ずっと前から好きだった。
会えば会う度に好きが大きくなっていって。
最初は尊敬とかの好意だったのに。
いつの間にか恋愛感情だった。
でも、告げていいのか分からない。
引かれるかもしれないと思ったら、告げるのが怖くなった。
そして、コレは墓場まで持っていくと決めた。
…僕は、あの人とお似合いになりたかった。
でも無理なんだ。
あの人がどう思ってるのか分からないから。
それを聞くのも怖くって。
傷ついて気まずくなるより、何もせず今まで通りにいた方が、何も起こらなくてすむ。
────そう、思ってたのにな。
「…………ココから出れたら」
休むこと無く歩き続けている今、ずっとあの人のことを考えている。
「出れたら、言おう」
砕けてもいい。
居なくなってしまって、言えばよかったってことになる前に。
言ってしまおう。
もう、抱えたままなのも辛い。
「守りきれたんだ。…きっとココからも出れる」
早く…
「会いたいなぁ────ん?」
扉…?
ドアノブもあるし、扉だよな…
…出口かな。
とにかく、開けてみよう!
ガチャ─
「ッ────眩しっ」
「なんですぐに話してくれなかったんですか!?」
「…」
もちさん、大分怒ってんなぁ…
…俺にも怒ってんやろなぁ。
俺もすぐ話さんかったし。
……俺の場合、あんな時に恋心自覚したのに意識持ってかれて、さらに言えなくなってたのもあるけど。
「話せると─思いますか?」
「はぁ?」
「あんなに説明の難しいことを、まだ心境の整理もついてない状態で、話せると思うのですか!?」
…ガタッ
…もちさんが座り直したんかな。
「…すいません、事情も知らず言いすぎました」
きっと、自分もいたら同じだったろうな─って思ってんのやろか。
「…あの、お二人さん」
しばらく静かだったアンジュさんが口を開いた。
「はい?」
社長が応答した瞬間。
バンッッッ───
思いっきりテーブルを叩いた音がした。
コップとかが倒れた音はしない。
…隣のテーブル叩いたんかな。
「ど、どうしたの、アンジュ…」
リゼさんがとにかくびっくりしてる。
「お二人さんというか社長なんですけども────馬鹿なんですか?」
「ッ…」
刺さってんなぁ…
「説明が難しくったって、言葉繋いで話せるでしょう!? いくら苦しくなっても、1人で抱え込んでるより吐いた方が楽でしょう!? 誰でもいいだろうとは言いませんが、同じROF-MAOの剣持さんには言えたでしょう!?」
…俺も相当馬鹿やな。
恋愛感情自覚したのを言い訳に塞ぎ込んで、心配かけて。
言えるわけないと思い込んで。
あぁー…もちさんにいっちゃん迷惑かけてんなぁ…
「…」
「社長?」
黙ってしまった社長に、リゼさんが声掛けた。
「────ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!」
「「「「「!?」」」」」
きゅ、急に叫んどる…
「え、社長?」
もちさんがちょっと呆れたように言った。
もちさん、やめたってその言い方。
「言いづらいに決まってるじゃないですか!! 周りもとにかく暗いのに! 特に────」
まぁ、説明あった後の、スタッフ等は、みんな暗かったけど…
…真剣に、冷静に…動いとったよ?
何もせんかった、俺と違って。
「特に、あんなに傷ついた顔をした不破さんを見て、話し出せると思いますか!?」
え!? 俺!?
「…確かに、社長より不破くんの方が暗かったね」
…まぁじぃ?
俺、社長と同じくらいの状態になってると思ってたんやけど…
「────そう考えると、やっぱ不破くんも誘った方が良かったのかな」
ビクッッッ────
あっぶね、ぶつけるとこだった…
「次会ったら、無理矢理にでもご飯に行きますか」
…もちさん、自分から飯なんて誘わんやろに…
「そうですね、なんなら明日誘います?」
「良いですね、連れ出しましょう」
2人ともニヤニヤしてへん!?
絶対しとるよな!?
…俺のため、か。
「…俺も愛されてんなぁ」
「ところで戌亥」
「ん?」
「先に来てた客、誰?」
え
「…」
…アンジュさん、まさか分かって…
「…^^」
「…言う気ないな?」
「そら客の個人情報は教えんよ」
「ちぇー」
「なんでそんなに知りたいん?」
確かに。最初の説明で納得出来るはず…
「ふと、不破さんなのかなーって思って」
ピシッ────
ヤバい、全身が固まった。動けへん。
いることバレたらしぬ。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
「で? あってる?」
「…なんでおふわやと思ったん?」
「えー? 話聞いてる時の戌亥、冷静だったからさ、誰かから既に聞いたのかと思って」
ッッッ────そうですよねー…
「アンジュ、いくら冷静だったからと言って、先に話聞いてたからとは限らないよ…?」
リゼさんが仲介に入った。
…アンジュさんととこさんの間で火花散ってんすか?
「確かにこれ真剣な話ですし、冷静じゃないと聞いていられませんよ?」
もちさんも正論。
「…ちぇー、じゃあ違うのかー」
口とがらせてんやろなぁ…
…セーフ…
「ほい、そろそろ仕事戻りたいんでここまででお願いしまーす」
パンッととこさんが手を叩いた。
「はーいお暇しマース」
アンジュさんがそういうと、ガタガタと音がした。
「ご馳走様です、リゼさん」
「誘ってくれてありがとうございました。おかげで楽になりましたよ」
…楽に、なってんな。俺も。
「良かったです。…すいません、関係ない第三者が聞いちゃって…」
「いえ、そんなことは─」
「そうよ」
社長が言いかけたのを、とこさんが遮った。
「こういう時は、関係ない第三者に話した方が楽なもんなんよ」
俺にも言ってくれたことを社長にも言う。
本当にそうだった。
不思議やなぁ。
────カランカラン
「…おふわ、出てきていいよ」
裏から不破が出てくる。
「目ェあっかいなぁ」
「え」
「泣いてたんか」
「…はい」
不破がふにゃっと笑う。
「でも、すっきりしてるなぁ?」
「えぇ」
「…良かったな」
戌亥が微笑んだ。
「…とこさん、ありがとうございました。今度お礼させてください。奢ります」
「お、ありがとな。何にするか考えとくわ」
カランカラン────
手を振る戌亥に手を振り返しながら、不破は店を出て、帰路についた。
不破の目には、空が綺麗に映っていた。
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