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mtkさんの過去回想が入ります。
私なりの解釈なので、違かったらごめんなさい。
ギターの弦が、指先に心地よく震えを返す。アンプから響く音は、いつもと変わらないはずなのに、
今日はどこか乾いて聞こえた。
リハーサルが始まる、そのはずなのに、
心のどこかは、ずっと別の場所にあった。
僕はいつから、こうなったんだろう。
小さい頃から、僕は外の世界とうまく馴染めなかった。
人混みも、ざわめきも、笑い声も、どこか遠くの音のように感じていた。
耳に届くのは、自分の頭の中で鳴り続ける旋律だけ。
まるで呪われたように、曲を作り続けてきた。
それしか自分を保つ術を知らなかった。
そしてバンドを組み、夢を追いかけることで、生きる理由を繋ぎとめた。
気づけば僕らは、思い描いた以上に大きな存在になっていた。
テレビの向こうでしか見られない景色を、自分の目で見られるようになった。
でも、何も満たされなかった。
あの頃は、夢を追い続ければ、きっと心は満たされると信じていた。
だけど現実は違った。
どれだけ拍手をもらっても、ライトを浴びても、終われば虚無感と孤独がやってくる。
一度、全てから降りたこともあった。
休止という形で、音楽から距離を置いた。
けれど何も変わらなかった。
戻ってきても、同じ虚しさが待っていた。
恋愛もそうだ。
「好きだ」と言われても、僕は踏み込めなかった。
結局は「元貴は音楽が一番なんでしょ」と背を向けられる。
その通りだった。
僕にとって音楽は、生きるための唯一の武器で、呪いでもあった。
きっと、もう何をしても満たされることなんてない。
そう思っていた。
…あの日、彼女と出会うまでは。
VC越しの彼女の声は、最初はただの通りすがりの音だった。
けれど気づけば、静かな夜に溶け込んで、確かに胸の奥に残っていた。
儚くて、触れたらすぐ消えてしまいそうな響き。
久しぶりに「もっと知りたい」と思った 。
この感情はどこかに置いてきたものだと思ってた。
それは、この手の届かない世界に、淡い色が差した瞬間だった。
もしかしたら
彼女は、俺を虚無から連れ出すために現れた、
戦場に降り立つ戦乙女なのかもしれない。