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#エリオット
あおあお
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#エリオット
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FORSAKEN・特級サロン。
普段は冷徹な会議や組織運営にのみ用いられるその空間は、この日ばかりは人間界の格式高き英国文化を模した「アフタヌーンティー仕様」へと変貌していた。
黒薔薇が咲き誇る大理石のテーブル。
漆黒の銀細工で組まれた三段ティースタンド。
魔界産ベルガモットを使用した最高級ダージリン。
焼き立てのスコーン。
宝石のように輝く魔界イチゴジャム。
そして、真っ白なクロテッドクリーム。
……怪物しかいない空間とは思えないほど、完璧で優雅だった。
「……スコーンは焼き上がりから八分以内。外側は割れるほど香ばしく、中は水分率三八・二%。ジャムの糖度との黄金比率も完璧だ」
1eggsは金色の瞳を細め、白いコック帽を軽く押し上げながら、三段スタンドへ最後の一皿を丁寧に並べていく。
料理とは芸術。
配合は信仰。
スペクターへ捧げる一皿に、一ミリの妥協も存在しない。
その黒い指先が小さなティースプーンの角度を〇・五ミリだけ調整した瞬間――
「すごいね、1eggs。」
ふわり。
焼き立てのパンの甘い香りと共に、ジョンドゥが音もなく隣へ滑り込んできた。
首元の赤いスカーフを優雅に揺らし、いつもの満面の笑顔。
右腕の大型ミキサーも今日は珍しく、
トトトト……トトトト……
と、高級時計の秒針のような静かな回転音しか立てていない。
「君が作るジャム、本当に綺麗だなぁ。宝石みたい。」
「……当たり前だ。ジャムは温度管理が命だからな。」
「だから僕もね。」
ジョンドゥは当然のように1eggsのすぐ真後ろへ立つ。
「このスコーン、一緒に盛り付けよう?」
「一緒にはやらねぇ。」
「はい。」
「聞け。」
返事より早く、ジョンドゥの白い手がティースタンドを支えた。
二人で三段スタンドを持ち上げる形になる。
「人間界の本にはね、『アフタヌーンティーは大切な人と楽しむもの』って書いてあったんだ。」
「だから?」
「だから今、僕すごく幸せ。」
「だからじゃねぇ。」
「一緒にスコーンを並べるだけで夫婦みたい。」
「夫婦じゃねぇ!!」
静寂だったサロンへ、1eggsの絶叫が木霊した。
「紅茶の香りより先に不純なこと言うなッ!!」
「でも英国ではね――」
「英国を免罪符にするな!!」
ジョンドゥは叱られているにもかかわらず嬉しそうに頬を桃色へ染め、
トトト……♪
とミキサーをさらに軽快に鳴らす。
その時だった。
テーブルの向こう側から、
「ハァ……ハァ……」
という、どう考えても優雅ではない荒い息遣いが聞こえてきた。
「…………。」
二人が視線を向ける。
そこには。
最高幹部・古代の覇王ノスフェラトゥが、
ペルシャ絨毯の上で完璧な「お座り」の姿勢を取り、
スペクター専用ティーカップだけを凝視していた。
真紅の瞳は血走り、
蝙蝠耳はピクピク震え、
ヨダレは絨毯へ一直線。
「ついに……これは……ッ!!
スペクター様がお飲みになるティーカップ……!!
あの聖なる口紅……いや紅茶の跡……!!
最後に残る一滴……!!
茶葉一枚!!
砂糖一粒!!
ティースプーン一本!!
すべてこの忠犬ノスフェラトゥが回収いたそう !!」
「やめろ最高幹部!!」
1eggsが即座にツッコむ。
「ティーカップを遺跡扱いすんな!!
ちゃんと椅子座れ!!
英国式アフタヌーンティーで床這う奴があるか!!」
「何を言うか!!
スペクター様のお召し上がりになったスコーンの欠片は国家機密!
この私が永久保存する!!」
「保存すんな!!食え!!」
その瞬間。
ジョンドゥの笑顔が静かに固まった。
丸い瞳からハイライトが消える。
右腕の大型ミキサーが、
ブォォォォォン……
と低く唸り始める。
「ノスフェラトゥ様。」
笑顔。
しかし声だけが恐ろしく冷たい。
「そのティーカップは。」
「?」
「1eggsが心を込めて淹れた紅茶なんだ。」
「……。」
「それをヨダレで汚すなら。」
ミキサーの回転数が一段階上がる。
ブォォォォォォォンッ!!
「あなたごとアフタヌーンティーセットに盛り付けて、『怪物用ミックスサンド』にしてもいいんだよ?」
覇王が後退る。
「こ、この生地め……!!
笑顔なのになんたる威圧ッ!!」
そこへ。
カツ。
カツ。
カツ。
聞き慣れた足音。
「……はぁ。」
アズールだった。
片手には三百ページを超える、
『特級サロン風紀・備品破損・衛生管理・英国式マナー違反報告書』。
その目は今日も光を失った死んだ魚そのもの。
「ノスフェラトゥ様。」
一ページ開く。
「ティーカップのストーキング。
絨毯へのヨダレ。
英国文化への冒涜。
減給です。」
ページをめくる。
「ジョンドゥ。
ティータイム中の殺害予告。
騒音。
サンドイッチへの死体利用発言。
減給。」
さらにめくる。
「1eggs。
サロンへの私物フライパン持ち込み。
大声。
マナー違反。
減給。」
「俺もかよ!!」
「当然です。」
さらに最後のページ。
「なお、本日破損した私の精神については修復不能と判断しましたので、全員の給与から胃薬代を天引きします。」
「理不尽すぎるだろ!!」
その時。
静かに。
カチャ。
ティーカップがソーサーへ置かれた。
スペクターだった。
赤いシルクハットを僅かに持ち上げ、
最後の一口を飲み終える。
沈黙。
全員が息を止める。
「……紅茶は悪くない。」
一瞬。
1eggsの瞳が大きく開いた。
しかし続く言葉は、いつも通り容赦がない。
「ただし騒がしい。」
一拍置いて。
「ノスフェラトゥ。
そのヨダレで汚した絨毯を磨きなさい。
ジョンドゥ。
ミキサーは禁止。
1eggs。
次回からティータイム中のツッコミは声量を半分に。
……そして、お預けは三ヶ月延長。」
「ひゃうッ!!
ありがとうございますスペクター様ァァッ!!」
歓喜で床を転げ回るノスフェラトゥ。
その横でジョンドゥは、またも嬉しそうに1eggsへ顔を寄せる。
「ねぇ1eggs。」
「……今度は何だ。」
「人間界ではね、アフタヌーンティーの最後は、最後の一個のスコーンを一番大切な人と半分こすることもあるんだって。」
「嘘つけ。」
「だから、このスコーン。」
ジョンドゥはにこりと笑う。
「半分こしよう?」
「半分こはいい。」
1eggsはスコーンを真っ二つに割り、
ジョンドゥへ片方を差し出した。
ジョンドゥの顔がぱっと花が咲くように輝く。
「でも。」
次の瞬間。
1eggsはもう半分を自分で頬張りながら叫んだ。
「恋人イベント扱いするなァァァッ!!」
サロンには再び、焼き立てのスコーンの香りと、甘い発酵臭と、常識人の絶叫がいつまでも賑やかに響き渡るのだった。
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