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「あれ? ひな来てたんだ」
そこへ2階から悠太が下りてきた。
「悠太……」
「ん? ……その人誰?」
「ひなのパパなの!」
「はぁ!? ひなのパパ? なんで今頃――」
まずい。ただでさえ今ピンチなのに、悠太まで騒ぎだしたら!
でもちょうど良かったわ。ひなを2階に連れて行ってもらおう。
「悠太、ちょっとひなと上で遊んでてくれない? ひな、悠太とゲームしておいで」
「え、なんでだよ。俺も話を――」
「ひな、ゲームやる!」
「え」
ここは大人しく2階に上がってもらわないと。
ひなは一生懸命パパの援護をしてくれているけれど、聞かせたくない話もある。
このままでは話が進まない。
私は悠太に向かって指を2本立てた。
「悠太?」
『カップ麺2個でどう?』
目で会話をする。
すると悠太がパーの手をして首を小さく振った。
『5個は譲れねーな』
『はぁ? じゃあ3個。これ以上はダメよ』
私は指を3本立てて、小さく首を振った。
『しかたない。手を打ってやろう』
「ひな、にいちゃんとボーリングするか?」
「ぼーりんぐー! うん、やる!」
こうやってカップ麺で釣った悠太にひなの面倒を見させることに成功した。
これでやっと大人同士の会話ができる。
子供達が2階に上がり全員がホッとため息を吐いた。
ややこしい話を子供達に聞かせたくないのは皆同じなのだ。
そうして、私たちは別れることに至った経緯と誤解があったこと、ストーカーの被害のことを両親に話した。
もちろん、鷹也の実家のことも。
父だけでなく、知美さんも厳しい顔をしていた。
「……話は大体わかった。二人の間にあった誤解とやらは理解した。ただ2点、確認したい」
「はい。何でもおっしゃってください」
「そのストーカーは本当にもう何もしてこないんだね?」
「はい。接見禁止命令はもちろん継続されていますし、今現在彼女は日本にいません」
え? そうなの?
私に言ってなかったことを思い出したのか、鷹也は私を見ながら話を続けた。
「黒島の親は全面的にこちらの言うことを聞いてる。黒島は森勢の関連会社だから、これ以上問題を起こして関連を断ち切られていることを恐れているんだ」
「そっか……」
あの人、日本にいないんだ。
そう聞くとやっぱりホッとする。
「ストーカーの件はわかった。もう一つは君の実家のことだ」
「はい……」
「森勢商事のことは知っている。まあ、日本で知らない人はいないだろうと思う。大企業だからな」
「はい……」
「君がそこの跡取りだというなら、こんなこぶ付きの、たいした家柄でもない娘と結婚なんてできるのか?」
「こぶ付きって! ……ひなは俺の子供です。それに、家柄なんて関係ありません。うちの両親が和久井家をどうこう言うなんてあり得ませんから。もしお許しをいただけるのなら、両親を連れてきます!」
「はぁ?」
両親を連れてくる、と言う言葉に、父は面食らったようだ。
うちが行くならともかく、森勢商事の社長をこんなところへ連れてくるなんて、ありえないと思ってしまう。
「……鷹也くん、私も主人と同じ考えよ。二人のことは応援したいけど、結婚となれば話は別だわ。家と家の付き合いになるから」
「……はい」
応援してくれそうだった知美さんまで、厳しい意見だ。
「ご両親にはこの状況をお話しているのかしら」
「いえ……。まだ杏子とひなの存在を伝えていません。先にこちらへ挨拶に来たので……。でも絶対大丈夫です」
『絶対』なんて言ってしまっていいのだろうか?
「じゃあ、まずお話してきた方がいいわね。お父さんも私も、杏子ちゃんが苦労するくらいなら結婚なんてしなくてもいいんじゃないかって思っているの。鷹也くんはたしかにひなちゃんの父親かもしれないけれど、結婚しなくてもひなちゃんの父親でいられるわけでしょう?」
「いや! 俺は杏子と結婚したいんです。高校時代からずっと、結婚は杏子としか考えていません」
「鷹也……」
「杏子ちゃん、プロポーズされたの?」
「え」
知美さんがニヤニヤしながら突然私に振ってきた。
「ま、まあ、その……うん」
「あら素敵」
知美さんがコソッと私にしか聞こえない声で「今度お父さんに悠太とひなちゃん預けて女子会しましょ」と言ってウインクした。
この義母は色々と聞き出したくてうずうずしているようだ。
「コホン……二人がいいならそれでいい。ひなも納得しているようだし……。しかしご両親にはちゃんと伝えなさい。話はそれからだ」