(マイクラ学校脱獄、死ネタ)
side.Kt
「それでは明日、けちゃおの死刑を執行する」
ぷり看守から告げられた宣告を僕は狼狽えずに聞いていた。残り日数がみんなより早く減っていく度に死ぬことへの恐怖は薄くなっていった。むしろ、僕がいないことで楽に脱獄できるかもしれない。
最後の晩餐も終わり、牢屋へ戻る。あっきぃもあっちゃんもまぜちも悲しそうに僕を見つめていた。
「けちちは、本当にいいの…?」
「うん。もうどうにも出来ないなら受け入れるしかないよ」
「でも…!!」
「あっきぃ、僕の分まで逃げて。…僕の最期のお願い」
「うん…………!!」
地下通路を通って全員の部屋の鍵を開けたあっきぃは目に涙を貯めながら頷いた。あっちゃんは僕の手にそっと硬貨を6枚握らせた。
「これは?」
「…三途の川の渡り賃。本当は渡らないで欲しいけどけちゃがその気なら…これで…」
「ありがとう。あっちゃんなら、大丈夫」
「こちらこそ、本当にありがとう」
あっちゃんがずっと小さい声で俯きながら渡した硬貨をそっとポケットにしまった。最後に僕の頭を撫でたあっちゃんは優しく、寂しそうに笑った。
「…まぜち、今まで好きでいてくれてありがとう」
「馬鹿…これからもずっとお前しか好きになれねぇよ」
「それは…来世も一緒の予約?」
「あたりめぇだろ。だから俺のこと忘れて浮気すんなよ?」
「しないよ〜。ねぇ、今日はずっとこうして抱きしめてて欲しいな」
まぜちの腕の中はいつも暖かいし安心する。願えるのなら愛する人の腕の中で死ねたらいいのに。このまま消えてしまいたい。そんな想いをそっと隠してまぜちの腕の中で意識を落とした。
「1人で死なせる訳ねぇだろ、馬鹿……」
まぜちがそう呟いたのは聞こえなかった。
side.Mz
運命はどうしてこんなにも残酷なのだろう。どうしてけちゃが先に死ななければならないのだろう。どうして愛する人の死を目の当たりにしなければならないのだろう。
ぷり看守に連れ出された俺たちは処刑場へ連れてこられた。たった数分後にけちゃの命が尽きることは考えたくなかった。
「けちゃお、最期になにか言いたいことは?」
「昨日も言ったけど…あっきぃは僕の分まで生きて。あっちゃん、いつもありがとう。まぜち…愛してくれてありがとう。先に死んでごめんね」
「では、お前たちはここで待機していてくれ。けちゃお、着いてこい」
「…はい」
そっと振り返って俺らに手を振ったけちゃは1度だけ寂しそうに笑って行ってしまった。
ガラスの壁の向こうには天井から吊るされた縄を首にかけたけちゃ。床が抜ければすぐに死んでしまうだろう。けれどその目に恐怖は宿っていなかった。
「けちちッ………!!」
「俺が変われたらいいのに………!!」
とうとうあっきぃが泣き出し、あっとも唇を噛んでいた。このままだとあっきぃのトラウマになると判断したのか、あっとはそっとあっきぃの視界を塞いだ。
俺はけちゃをただ見つめる他なかった。床が抜け、重力に従って落ちたけちゃの体は首の縄だけで繋がり、縄はけちゃの呼吸を止めた。
愛する人はもうこの世にいない。けちゃは最期まで死ぬことを恐れていなかった。囚人服の袖から覗く手はいつも以上に白く見えた。
「ぷり看守、けちゃの遺体は俺が預かってもいいですか?」
「なぜ?」
「けちゃは…俺が愛したたった1人の人間です。今日はけちゃのために生きていたいんです。だからお願いします!!」
「まぁ、いいだろう。明日には埋めるから明日朝必ず引き渡すように」
「はい」
ぷり看守から受け取ったけちゃの体はもう冷たい。力の抜けたその体は重かったが幸せな重みだった。首筋には1本入った縄の痕。痛々しいほどのそれはけちゃの死をありありと示していた。今日は刑務作業もなく、牢屋で待機。看守側が忙しいため、今日は自由が許される。
昨日のようにけちゃを抱きしめても腕は下がり、いつものように抱きしめ返してこない。耳元で何度名前を呼んでも固く閉じた瞼は上がらない。冷たくなった頬はピクリともしない。
「失礼しまーす。日数だけ変えとけってぷり看守に言われたから変えておくね」
