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「……」
差し込む朝日に目が覚める
一瞬何処にいるのかわからず
夢の続きかと錯覚する
その違和感に
一瞬戸惑うも
意識の回復と共に察知し
現実を受け入れる
一瞬脳裏に過る
夫の事
——外泊してしまった
夫に何も告げずに
それも
他の男性と
よりによって
勤める会社の社長と
倫理的な大問題
婚姻契約の重大な違反
今までこれが自分の運命と決めつけ
流され続けた私が下した
私の決断
しかし
不思議と心は晴れやかだった
窓越しに
眼下に広がる都心のパノラマ
目の前にはリュカの寝顔
まるで天界にいるようで
今まで思い悩んでいた事など
小さな事のように思えた
あどけない少年の様な
純真無垢なリュカの
天使の寝顔
その寝顔を見て
昨晩の事が甦る
満月を背に
猛々しかったリュカはそこにはおらず
朝日を浴びて
穏やかな寝息をたてている
いつしか満月の夜は過ぎ去り
快晴の朝を迎えていた
その寝顔のあまりの愛くるしさに
指先で頬をつついてみる
筋肉質な身体に見合わぬ
マシュマロのように柔らかい頬
「……」
(今なら誰も見てないよね)
傍らに眠る天使の頬に
私はキスをした——
「……ん、……んん」
「ごめんね、起こしちゃった?」
寝ぼけまなこで
半分しか開いていない目で
状況を把握できずに
ボーっと私を見つめるリュカ
「……」
「よく眠れた?」
「……んー……めっちゃ寝た」
「久しぶりだよ、こんなにぐっすり眠れたの」
「瑠奈の匂いはね……よく眠れるんだ。安心する」
曰く
リュカは不眠症らしい
睡眠時間が短い上に
多忙ゆえに仕事に没頭する日々のようだ
多少なりにもリュカの役にたったのなら
そう思うと少し嬉しかった
それともう一つ
リュカは潔癖らしい
他人の物に触れないという極端なものではなく
私以外に全く興味が無いらしい
言われてみれば
確かに浮いた話を全く聞かない
このスペックだ
相当モテるだろうに
リュカの私への執着を見れば
あながち嘘ではない気がする
それは素直に嬉しかった
何より私に安心をくれた
社長と社員だった
その関係も今は昔
リュカの肌に
躊躇もなく触れ
私の肌と
リュカの肌を通じて感じる
お互いの体温
天使のような寝起きのリュカと
天界でまどろむ悠久の時間
寝ぼけたリュカの
天然なボケを聞きながら
頭を撫で
目を見つめ合い
くだらない話で朗らかに談笑する
これが永遠に続けばと
これが人生の始まりだったならと
そんな無粋な思考を排除し
この時間を
この幸せを
私はただただ抱きしめた
***
今日は日曜日
シンデレラでも魔法が解ける日
そんな無粋な話題には触れず
再びリュカと囲む卓
昨晩余った食材
卵と肉で作った
急ごしらえのアメリカンブレックファスト
リュカとの食事も何度目だろう
全く飽きが来ず
未だに新鮮
慣れた分だけ
緊張が解れ
和んだ分だけ
時間が経つのが早く感じる
くだらない話に花を咲かせながら
永遠にこの時間が続けばと
次第に無粋な思考が大きくなり
現実の足音が遠くで聞こえる
今日
これから
私は自宅に
私は現実に
戻らなけらばいけない
昨日私は家を飛び出し
夫には連絡しなかった
戻れば
今日の事を
夫に問われるかもしれない
人生はバイオリズム
いずれ上昇は頭打ちになり
いずれ下降を始める
それは
ずっと低空飛行だった私の人生においても
例外ではない
上がり続けるものなどない
その時はいずれ
必ずやって来る
私の表情に
一抹の哀愁を悟ったのか
一抹の悲哀を感じ取ったのか
リュカの表情に
躊躇いを感じる
何か言おうとしている事を
躊躇っている気がする
そんな中
タイミングを見計らったように
リュカが口を開く
「あのさ……」
「瑠奈はどう考えてるの?」
「家庭の事、これからの事」
そんな
重大で
簡単な問い
正直に答えるなら
考えた事など無かったが正解
だが
正解の回答が正解じゃない
私は回答に困った
「旦那さん、浮気してるかもしれないんでしょ?」
それはそう
でも
自分も自分
純也への負い目から
何も言えたものではない
この時
私はまだ気付いていない
この日を境に
私の人生が
私の運命が
急激に動き出す事を
そして
リュカが奇妙な事を口走る
私が
話していない
メタい事
「浮気相手、うちの会社の子でしょ?」
篠原愛紀
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