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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第二十四話 もう一枚
その夜。
彼は机の上に置いた三枚の写真を、
何度も見比べていた。
一枚目は、今の場所。
二枚目は、昔の場所。
そして三枚目。
誰にも見せていない写真。
なぜこの写真だけ、隠すようにしまっていたのか。
自分でも分からなかった。
写真には、二人分の影が写っている。
顔は分からない。
けれど、そのうち一人が自分だということだけは、
なぜか分かる。
問題は、もう一人だった。
写真の裏には、短い文字が残っている。
「次は、ちゃんと話そう。」
彼はその文字を指でなぞった。
「誰と……?」
何度考えても、答えは出ない。
翌日の夜。
サイトを開くと、彼女が先に来ていた。
『昨日の写真、気になってる』
『どれ?』
『昔のやつ』
『やっぱり?』
『うん』
彼は少し迷った。
三枚目の写真を送るべきか。
でも、なぜかまだ送れなかった。
『もう一枚あるって言ってたよね』
『覚えてたんだ』
『そりゃ覚えてるよ』
『じゃあ、会ったときに』
『今見せてくれないの?』
『だめ』
『なんで(笑)』
『なんとなく』
『またそれ』
彼女が笑う。
彼も笑った。
けれど、写真を送れない理由は、
ただのもったいぶりではなかった。
怖かった。
この写真を見せたら、
何かが変わってしまう気がする。
それが何なのかは、自分でも分からない。
『じゃあ、会ったときね』
『うん』
話題が変わり、
二人はいつものように学校の話をした。
途中で彼女が、
『そういえば、今日ちょっと面白いことあった』
と話し始める。
彼はそれを聞きながら笑った。
写真のことを考えていたはずなのに、
いつの間にか忘れていた。
それくらい、いつもの会話が心地よかった。
しばらくして、
『会ったらさ』
と彼女が言った。
『うん』
『最初、何話そうか』
『考えてない』
『私も』
『じゃあ、その場で決めよう』
『それでいいね』
二人で笑う。
会うことが、少しずつ現実になってきている。
それでも彼は、まだ知らない。
あの写真に写っている相手が誰なのか。
彼女も知らない。
自分がその写真を見ることになる理由を。
その夜、彼は最後まで三枚目の写真を送らなかった。
机の引き出しにしまう。
そして、鍵をかけるようにそっと閉じた。
写真の裏に残された言葉だけが、静かに残っていた。
「次は、ちゃんと話そう。」
コメント
1件
第24話、拝読しました。三枚目の写真をめぐるもどかしさと、彼女との会話の自然な温かさが絶妙でした。「会ったときに」という未来の約束に、読んでいるこちらまで胸が温かくなりました。でも、写真を送れない理由が「怖い」という一文に、何か大切なものを失う予感がしてドキリとしました。引き出しに鍵をかけるラストも、とても印象的です。続きが気になります。