に私の残った力を分け与えて今よりずっと強くしてあげるから!」
ステー「ほん…とうに?」
エリカ「ええ!」
ステー「なら………」
ステー「わたくしはその三女神を絶対に殺すわ。許さない、このわたくしを苦しめたこと後悔させてやる…」
藁にも縋る思いではあった。それでも、自分の目の前に与えられた人生を変えるチャンスを、しがみついて離したくなかった。例え、見ず知らずの他人に力に頼ることになっても、二度と惨めな思いをしないためには。
エリカ「わあ!嬉しいわ!それじゃあ…」
エリカが手を振ると力が体にあふれていくのを感じる。
ステー「この力、 すごい…」
エリカ「貴女の本当の力はそんなものじゃないわよ?さあ、いきましょ。2人でこの世界をぶっ壊しちゃおーう♪」
ステー「…そうね。そして…力を取り戻した時には、わたくしの力で、実力で、努力で。それだけで、わたくしを苦しめた全員を、絶対に…絶対に」
「後悔させるわ」
コメント
5件
邪魔になったから!?!?!? 男は無能を捨てるのが得意ですが一番無能なのはいい女すら見抜けない男側です() わぁ……どうなっちゃうんだ……()
ここからがガチ本編です。 何だかまるで何者かに作られてできた紛い物のような世界観ですね。この貴族世界は。