テラーノベル
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36
タ「……ん……。ここ、どこだ……?」
タルタリヤが目を覚ますと、そこは見渡す限り真っ白な、窓ひとつない部屋だった。
自室のベッドで寝ていたはずなのに、気づけば冷たい床の上。
しかも、目の前には自分と同じように困惑した表情(といっても、眉間に少し皺を寄せた程度の冷静なもの)で周囲を見渡す、往生堂の客卿がいた。
タ「鍾離先生……!? なんでここに……?」
鍾「公子殿か。……目が覚めたようだな。俺も今しがた意識が戻ったところだが、どうやらここは璃月ではない、特殊な空間のようだ」
タ「誘拐……にしては、俺たちを同時に捕まえられる奴なんてそうそういないよね。……あ、あそこになんか書いてある!」
タルタリヤが指差した壁面。そこには、空中に浮かび上がるような金色の文字が踊っていた。
相手の渇きを潤し、心身ともに満足させなければ出られない部屋
タ「……は?」
その文字を読んだ瞬間、タルタリヤの脳内に稲妻が走った。
渇きを潤す? 満足させる?
しかも、二人きりの密室。
ファデュイの部下たちが酒の席で話していた、下世話な噂話や巷で流行っている官能小説の導入部が、一気に記憶の底から蘇ってくる。
タ「(渇きって……それって、そういうことだよね!? 鍾離先生みたいな浮世離れした人が、実は心の奥に溜め込んでる……情欲とか、独占欲とか、そういうのを俺が……!?)」
タルタリヤは一瞬にして、顔が沸騰しそうなほど熱くなった。
まだキスもしていない、友人以上恋人未満の距離感。
なのに、この部屋は最後までやらないと出さないと言っているようなものではないか。
タ「(ま、待ってよ……心の準備が! 相手はあの、生真面目な鍾離先生だよ!? 俺、どうすれば……脱げばいいの? それとも、俺から襲えってこと!?)」
一方の鍾離は、顎に手を当てて深刻そうに文字を見つめていた。
鍾「ふむ……渇き、そして満足か。……公子殿、これは予想以上に厳しい試練かもしれんぞ」
タ「っ……! 鍾離先生も、やっぱりそう思う!?」
タ「(先生も、やっぱり俺に対してそういう渇きを持ってたってこと!?)」
鍾「ああ。人の欲望というものは、底が見えぬものだ。特に満足の定義は人によって異なる。中途半端な妥協は許されないということだろう」
タ「そ、そうだよね……! 妥協なんて、先生が許すはずないもんね……!」
タルタリヤは覚悟を決めた。
羞恥心で心臓がバクバクといっているが、ここでモタモタしていても始まらない。
彼は震える手で、自分のマフラーに手をかけた。
タ「……わかったよ、先生。……俺、やるよ。先生が……その、満足してくれるまで、付き合うから」
鍾「おお、協力してくれるか。恩に着る、公子殿。君ならそう言ってくれると信じていた」
鍾離が、タルタリヤの肩に優しく手を置く。
その接触だけで、タルタリヤはと変な声を出しそうになった。
タ「(……ああ、もう! 先生の顔、近すぎる……! まつ毛長いし、いい匂いするし……これから、ここで先生とあんなことやこんなことを……!)」
タルタリヤは目を固く閉じ、唇を突き出した。
まずはキスからだ。
そこから先は、先生がリードしてくれるはず……。
鍾「……? 公子殿、何をそんなに力んでいるんだ? 顔も真っ赤だぞ」
タ「……え? だって、これから、その……先生を満足させなきゃいけないんでしょ?」
鍾「いかにも。……幸い、あそこに用意されているようだぞ」
タ「……用意?」
タルタリヤが恐る恐る目を開けると、部屋の中央に、いつの間にか豪華な円卓と、見覚えのある茶器一式が出現していた。
