「何だよ!あの映画!」
「めっちゃ広告詐欺じゃねぇか」
ファミレスのテーブル席に向かい合って座るナツと神門。
ナツの前にはドリンクバー、神門の前にはカフェオレの入ったホットカップ。
「あんな悲しい系なんて思ってもなかった」
「うん、僕も」
「だよな!」
ガバっと顔を上げて神門の同意を喜ぶナツ。
映画を見終わって既に30分以上話し合っている。内容はポスターのガンアクションではあって興奮したけれども、映画内では最終的に親友と戦うことになっていた。
神門と映画を見れたことは嬉しいけれども…と少し膨れっ面になったナツを神門は見つめる。
やっぱり可愛いな…好奇心旺盛なのにどこか謎めいていて。素直で…
神門が今まで見て来た女性というのは自信を飾り立て秀美な面に擦り寄る人が多くいた。
実際神門が東京を歩けば、露出が多い服を着て甲高い声で話して。隙あらば連絡先を交換しようと声をかけられる。
勿論毎度丁寧に断っている。
けれど昨日神門は初めてあったばかりで、射的をしただけ、たった数分話しただけのナツと連絡先を交換した。
何に惹かれたのだろうかと思いながらも、ふと思いついた事をナツに聞きたくなった。
「もし、ナツ君は戦場で僕と戦うことになったらどうする?」
コップの中で少し溶けた氷がカランと音を立てた。
ーー数秒間の沈黙。けれどもそれは神門には長く感じた。何故かなんてわからない。
ナツの伏せたその目には何が映っているのかも分かりやしない。
そもそも一般市民が戦闘なんてしないか…と考え直し変な質問をしたと謝罪をしようとした神門にナツは答えた。
「ん〜…出来る限り闘いたくはないけどなぁ…」
「でも、どうしてもって事なら…」
「俺なら、拘束して話し合いに持ち越すかな…」
戦場で…もし神門が桃太郎だったら。四季の頭はその可能性が絶対にゼロという訳ではないことを知っている。
街で隠れながら普通に過ごしている鬼もいれば、何も知らない桃太郎だっている。
いつ出会うかもどんな関係性になるかもわからない。
四季は信じてはいないけれども、言う人が言えば『神の采配』と言う訳だろう。
「それに俺は神門と戦いたくないな…せっかく知り合えたのに」
さっき見た映画の影響か、難なく答えたナツに目を奪われる。
戦いの最中でも相手を傷つけようとしない考えを持っているナツに神門の頬は少し緩んだ。
「ただ…」
氷と液体が僅かに残ったグラスを両手で包んだナツは続ける。
「どうしても許せない奴がいたら」
「俺はソイツだけは殺す。」
手の熱が伝ったグラスの中の氷はパキリと音を立てて崩れた。
ナツの少し傾げた前髪の隙間から紅暗い双眸が見えた気がして、神門の背中には不思議と汗が伝った。
「まぁ…もしもだけどな〜」
さっきまでの背筋が凍るような気配はどこへ行ったのやら、ナツはヘラリと笑った。その顔は最初に見た時と同じ優しそうな顔だった。
自分の悪寒を気のせいだと言い聞かせて、話題を変えようとした神門だが無機質な機械音が2人の間を割った。
「!」
発生源はナツのスマホのアラーム音。急いで止めた画面には新幹線まで1時間。と律儀に書かれていた。
「ごめん神門!俺もう行かなきゃ!!」
「金置いてく!」
「今日は楽しかった!またな!!」
「えっ!な、ナツ君!?」
送っていくよ。の一言を言う間もなく明らかに注文した飲み物よりも高い金額を置いて走り去っていった。
それこそ脱兎の如く。
店を出てしまった背中を掴めない伸ばした手は腰と共に寂しげに下ろされた。
「男前がすぎるでしょ…」
「此処は奢って男らしいとこ見せたかったのに…」
神門はカップに残っていたカフェラテをくるくると回しながら不貞腐れるように誰もいない向かいの席に言葉を落とした。
「新幹線間に合うかなぁ…」
日が落ちている東京を早歩きで進む。
「次はどこ行こう…」
唾切から聞いたことを考えれば、一箇所に留まらない方が利口なことは、頭がそこまで良くない四季でも否が応でもわかる。
京都は行ったし、次は長野にでも行こうか…ぼんやりと考えながら歩いていた。
「神門…かぁ…また会えたら良いな」
昨日増えたばかりの宝物を入れた鞄をコインロッカーから取り出しに行こうと駅前へ向かう。
人混みが少なくなって来た交差点で1人待っていれば、向かいの歩道に明らかに治安の悪そうな集団がいた。
先頭を歩くのは横から見てもよく分かるほどに整った顔をしている金髪の長身。その後ろには黒髪ロングの女子や、白マスクの男達が後ろを着いて歩いている。
にしても、あの金髪の人見た事があるような…と過去の記憶を漁ってみたけれども金髪の知り合いは居そうもない。
思考に耽っていた四季の目に眩い光が二、三と当たる。何事かと向ければトラックが向かって来ている。
信号は、赤。
暴走車か!?
