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「先生。締切は来月の10日ですよ」
「大丈夫。間に合うから安心して」
「そうは言っても、このペースじゃ……」
「??」
睨みをきかせれば、出版社の担当が後込む……
なんてことは無い。
売れっ子作家でもない普通レベルの私には容赦ないダメだしが飛んでくる。
それでも、何とか「恋愛小説」を2冊出すことができたのは、読者のおかげ……なんだろう。
私の小説を面白いと言ってくれてることに、なぜか素直に感謝が溢れる。
そして、不思議だけど、最近、両親の仲が良い。
心做しか、お母さんが小さくなってる気がしてて、その代わり、お父さんがお母さんに優しく声をかけている。いったい何がどうしたっていうの?
でも……
両親が穏やかで、仲良くしてるのを見るのって……そんなに悪いものではない。
私はそんな2人とは離れ、近くのマンションに1人で暮らしてる。
小説家としてはまだまだ駆け出しだけど、書くことが心から楽しいと思えてる。
週に2日のバイトも頑張って、少しだけど実家にお金を渡してる。こんな生活を送る日がくるなんて、前は想像もしていなかった。
双葉を妬んでいた自分がどれほどみじめだったか、今ならわかる。だけど、あの頃の苦しい気持ちはどうにもならなかった。
今は、色んな経験を糧にして、貪欲に作品を書いている。そんな中で、少しずつ、自分自身の「幸せ」も……そろそろ考えてもいいのかなって思うようになった。
幸せがどんなものなのかわからないし、それがどこにあるのかもわからない。
それでも、いつかは……見つけたい。
「もみじ先生。原稿、それができたら少し休憩しませんか? 近くにオシャレなカフェができたみたいですよ」
「そうなんだ。べつにいいけど」
私は、外に出て、2人でカフェに向かった。
なぜかみんなが私……ううん、となりにいる編集者の男性のことをチラチラと見ている。
「あなたのこと、みんな見てるけど、顔に何か付いてるんじゃない?」
「何も付いてませんよ。いつも思いますけど、先生は、僕が高身長のイケメンだってこと、わからないんですかね?」
「あなたがイケメン? 理仁さんに比べたら、あなたは普通よ」
「理仁……さん?」
「……別にいいの。気にしないで」
「先生の……好きな人?」
「……違う、好き……だった人。もう未練はないわ」
本当に……もう忘れてる。
だけど、あんな素敵な人には二度と出会えない。
「そうですか。じゃあ、今、先生には特別な相手がいないってことですよね」
「はあ? 私がそんなモテないとでも思ってるの?」
確かに相手はいないけど。
この男、ちょっとムカつく。
「まさか! もみじ先生はとても素敵です。正直、相手がいるのかいないのか、すごく気になってました」
な、何?
そんなウサギみたいな可愛い目で私を見ないでよ……
「い、いないわよ。今はね。でも、そのうち幸せになる予定だから」
「そのうち……ですか。でも、もし良かったら、その予定、今すぐにでも実現させませんか?」
「えっ?」
「僕なら、すぐにあなたを『幸せ』にできますよ。ここ1年、ずっと近くで先生を見てきましたから」
何だかよくわからない。
でも、どこにあるかわからないと思ってた幸せは……意外と近くにあるのかも知れない。
「今度は遊園地に行きましょうか? 近くにある小さな遊園地なんですが」
「そこだけは遠慮するわ」
「じゃあ、ボーリングでも」
「何でボーリング?」
「僕、得意なんで、スコアヤバいですよ。聞きたいですか?」
「別に」
「聞いてくださいよ」
「じゃあ、実際、やって見せてよ」
「やった! ぜひぜひ」
こういうのが……
もしかして「幸せ」っていうの?
まだ、全然、わからないけどね。