今、僕とみこの前には女性用の標識が書かれた扉がある。
言わずもがな、”女子トイレ”だ。
「……。」
「………似合ってるわよ、聡。」
「嬉しくないよ!?」
校舎に入った後、僕はみこと教室に入って女子の制服に着替えさせてもらった。
ていうか、夜だから誰もいないしいいのでは、とも思ったけど…みこはそれを許しませんでした。
恥ずかしい……何か下の方、すーすーするし…
うぅ……恥ずかしい。
「………。」
「…?どうしたの、みこ?」
「………はっ……な、なんでもない///」
…?
まあ、まずは夜の大鏡をしないと始まらないか…
「じゃあ、行ってくるね。」
そう言ってトイレの中に入っていく。
みこは外から扉を開けて見ているため、まあこの前の公衆電話の時よりは楽かな…。
鏡の前に立って自分を見る。
「…いや、やっぱ女装しなきゃ良かった…」
改めて自分の女装姿に嫌気がさす。
………無駄に似合っているのがいやだ…。
髪の毛も少し伸びてきたから女の子みたいになってるんだよなー…
そんな事を考えながら腕時計を見ると、
既に時刻は4:40分…流石に着替えるのに時間かかりすぎたか…。
まあちょうど良いかな。
時刻は4:44分、よし…
「……何か変わった?」
鏡を見た後、みこを見るが特に何も変わっていないようで首を横に振っている。
…とりあえず、花子さんやろう。
奥のトイレの扉の前に立って、僕は3回ノックをして、
「花子さん、遊びましょ……」
「まあ、そりゃ何も起きないよね…。」
僕がそう言うと、みこは僕の隣にやってきてトイレの中を覗いた。
「…ふふ、これも予想済みよ。
じゃあ部室で仮眠でもとろっか……」
いや、あからさまにテンション下がってるし…
「仕方ないでしょ…一緒に部室のテレビでゲームでもしとこうよ。」
そう言ってみこと歩き出そうとしたその時…
「たす…けて…」
「…!!」
「い、今何か聞こえてーー
その声のした場所は先ほど、花子さんを試したトイレの中だった。
視界には 花子さん と思わしき女の子が1人うつる。
だが、体は妙に透けており ”下半身が切られたように無くなっている”。
「ひっ…」
咄嗟に情けない声を出したが、僕ははっとしてみこを後ろに立たせる。
「…あ、あなたは花子さん…ですか?」
「………たす……けて……。」
花子さんと思わしき少女は力無くそう言う。
その理由は姿を見れば明白だろう。
瞬間、花子さんは姿を消した。
「…!?」
「…あはは、聡…ちょっとやばいかも…」
「え、どうしたのーー
視線をみこと同じ方向に向けたその時、僕は驚いて後ろの壁に背をつけてしまった。
扉の奥からは無数の黒い影がこちらを見ている。
もしかして、花子さんはあいつらにやられたのか…?
あの時と同じ…さとるくんと会った時と同じ
“命の危機”を僕は感じた。
「…え、ちょ、聡ーー
「うわあああああぁ!?」
そう考えていたら、無意識に体がみこの手を取って動き出していた。
無数の影を横切って僕たちはトイレから遠ざかっていく。
とにかく逃げないと…逃げないと…やばい…
ガラガラガラ
ガシャーン!!
ドンドン! ドンドン
うわぁ、やばいやばいやばい、怪奇音がめちゃくちゃ色んなところから聞こえてくるんだけど…!?
「ね、ねえ!どこに行くの!?」
「わかんない、でも逃げないと!!」
行き先もわからず、僕とみこは走り抜けていた。
「と、とりあえず理科室に隠れよう!」
そうして僕らは理科室の中に入ったが…
「ぎゃあああ、人体模型が動いてるぅ!?」
〜〜〜〜♪
「ぎゃあああ、勝手にピアノが鳴ってる!?」
ズズズズズ…
「ぎゃあああ、二宮金次郎さんの像が動いてるぅ!?」
…いや、よく考えたらうちの学校あんな像ないぞ!?
