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ここは城。孤独なお城。私がここから出るのを許さない。
外では、子供たちが楽しそうに遊んでいた。
私はそれを窓から眺め続けている。
いつからこうしているのだろう。もうそれすらも覚えていない。
最後に笑ったのはいつだっけ?
少なくとも、思い出せないくらい昔であることは確かだ。
子供たちから視線を逸らし、ため息をつく。
また何も変わらない、つまらない1日が始まった。
ある日、私の城に現れた君は、私が望む全てを持っていた。
最初は、そんな君が眩しくて羨ましくて、怖くて逃げた。
壁を作った。
でも、君はたやすく飛び越えてきて、私の腕をつかんでいった。
「ずっと、寂しかったんだね。」
心を読まれたのだろうか。
怯えて、焦って、また逃げた。
部屋に飛び込んで、鍵をかけて。
君は毎日、私に話しかけてきた。
私はろくに返事もしなかったのに。
君はすごく優しかった。
私の知らない、外の色んな話をしてくれた。
最初は怖かったけど、今は戸惑っている。
優しくされたことなんてなくて、自分の気持ちが分からなくなって。
ずっとずっと1人でいたから。
ある時、ピアノの音が聞こえた。
私は弾き方も知らなかったけど、君が奏でるメロディーはすごくきれいで、もっと近くで、遮るものがない所で聞きたくなった。
閉じこもったあの日から、初めて部屋の外に出た。
恐る恐る近づいていくと、君は私に気づいて満面の笑みをうかべた。すごく嬉しそうだった。
その日を境に、本当に少しずつだけど私も話すようになった。
今までは、私の言葉に返してくれる人なんていなかったから知らなかった。
誰かと話をするのって、こんなに楽しかったんだ。
君は色んなことを教えてくれた。
文字や歌、一緒にたくさん遊んだりもしたね。
きれいな声だと褒めてもくれた。
たくさん笑ってくれた。
いつも、君は笑顔だった。
だけど、1度だけ、とても悲しそうな顔をした。
「ねぇ、外へ行こうよ。」
君は言った。
「行けないよ。」
私は答える。すると君が、不思議そうな顔をした。
「どうして?」
そう言われた時に初めて、私の手足を縛り付ける鎖が君には見えていないことを知った。
「城の外へは出られないの。」
君があまりにも悲しそうな顔をするから、私もなぜだか悲しくなった。
私はもう、外へ出るのを諦めていたはずなのに。
それからは、外へ行けない私の代わりに君が花をつんで来てくれた。
近くで見る花は想像以上にきれいだった。色鮮やかできれいだった。
現れた時と同じように、君は突然、そっと消えてしまった。
「また来るね。」
そう笑って言ってくれたのに。
お城の中を一生懸命探したけどいなくて、恐れ、という感情が込み上げてきた。
あぁ、私は君に隠し事をしていた。
だから、来てくれないの?神様は私に罰を与えたの?
君が現れてからずっと、毎日が楽しかった。
ずっとこのままでいたいと願った。
だけどそれは叶わなくて。
与えられたのは永遠だけ。
君はもうここにはいない。
初めて、人のために叫んだ。
何かが頬をつたっていく。
あぁ、これが涙なのか。
いつの間にか泣いていた。
もっと、うれしいよって、楽しいよって、素直に言葉にすればよかった。
もっと、笑えばよかった。
君は私の中で、とても大きな存在になっていて。
君の声が、笑顔が、忘れられない。
もっと早く、この気持ちに気づけばよかった。
いや、こんなに辛いのなら、苦しいのならば、いっそのこと気づかない方が良かったのかもしれない。
…どっちにしろ、後悔したってもう遅い。
涙が止まってくれない。
泣いたってどうしようもないのに。
君のいないこの城は、いつも以上に冷え冷えとしていて空虚だった。
君が教えてくれた、与えてくれた温もりの影は、私の孤独の城を許さない。
私を縛るこの鎖は、永遠に私の終わりを許してくれない。
私の中の時間は止められた。
遠い昔に。
私はこの孤独から逃れることすら出来ないのだ。
君がいなくなってからしばらくがたった。
私は相変わらず泣いている。
どうしたらいいのか分からない。
ただただ苦しくて、いつの間にか君の面影を探している。
君との思い出を思い出している。
君がつんできてくれた花は、もう枯れてしまった。
君が弾いていたメロディーを弾くことは出来ないけど、私の中にちゃんとある。
君は最後に、何て言ってたっけ?
あぁそうだ。ずっと笑っていてね、って言っていた。
君らしい。笑っていてね、か。
そうだね、笑っていよう。
たまに泣いてしまったとしても。
君が好きだと言ってくれたように笑いながら、涙を紡ぎ続けて君を待っていよう。
君が約束してくれたから。
また来るって。
だから、君が教えてくれた歌を歌って、この城でずっと。
だって私には、「永遠」という時間があるのだから。
何千年も待ち続ける。また君に会えるその日まで。君が再び私の前に現れる時までーーー。