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第十五話 文化祭の一枚
「一番残したい瞬間ほど、シャッターを切るのを忘れてしまう。」
十月二十日。
文化祭当日。
いつもと同じ校舎なのに、
今日は別の場所みたいだった。
廊下には色とりどりの飾り。
教室から聞こえる笑い声。
校庭には屋台。
生徒も先生も、
いつもより少しだけ楽しそうだった。
「神崎!」
朝から蓮に呼ばれる。
「写真係なんだからちゃんと撮れよ。」
「分かってる。」
「お前、意外と人気者になったよな。」
「何それ。」
蓮は笑った。
「昔のお前なら、絶対こんなところにいなかった。」
湊は少し考える。
確かにそうだった。
半年前の自分なら。
知らない人と話すことも。
大勢の中にいることも。
きっと避けていた。
でも今は。
この場所が嫌じゃない。
*
午前。
クラスのカフェは大盛況だった。
「写真撮ります!」
湊は頼まれるたびにカメラを構えた。
笑顔。
ふざけた表情。
友達同士の写真。
たくさんの瞬間を残した。
その中で。
何度も視線が向かう場所があった。
紬。
接客をしながら笑っている。
誰かと話している。
その姿を見るたびに思う。
前より、自然に笑うようになった。
それが嬉しかった。
*
昼過ぎ。
少しだけ休憩時間ができた。
「疲れたね。」
屋上。
紬と二人で座っていた。
文化祭の喧騒が遠く聞こえる。
「でも、楽しい。」
紬が言う。
「うん。」
「去年までは、文化祭ってただ参加するだけだった。」
「でも今年は違う。」
「なんで?」
湊が聞く。
紬は少し笑う。
「一緒に笑う人がいるから。」
その言葉に、湊は何も言えなかった。
風が吹く。
秋の空は高かった。
*
「神崎くん。」
「ん?」
「写真、撮って。」
突然のお願い。
「いいの?」
紬は頷く。
「うん。」
湊はカメラを構える。
でも。
いつものようにすぐには撮らなかった。
ファインダー越しの紬。
笑顔。
秋の光。
屋上。
全部が綺麗だった。
「どうしたの?」
紬が笑う。
「いや。」
湊は小さく息を吐く。
「この瞬間、忘れたくないと思った。」
紬は少し驚いた顔をした。
そして。
「……私も。」
小さな声。
カシャッ。
シャッター音。
その一枚には。
笑っている紬と。
その瞬間を大切に思っている湊がいた。
*
夕方。
文化祭が終わる。
片付けをしながら、四人で最後の写真を撮った。
蓮がふざける。
美桜が笑う。
紬も笑う。
湊はカメラを向ける。
「撮るよ。」
「はい、チーズ。」
カシャッ。
その写真は、四人にとって特別な一枚になった。
*
帰り道。
湊は一人で写真を整理していた。
今日だけで何十枚も撮った。
でも。
何度見ても、一番目に止まる写真がある。
屋上で笑う紬。
その写真を見ると、不思議な気持ちになる。
胸が少し苦しい。
でも、嫌じゃない。
その感情の名前を。
湊はまだ知らなかった。
📷 Photo.015『文化祭の一枚』
撮影日:10月20日
たくさんの写真を撮った日。
でも、
一番大切だった瞬間は、
一枚だけだった。
コメント
2件
読んでくれてありがとうございますー! 本当ですか!ならよかったです! いつか感情の名前に気づけるかもですね🤭
お疲れさま、M.Sさん!第15話読み終わったよー! いやもう、このエピソードめっちゃ良かった…。「一番残したい瞬間ほどシャッターを切るのを忘れる」って冒頭の一文からしてもう刺さったわ。屋上で紬が「一緒に笑う人がいるから」って言うところ、湊の気持ちがじわじわ伝わってきてキュンとした。最後の「感情の名前をまだ知らなかった」っていう余韻、めちゃくちゃ甘酸っぱくて好き。写真一枚に込める気持ちの描き方が丁寧で、読んでて温かくなった。続きが気になる〜!
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