「おねぇちゃん待って!」
嘘だろッ!?
トラックに気付く様子がない姉妹が横断歩道を渡っている、ダメだ。轢かれる。
そう思った瞬間に四季は無意識的に体が動いていた。
「!」
「「間に合えっ!!」」
歩道を歩いていた集団の1人が手を伸ばす、何かが飛び出た途端にトラックはスリップを起こす。
トラックが突っ込む寸前で四季は姉妹を両手に抱き抱えて背で守るように転がった。
「ま、にあったぁ〜」
両手の中の体温に安堵を溢した四季の腕を誰かが強く引っ張った。
「来い」
その声を四季は知っている。2年前に聞いたあの声。
『無蛇野無人』
ーー練馬区鬼機関隠れ家
「…」
「…」
気まずい!!つい四季はそう叫びたくなってしまった。
無蛇野さんと思われる人に無理矢理連れられて来たこの場所が何処だか知らないし、他の人は決まった服を着ている。そこに1人ワイシャツとショートパンツにスニーカーと言う格好の四季。
場違いが過ぎる…
突然の事に頭が頭が真っ白になって汗を流す四季。
新幹線の時間過ぎちゃった…。チケット取ってなかったから良いけど…と悶々と考える四季。いや、現実逃避している四季。
さっきから前後左右からの視線が痛い。
1人は白マスクの男子、次に無蛇野さんと思われる男性、眼鏡の男子、目付きが悪い男子。その他大勢。
誰か助けて…
京夜さんとか来て欲しい…と自分の片腕を抱える。視線は自分の足元から変える事ができない。
ここ何処…
「すみません、遅くなりました」
気まずい空気を壊すように駆けつけた白いスウェットを着た男性は、金髪の人と色々話している。
誰が来たのか…どうせわからないだろうけれども顔だけは確認しておこう、と目線を上げた四季の目に映った男性の顔を四季は知っていた。
見間違いかと二、三度瞬きしても変わらない…
「えっ…」
つい口から出た音を拾った男性は金髪の人から視線をずらして四季を見た。
「え、四季…くん?」
「!やっぱ並木度さんだよね!」
その声も顔も最近会ったし、俺を信じるって言ってくれた人だから忘れるはずもない。
正真正銘、並木度馨さんだった。
知り合いに会えた事で安心した四季は馨に近付いた。
無意識に四季は知っている並木度の後ろに隠れるように止まった。
「2人は知り合いか?」
金髪の人がじっと見つめながら質問をしてくる、やっぱり無蛇野さんと声が似てる。
「えぇ、最近花魁坂さんから紹介されました」
「…そうか」
四季を見る目が少し細められた。四季は猫に睨まれた鼠のように縮こまりやっぱこの人怖い!!と並木度の背中に隠れた。
今日は間に合って良かったです…って言ってもギリギリでしたけど…
次回漸く皇后崎君や無蛇野さん、真澄隊長と絡むと思われます。此処まで長かったです…
いつのまにか、10話にまで行っていたとは…感慨深いものですね…見ていただけて本当に毎回感謝しかございません…
話題は変わりますけど、ローソンコラボ最高ですね…ファイルは全コンプしたんですけれども、ウエハースは何処巡っても無いんですよ…田舎だからですかね…
コメント
8件
おっとぉ•́ω•̀)???これは面白い展開になりましたね〜(*ˊᗜˋ) 続きが楽しみ!!
続きが楽しみ(((o(*゚▽゚*)o))) に待っていますm(_ _)m コンプリートおめでとう(*´ω`*ノノ☆パチパチ