ちぐ看守が来ても誰も何も言わなかった。その雰囲気を察したのか看守はすぐに日数を変えて去っていった。去り際にそっと俺の方を見て。
「あっきぃ、あっと。昨日頼んだやつ、くれるか?」
「うん…。でもほんとにいいの?」
「当たり前だ。けちゃ1人で死なせない」
あっきぃはそっと俺にポーションの瓶を手渡す。その手は少し震えていた。あっとからは赤い糸とけちゃにも手渡した6枚の硬貨。
「俺はまぜの意志を尊重する。その代わり、あの世でも来世でもけちゃを幸せにしろよ?」
「お前なぁ、俺が不幸にするとでも思うか?」
「なら安心だな、あとのことは任せろ。お前ら2人背負って絶対脱獄するから」
そう言ってあっとは硬貨を握らせて俺とけちゃの指を赤い糸で結んだ。
「2人ともありがとう。お前ら本当に最高の仲間だよ」
「まぜちこそ。死ぬの怖くてけちち置いて戻ってくるのはなしな?」
「まぜもけちゃも俺らの最高の仲間だ。2人の魂は俺らが連れてくよ。だから安心してけちゃの迎えに行け」
「任せろ。もし戻ってきたらぶん殴ってくれ」
あっきぃとあっとと拳を突き合わせる。けちゃを抱きしめたまま瓶の中身を飲み干す。途端に息ができなくなり、視界が狭くなる。段々と弱くなる力の中でもけちゃを離すまいと意地で抱きしめる。
「けちゃ………愛してる」
大丈夫、修羅の道でも獄炎の中でも迎えに行くから。
side.Tg
その日は朝から嫌な予感がした。妙な胸騒ぎがする。
朝、いつも通り囚人を迎えに行くとその予感は確信に変わった。昨日処刑されたけちゃを抱いたままピクリとも動かないまぜたん。2人の指は赤い糸で繋がれていて、後を追ったのは容易に想像できた。
「愛ゆえに後を追ったか………」
脈を確認した先輩は首を振り、そう言った。指を絡めた2人の傍に1枚の紙が落ちていることに気がついた。
“同じ墓に入れてください”。たった1文、そこから2人の愛が読み取れた。
「先輩、2人の埋葬は俺がやります」
「ああ、任せた。墓にする場所は前教えたな?そこに埋葬してくれ」
指を絡め、抱きしめ合う2人は死してなお離れようとはしなかった。そして、その表情は幸せそうだった。
何も無い広い裏庭にそっと2人を横たわらせる。抱きしめ、指を絡めた状態にして。土を被せて2人の名前を刻んだ墓標を建て、紫とピンクの花を添えておいた。
「2人とも、あの世でいい子するんだよ。…来世は幸せにね」
そう呟いた瞬間、風に乗って2人の声が聞こえた気がした。2人が何気ないことで笑い合う声が。
来世は俺も友達なのかなぁ…?そう考えて先輩の元へ戻った。足取りは不思議と軽かった。
side.Mz
三途の川の渡り賃を船頭に渡し、船を降りる。目の前は平原で、虹色に輝く大木が1本だけあった。吸い寄せられるようにそこへ向かって歩き出す。
愛する人はそこにいた。桜色の髪を解き、真っ白な服を纏ったけちゃは言い表すことの出来ない美しさだった。
「けちゃ…?」
「まぜち!!」
こちらに気づいて走り寄ってくるけちゃ。そっと抱き締めればグリグリと頭を押し付けてきて可愛い。
「いつか来るとは思ったけどこんなにも早いなんて思わなかったよ」
「俺がお前をひとりぼっちにすると思ったか?1人で戻ってきたらあっきぃとあっとにぶん殴られるわ」
「んふふ、2人とも大丈夫そうだね。来世は看守さん達も一緒に楽しく過ごしたいなぁ…」
そう言ってけちゃは寂しそうに笑う。看守まで心配するけちゃに微笑ましさと嫉妬が生まれる。
「それまでけちゃは俺が独り占めできるんだな、把握」
「ちょっと!!嬉しいけどさぁ!!」
独占欲丸出しでそう言えば笑って突っ込まれる。2人でくだらない事を言い合って笑うこの時間が好きだ。
どこに行っても1人にはさせない、俺だけの姫。何があっても迎えに行くから待ってろ。
「わわっ、急にキスしないでよ〜」
「離さないって印だからな」
そっとキスを落とし、2人で顔を見合わせて笑った。
コメント
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むりぃー!泣いちゃった