そして壁には、新しく文字が追加されている。
ターゲット:鍾離。彼が今、最も求めている渇きを癒やせ
鍾「……おお! これは……! 龍井茶の最高級品ではないか! しかもこの茶器、幻と言われた太古の……!」
鍾離は、これまでに見たことがないほどの速さで円卓に駆け寄り、愛おしそうに茶器を撫で始めた。
タ「………………はい?」
鍾「公子殿、どうした? 早く座ってくれ。……実は、先ほどから喉が渇いていてな。往生堂を出る前に茶を飲む暇がなかったのだ。この極上の茶を、公子殿と語らいながら楽しむことができれば、これ以上の満足はない」
タ「……お、お茶?」
鍾「ああ。……それとも、公子殿は何か別のものを想像していたのか?」
鍾離が、不思議そうに首をかしげる。
その瞳は一点の曇りもない、澄み渡った琥珀色だった。
タ「……っ、い、いや!! なんでもない!! お茶だよね! そうだと思ったよ!!」
タルタリヤは、マフラーを掴んでいた手をバッと離し、猛烈な勢いで椅子に座った。
顔から火が出るどころか、全身が爆発しそうなほど恥ずかしい。
(俺、今……自分からキスしようとした!? しかも鍾離先生は、ただお茶が飲みたかっただけなのに!?)
タ「(死にたい……! 穴があったら入りたい……! 火山に飛び込んで消えてしまいたい……!!)」
鍾「……公子殿、手が震えているぞ。やはり具合が悪いのではないか?」
タ「だい、じょうぶ! ちょっと、部屋が白すぎて目がチカチカしただけだから!」
鍾「そうか。……では、この茶の淹れ方についてだが。まず、湯の温度は……」
そこから、地獄(タルタリヤにとっての)が始まった。
鍾離は満足するまで出られないというルールを逆手に取り、茶の歴史、茶器の鑑定、璃月の茶礼について、延々と語り出したのだ。
鍾「この香りを嗅いでみろ。まるで春の嵐が通り過ぎた後の……」
タ「(あ、ああ……長い。毎度のことだけど、今日は特に長い……! でも、下手に話を切り上げて先生が満足しなかったら、一生ここから出られないし……!)」
タ「……へ、へぇー、そうなんだー。すごいね先生……」
鍾「おや、公子殿。そんなに遠い目をして、どうしたんだ? まだ茶菓子については一言も触れていないぞ。……さあ、次は……」
結局、タルタリヤが解放されたのは、鍾離が満足げに最後の一滴を飲み干し、「いやはや、実によい時間だった」と微笑んだ、5時間後のことだった。
部屋の扉が開き、気づけば二人は、璃月の埠頭に立っていた。
いつもの、騒がしくも平穏な日常の景色。
鍾「ふむ。不可思議な体験だったが、君のおかげで実りある休日になった。ありがとう、公子殿」
タ「……うん。俺も、勉強になったよ……。……いろんな意味でね」
鍾「? 何か言いかけたか?」
タ「なんでもない!! 先生、じゃあね! 俺、北国銀行に急ぎの用事があるから!!」
タルタリヤは脱兎のごとく逃げ出した。
背後で鍾離が「……おや、元気なことだ」と呟いているのが聞こえたが、振り返る余裕なんて一ミリもなかった。
タ「(……次、あの手の部屋に閉じ込められたら……絶対に先に『何しなきゃいけないか』を確認してやるからな……!!)」
今回もAIくんのか、、?
自我出してすみません
コメント
2件
き、きた
うわああああタルタリヤの一人で暴走して大恥かく流れ、天才すぎるでしょ!!笑 「お茶」でこの展開持ってくるのズルすぎる〜😭💕 鍾離先生が本気出して茶を淹れだしたときのタルタリヤの「長い…!」って顔、目に浮かぶわwww 5時間耐久茶講座からの脱出、お疲れ様でした…(?) 旅人さん、今回も最高にエモくて笑えるお話ありがとうございます!!次回も楽しみにしてますね🌸