人間の誰もが自由という空を飛び回るための翼を持っている。
しかし皆その使い方を知らない。
翼を持っていることに気がついていない人もいるかもしれない。
けれど、彼は違った。
繋がれていた鎖を全て壊し、空へ飛び立った。
美しい白い翼を使って空を自由に飛ぶ姿に多くの人は魅了された。
俺もその1人。
彼は誰にでも手を差し伸べた。翼があることを、空の飛び方を教えた。
まだ使い慣れていない白い翼も彼のおかげで使えるようになった。
いつしか彼に尊敬や愛しいという感情を抱くようになった。
その笑顔を優しさを俺だけに見せて欲しい。
ないこの全てを俺の物にしたい。
そんな醜い願望を叶えるため、彼の翼を思いっきりもぎ取った。
そして鎖で縛り付ける。
最初は恐怖を浮かべていた瞳も今は俺しかうつしてない。
もう二度と彼は空を飛べない。
もう二度と俺の手元から逃げられない。
もう二度と彼は俺以外に微笑まない。
もう二度と彼の瞳に俺以外をうつすことは無い。
やっと彼を自分のものにすることが出来た。
はたしてそうだろうか。
翼は彼の空を飛ぶ姿こそが彼の本当のあるべき姿では無いのか。
俺は彼のそんなところに惹かれたのではないのか。
あぁ。
彼は、俺の大好きだった彼は俺がこの手で彼ではなくしてしまったのだ。殺してしまったのだ。
後悔してももう遅い。
死んでしまった人間は生き返らない。
視界がぼやける。
生ぬるい水が頬をつたい、控えめな音を立てて地面に落ちる。
そんな俺を見ていたないこは俺の目元を拭ってきた。
彼は無表情でその瞳は彼のようにキラキラとはしていなかった。
そして、感情の籠っていない声で囁いた
「まろ、俺はずっとここにいるよ」
あぁそうか。
これが彼であろうとないこであろうと関係ない。
俺が愛した人という事実は変わらないのだから。
「ないこ、愛してるよ」
もう俺の瞳には彼しかうつっていなかった。
俺に身体を預け、寝てしまった彼の頭を撫でる。
青色の綺麗なサラサラとした髪。
幸せだな。と少し口角が上がるのを感じる。
やっとだ。
やっと彼が俺のものになった。
彼はきっと気がついていない。
全て俺がこうなるように仕向けたことも。
俺の翼の色が本当は黒いということも。
彼の純白の翼は黒く染まってしまったことも。
きっと気がついていない。
彼の耳に口を近づいて呟く。
「まろ、一緒にオチヨウネ」
勢いよく彼の翼をもぎ取った。
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