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人が見えないところまで来ると止まって僕を見た。
「これ多分遅効性の毒やぞ」
「え」
「今はただ痛いで済んでるけどそのうちそれだけじゃ済まなくなる」
「そんなに重いやつなの、これ」
「多分やけど、もう少しして腫れるようなら重いやつ。変色してくるようならもっと重いやつ。ただ痛いだけなら軽いやつ」
「怖っ、ヤバい?もしかして」
「死ぬような毒じゃないけど……痛いやろ?」
「まぁ、うん」
心配する声の彼に頷けば目線を逸らしながら提案してきた。
「一応…応急処置はできる」
「マジ?やってくれよ」
「ただ、その……ちょっと痛いし、汚いかも」
「どういうこと?」
「……傷口の毒を口つけて吸い出す」
「結構古典的。え、カゲツは大丈夫なの?毒が口に入っても」
「一応忍者やぞ?毒耐性はある程度あるし平気」
「へえー、知らなかった」
「呑気やな」
「え、やってよ」
「え」
「汚いとか言わないから。あと、ちょっと気になるし」
付け加えた言葉に彼は若干顔をしかめてから僕の腕をとった。
こうしてみるとかなりの至近距離だ。彼の息遣いが分かるくらいそばに彼がいた。
猫のようなオッドアイが前腕と指先の傷口をよく観察して、前腕の方へと口を近づけた。
「あんま見んな」
じっと見てしまっていたらしい。目が合うとぼそっとそう言った。
頷いてみるもののやっぱり気になる。顔はちょっと背けて目線だけ彼を見やる。
傷口を覆うように、齧り付くようにして彼は腕に口づけた。
「い゛」
傷口に熱くてザラザラした感触がして思わず短く悲鳴を漏らす。
さっきの興味はすっ飛んで思い切り顔を背けた。
びく、と腕が震えたが彼にしっかり掴まれているため作業はそのまま続行された。
何度か傷口の上を舌が往復する感覚にぞわぞわと鳥肌を立てた。
野生動物が傷口の消毒として舐める行動は知っているが、これもそれのための行動なのだろうか。
そう思っていればさっき彼のオッドアイから猫を連想したのを思い出した。今の行動も忍者というよりも猫のほうがしっくりくる。
想像してちょっと笑って視線を戻して息を呑んだ。
伏し目で傷を舐め取る彼の姿に喉が鳴る。
健気で可愛い白い猫。
苺のように赤い舌が小さな口からチラついて見えて。
何?何想像した?
分からない。
自問自答。答えは出ず。
さっきまで普通に見ていたはずの彼の仕草に動悸がした。
じうっ、と音を立てて吸われる。