午後五時、西区地下街路地。
異能探偵局と、異能警察の四人は出揃っていた。
そこに、コツコツと、静かな足音が聞こえる。
「来たか……」
神子は大きな大剣を両手に構えていた。
路地に影が映し出された瞬間、神子は走り出す。
「反撃の暇など与えない……!!」
しかし……
ガキィン……!!
「早いなぁ、長官さん……」
その大剣を軽々止めたのは、キキョウだった。
手に白い花を携え、重々しい大剣を捉えていた。
「ほう……予想以上にやれそうだ……!」
「こんな大勢で出迎えなくてもいいのに……。仕方ない、お前たち、全員始末しろ……!!」
そうして、キキョウの背後から、複数の男たちが飛び出し、場はいきなり混戦状態となった。
二宮も、相手を火炎で伏せようとした瞬間。
「全員……鎧!?」
無能力者も、犯罪者全員が、対二宮二乃用に、炎を通さない分厚い鎧を身に纏っていた。
「No.2がいることは聞いてたからなぁ! 死ね!!」
そうして、二宮は銃口を向けられる。
ズバン!!
「クソっ……!」
「大丈夫か、二宮!」
銃弾を防いだのは、岩石に身を固めた春木だった。
「春木さん……! 私……これじゃ何も……」
「二宮! お前は行方の補佐に行ってやれ! アイツは無能力者なのに無理をする……!」
「でも……私……」
この戦場において、二宮のか細い声は、春木には届いていなかった。
「頼んだぞ! 二宮二乃!!」
しかし、それはいい方向に働いていた。
「は、はい……!!」
この閉ざされた地下街は、喧騒が鳴り響き、小さい声では相手に何も聞かせることは出来ない。
そんな戦場が、二宮を逃げられなくしていた。
「行方くんは……どこ……!? さっきまですぐ隣にいたのに……!!」
この混戦状態、特に行方のように相手の異能を分析してから戦う無能力者は、その場に居続けることはない。
「こんな時……行方くんならどこに行く……?」
そんな中、少し離れた地上へと続く階段がある路地横から、男たちの悲鳴が聞こえてきた。
二宮は、なんとなくその場へ急いで向かう。
そこには、犯罪者グループと同じ服装で顔を隠した男たちが、何十人と伏せられていた。
「流石です、ジンさん」
「いやいや……気絶させてるのは行方くんでしょ」
そして、そこに行方とジンがいた。
「行方くん! と……ジンさん!?」
「やあ、二宮さん。救援に来たよ」
救援に来た、と言うレベルでは最早、 言い逃れが出来ないほどの人数が、そこには伏せられていた。
「なんで……こんな……」
その人数は、言われていた人数よりも遥かに多く、地下街の人員よりも遥かに大勢がいた。
「これは敵の増援部隊だ。先手を取って片付けた」
「先手って……。行方くんは、敵に増援がいるって分かってたの……!?」
「当たり前だ。相手は何度も僕たちに取引現場の押収を受けている。なのに、今日も変わらぬ時間に来た。と言うことは、今回、奴らの狙いは “僕たち” だ」
「確かに……。私対策用の鎧も……それで……」
「ボサっとしている暇はない。行くぞ、二宮」
「わ、分かった……!」
聞きたいことは山程ある二宮だったが、言い知れぬ信頼感が胸に溢れており、黙って行方に続いた。
当然だが、元より増援部隊に期待していた犯罪者グループたちは、人数差に押されていた。
しかし、唯一倒れなかったのは、キキョウとジュースだった。
「あれが相手グループの核、キキョウとジュースです。ジンさん」
「まさか……本当に……」
ジンを見ると、キキョウは酷く顔を青褪める。
「盾一兄さん……」
「剣二……!」
睨み合う二人、そして、キキョウから放たれる『兄さん』と言う言葉に、全員が静まり返る。
「え……兄弟なの……?」
「そうだ。キキョウ、もとい、一ツ橋剣二は、ジンさんの双子の弟だ」
二人は相対すると、途端に駆け出した。
「そして……二人の異能は全く同じ……。 “無敵の花” と “異能の消滅” だ」
そして、二人は容赦なく花を互いに飛ばし、互いがそれらを消し飛ばし合っていた。
「今日こそ止めるぞ……剣二……!」
「今日こそ認めさせます……兄さん……!」
しかし、全く同じ異能同士、両者一歩も譲らない激しい戦いが続いていた。
しかし、その静寂を切り裂いたのは……。
「油断……発見……!」
異能警察より抜擢された、百瀬白蘭。
周りが二人の戦いに魅入ってる中、長官 八百万神子の背に向かって、拳銃を発砲した。
「クソっ……!!」
反応の遅れる神子。
そして、ニヤァっと笑みを浮かべる百瀬。
「貴女が言ったんですよね! 背に気をつけろと!」
しかし、その瞬間だった。
「まだ役者が出揃ってないんじゃないかな?」
神子へ放たれた銃を消滅……いや、ワープさせたのは、仮面の男……もとい、夏目夏人だった。
「夏目さん……!」
そして、その背後には、夏目が連れてきたであろう大柄の初老の男が立っていた。
「行方くん……夏目さんが……!! あの人、絶対只者じゃない人連れてきたよ……!!」
しかし、行方含め、探偵局員全員は静かだった。
「遅いですよ、夏目さん」
「え……?」
そっと仮面を脱ぎ捨てると、徐に踏み砕いた。
「遅くなってごめんね〜。あと、紹介が遅れちゃってごめんね、二乃ちゃん」
すると、初老の男はズイっと前に出る。
やはり、只者ではないようで、他の者に全く興味を持たずに戦い合っていた兄弟も静まり返っていた。
「えっと……その人は……」
「この人は、異能探偵局が局長。僕たちのボス、十文字燈篭さんだよ」
「異能探偵局の局長……!?」
「そして……」
すると、夏目はジュースをチラッと見遣る。
「今回の事件でキーマンとなっていた少年、コードネーム:ジュースくんの、実の父親だ」
「なんでこんなところに来やがった……クソ親父……!」
目が丸く、状況判断に追い付けない二宮。
しかし、戦場は静かに、沈静化して行くのだった。
そして、静かに笑い始めるキキョウ。
「アハハ……全部芝居だったのか……夏目……!」
二宮も、静かになる現場を見て行方に問う。
「ねえ、あの夏目さん……! 仮面の男って、スパイで私たちを裏切ったんじゃなかったの!?」
慌てる二宮を、ウザそうな顔で見遣る行方。
「違う。夏目さんは、“二重スパイ” だったんだ。夏目さんが言ってただろ、“絶対に勝つ” って」
「アレは私たちに悟られないようにする為じゃ……?」
「僕たちには、全員キキョウに丸聞こえの無線が仕込まれていた。僕たちはわざと気付かないフリをしていた。だから、夏目さんが自由に動く為には、夏目さんがスパイだと判明させる必要があったんだ」
「そう……。そして、無事に行秋くんが僕を犯人だと裏付けてくれたことで、剣二くんの耳から離れられた。そして新たに別の嘘を介入させることもできた」
「その嘘ってのが、キキョウの兄にして天敵のジンさん、ジュースの逆らうことの出来ない父親にして探偵局局長の局長が今日は来られないと言うデマ情報だ」
「だから、今日は自信満々に俺たちと交戦……いや、探偵局を潰して、盾一くんを自分のものにしようと踏ん切りが着いたんだよね、剣二くん」
そして、静かに、キキョウは膝をついた。