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ありがとうのハーモニーは幸福寺の本堂の中に響き続け、コユキが空腹に耐えかねて『ご飯よご飯っんん!』と発狂するまで続いたのである。
皆でいつも通りにご飯を食べて、一晩寝てすっきりとリセットを果たした面々に送られたコユキは、フェイトがゲロった二人目の運命神、西担当のフューチャーを見つけ出す為に、新幹線と在来線を乗り継いで、愛媛県に乗り込んでいたのである。
「ほぉ、ここが瓶ケ森(かめがもり)への直近の駅、石鎚山(いしづちやま)か…… ここからはタクシーね…… てっきり四国最高峰、いいえ、西日本最高峰の石鎚山かと思いきや、まさかその隣の山にいたとはねぇ? よっしゃ、いつも通りタクシーで大名旅行と洒落込もうじゃないのぉ! ん? 待機してるタクシーの台数がやけに少ないわね? なんだろう? 過疎かな? んな馬鹿な! モリカケが功を奏したと言うのに…… 過疎なの、か? んじゃ何で野党の皆はあんなに必死に反対を? ま、まさか…… 獣医師会の名士である父と兄の既得権益の為だけだったとか…… ううん、そんな訳無いわよねっ! そこまで腐り切った国ではない筈だわね? よっし! 行ってみよう、瓶ヶ森へっ!」
その勢いのまま、数十分も待たされたコユキは漸(ようや)く乗り込めたタクシーの後部座席から、運ちゃんに行先のリクエストを告げたのであった。
「コーチマン! 瓶ヶ森の一番霊験がありそうな場所の直近にやって頂戴! 因みに帰りも頼みたいの! 待っててねん? おけい?」
運ちゃんは答えた。
「あー、だったらお客さん! 今日一日のチャーターの方がお得ですよ? 三万円ですけど、どうしますか?」
暫(しばら)く考えを巡らしたコユキは答えた。
「んじゃそれで頼むわよ! そうと決まったら、イケー! コーチマンっ! 疾駆(しっく)せよぉっ! よっ!」
「毎度っ! 疾駆しますっ!」
駅から走り出したタクシーは国道194を南下して一路瓶ヶ森を目指して走り続けた。
車窓からの景色が深山の物に変わり始めた時、コユキは今更ながらに大切な事に気が付いて運ちゃんに確認するのであった。
「こ、コーチマン! そう言えば瓶ヶ森までのUFOラインって冬季封鎖してるんじゃなかった? ゲートから先は歩いて向かうしかないんじゃないの? 単独の早春登山って死ぬイメージしか浮かばないんだけど…… どうしようかなぁ?」
運ちゃんは明るい声で答えてくれた。
「ははは、大丈夫ですよお客さん! いくらでもやり様は有りますから♪ なに封鎖ゲートの中に入っちまえばこっちの物ですからね、UFOラインだろうが瓶ヶ森林道だろうが今日はお客さんの貸し切りですよ♪ 一応タイヤチェーンとかも準備してありますんで、心置きなくワインディングを菅田(スダ)、中条(ナカジョウ)気分でお楽しみくださいよ!」
この頼もしい言葉にコユキは心底安堵して返すのであった。
「ほっ! 一安心だわ、ありがとうコーチマン、貴方がコンプライアンス遵守、いわゆる遵法精神よりもカスタマーサティスファクション、顧客満足度に重きを置いてくれる人で本当に良かったわん! 頼むわね」
「CSはリピートに繋がりますからね! お任せあれ」
ネット民に聞かれたりしたらメチャクチャ炎上してしまいそうな会話を交わし、ご機嫌で走り続けたタクシーは、UFOラインに繋がる細道から更に狭幅(きょうふく)な獣道の如き荒れ捲った隘路(あいろ)へと逸れて進むのであった。
何処をどう走っているのか、方向感覚が狂わされやや先行きに不安を抱いてしまうコユキ。
運ちゃんに声を掛けようとした瞬間、明るい声がコユキの耳に届いたのである。
「はい、お客さん、出ましたよUFOライン、瓶ヶ森林道のゲートの内側、貸し切りゾーンですよ」
「おおっ!」
コユキが身を乗り出してアクリルシート越しに覗き込んだ景色は、某自動車メーカーのコマーシャルでお馴染みになった、瓶ヶ森林道の姿があった。
山の稜線に沿って高地を縫うアスファルトが何とも言えないミスマッチ感と不思議な感動を与えている。
郷愁とはまた違った一種独特な特別感、いわゆるエモいって奴だろうか?
少しの間ポカンと景色に見入ってしまっていたコユキは我に返って運ちゃんに告げる。
「霊験ありそうな所って言うとやっぱり瓶壺(かめつぼ)なのかしら? どう思うコーチマン?」
瓶壺とは瓶ヶ森の山中にある、岩から水が湧出している観光スポットである。
運ちゃんは答えた。
「うーん? どうですかね、その少し手前に吉野川源流もありますし、すぐ近くには男山、女山の山頂もありますしね、この山自体が役小角(えんのおづぬ)が初めて権現(ごんげん)を得た霊山ですからね、どうですか? 登山口駐車場からぐるりと回ってみては、一通り回ればどれか分からなくても大丈夫でしょ? そうしましょうよ」
「なるほどね、ってコーチマンも付き合ってくれるの?」
「ええ、もしお邪魔でなければお供しようかと…… 誰もいない駐車場で待っていてもやる事も無いんで付いて行こうかな、っと図々しかったですかね?」
「? いや? 別段悪い事じゃないわよね? んじゃ一緒に向かってみよっか! これは初めてのパターンだわね、面白いじゃない」
登山口駐車場にタクシーを止めて、残雪の残る山道をテクっていく二人である。