彼があれを作ってくれた次の日、星歌も今度は行人のために彼の亡き母の「宝石箱」を探った。
本当はジュエリーボックスじゃなくて手芸用品入れというのは分かったけれど、小さくてキラキラと輝くビーズは本物の宝石のように美しい。
そこから白く光る星型のビーズを選んで、行人がやっていたように糸に通す。
不器用な星歌のこと。少々いびつだが、おそろいの飾りを作ったのだ。
──いい? きのうのキッスのことはだれにもナイショだからね!
なぜだか脅すような発言になってしまったが星の飾りを手渡すと、はにかんだように行人は笑ってくれたっけ。
「……なんで忘れてたかな、私は」
唇によみがえる甘くてやさしい感情。
それは星歌にとって、胸にぎゅっと抱きしめたい想い出となって蘇った。
でも、今は考えるまい。
幼い彼女があげた星飾りを、行人がキーホルダーにして持っていてくれた──それだけで十分だ。
星歌はスニーカーの踵を床にしっかりとつけた。
背筋がピンと伸びる。
そろそろ向かいの高校の下校時間だ。
お腹を空かせた生徒たちがやって来るに違いない。
お客さまをお迎えしなくちゃ。
その建物の中には義弟もいるのだということは決して考えるまいと、星歌は商品を入れる紙袋を準備する。
だから、である。
そのバイブ音を、星歌は見事に無視していた。
「ちょっ……」
いつのまにか隣りに来て、レジの点検を終えていた翔太がこちらを睨む。
その小さな身体に、苛立ちの炎がささやかにではあるが燃えていることに星歌が気付いたのは、しばらく経ってからのことだった。
「ちょっ、……星歌、それ」
「えっ? ゴメンナサイ!」
何か言われる前に、とりあえず謝ってしまう──それは、社会人生活で星歌が身に付けた怒られない為の技法である。
「ゴメンナサイ。気ヲツケマス!」
「う、うん……」
案の定、翔太は開きかけた口をとじて気まずそうに視線を逸らす。
「何デ怒ラレテイルノカハ、分カッテイマス!」
星歌が叫んだそばから、エプロンのポケットで唸る電子音。
はあっ……と大袈裟に翔太が息を吐いた。
「さっきからうるさいよ、それ。事情があるときは別だけど、基本的にはこっちにスマホ持ってくんなって」
「ハイ。承知シテオリマス!」
「……ホントかなぁ」
首を振る翔太。あからさまに疑いの眼差しだ。
「もういいよ。急用かもだし。出たら?」
「ハッ!」
あたふたした動作でエプロンからスマートフォンを取り出す。
帰ってこない義弟がどうしても気がかりで、現状唯一の連絡手段であるそれを手放せなかったのだ。
「ハイッ! 白川デアリマス!」
翔太とのやりとりそのままのノリで大声で応答したものの、出る前に通話は切れてしまっていたらしい。
不通である。
着信履歴には、やはりというべきか。
「行人」の名が並んでいるではないか。
これまで平気だったその文字に、心音が高鳴る。
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