「…うぅ、怖すぎる…」
「はあ…はあ…ちょ、ちょっと休もうよ、聡。」
「ごめん、みこ…でも逃げないとーー
…ああ、終わった。
顔を上げると、僕らの周りにはあの黒い影が囲んでいた。
ゆらゆらと揺れながら、まるで追い詰めたと言うかのように僕らを見つめている。
「…みこ、お願いだから逃げて欲しい。僕がこいつらと話してみるから…」
僕は震えながらそう言うが、みこは首を横に振って僕の手を掴む。
「だめだよ…もう1人で行かせたりしないから…」
はは…ほんとに…
僕は影たちの方を見てじっとしていた。
これ以上、彼らを刺激するべきではない。
。。。ケテ
「…え?」
今、影たちが何かを言ったような…
タス………ケテ
揺れる影が指を指すように僕の背後に伸びた。
その方向を見ると、そこにはおぞましく、そして痛々しい姿の女が鎌を持っている。
下半身がなく、あのトイレで見た花子さんとは違う長い髪…
やつを見たみこは震えた声で僕に伝える。
「聡…に、逃げよう…あれは私たちじゃ手に負えないから…あれは…”テケテケ”よ…」
テケテケ
下半身の無い女子高生の霊…その大きな鎌で女性の下半身を切り裂き、自分のものにしようとするらしい。
花子さんの体が切り裂かれていたのは、影たちのせいではなく、テケテケのせいだったのか…
そして、影たちはそれを僕たちに伝えようとしていた…
いや、対処できるわけないだろ!?
なんで学校にこんなやつがいるんだよ…
「……アア…アアアアハ…。」
テケテケは腕を使ってすごい速度で追いかけてくるという。
いずれにせよ、逃げ切ることはできないだろう。
「ごめん、みこ。」
「…聡?」
僕はみこを後ろの方に押してテケテケと少しでも離れさせる。
「ちょ…!?」
そして、一目散にテケテケの元に走り出した。
テケテケは女性しか狙わないというが…今の僕は完全に女の子なんだよ!!
「テケテケ、僕がーー
「アハァ…アハ…あひゃひゃひゃ…」
見えなかった。
一瞬にして僕はテケテケに押し倒される。
すぐに殺さなかったのは、僕をいたぶるためなのかもしれない…でも…
「…やられて…たまるか…!」
僕はテケテケ腕につかまって鎌を振り下されないように暴れる。
「……ああ…アアアア!?!?」
「ぐぅ…!?」
紐のように振り回され、ポケットに入れていたハンカチや財布が落ちていく。
それでも何とか耐えていたが…
「ぐ…くそ……」
「アハァ…♪ ツカマエタ…」
僕を押さえつけたテケテケはその鎌を大きく上に掲げて、一気に振り下ろした。
コツン
「ア…?」
「こっちを見なさいよ、テケテケ…!」
声のした方を見ると、みこがこちらを睨んでいる。
地面に落ちている靴を見て、みこがそれを
テケテケに投げた事を理解した。
「み…こ…、逃げて!!」
「…!!」
声に反応して、みこはその場から少し距離をとろうとする。
だが、間に合うはずが無かった。
テケテケが容赦なく、その鎌をみこの胴体に振り下ろしていく姿が僕の目にうつる。
「みこ!!」
絶対に手出しさせない…!!
そう考えると同時に僕は落ちていた
“荷物の1つ”をテケテケに向かって投げる。
少し重さがあるそれは、母から昔、買ってもらった大切なガラケーだ。
テケテケに当たると同時に開き、暗闇の中で目立つ画面が 僕の目に差し込んだ。
非通知ーー
『緊急電話だ。』
ガキィン!!
そう音が鳴ると同時に僕らの前にそいつは
“姿”を表した。
忘れようもない、全身が黒い肌で覆われていて異様な手足の長さ、目がなく笑うような口のそいつを。
「…キヒ…」
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