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桜散る、死後の世界のお話

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桜散る、死後の世界のお話

1 - 桜散る、死後の世界のお話

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2025年12月10日

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❁⃘*.゚


桜の絨毯。それは何とも見事なものだった。水面全体に花びらが敷かれていて、波が踊れば花弁も共に踊る。

その川を、音もなく屋形船が進んでいく。船の後には花びらが消え、一直線の道ができていた。


ぱっと目が覚めた時、そんなところに俺はいた。天気は…多分曇り。周りはトンネルのように伸びた桜並木に囲まれているせいでろくに空もおがめない。ここはどこだ。少なくとも、もといた場所ではないのだろう。

頭を整理してみた。といっても、「俺は銀時との戦いで負けて死んだ」としか言いようがない。

目の前には徳利と盃が一つづつ。徳利を持ち、少し降れば中からはぴちゃぴちゃと液体が波打つ音が聞こえた。顔を近づければ、鼻に刺さる酒の香り。なんだ、これをここで独りで飲めってか?


「なら、しばらくはお預けだな」


生憎今は煙菅も手元にない。何もすることがないが、どうしても目の前の酒を飲む気にはなれなかった。

俺は数十分程ぼーっとその酒を見つめていた。そのうち、ここがどこなのか何となくわかった。

「死後の世界」、地獄と天国の狭間辺りだろうか?

やり残したことなんてないはず。あったとしても全て銀時達に託してきたから未練なんて一つたりともなくなったはず。それなら、どうして俺はここにいる?


べん。


甲板の方からだ。三味線のような楽器の音。三味線なんて奏でてしまえば全て同じ音。複数人が同時に同じ弦を弾こうが音は変わらない。それは違う撥を使ったって、それぞれ違う弦を張ったって音は変わらない。だがその音は何処か懐かしい気がした。俺はあの音を真隣で聞いていた気がする。共に演奏していた気がする。そんな曖昧な記憶と共に、俺は甲板へ足を運んだ。


扉を開ければ一気に広がる桜の香り。

それは嫌になるほど甘ったるく、嫌になるほど切ない香りだった。


「おや、ようやく来たでござるか」


聞き覚えのある、というか聞き覚えしかないこの声とこの口調。これも嫌となるほど聞いたな。


「……ここに残ってたのか?未練なんてテメェに限ってはねえと思ってたよ」

「それは拙者もでござるよ。晋助、お前はどんな手を使ったってやることは全てやり遂げてきた男であろう?」

「俺はやり残したことなんざ一つもねェさ。もしあるなら、今からでもこの川に飛び込んであっちに戻ってらァ」

「ははっ、それもそうか」


木製の柵に寄りかかり、気の向くままと三味線を奏で続ける。

河上万斉。俺の為に、鬼兵隊の為に宇宙の塵になった男だ。


嗚呼、何度聴いてもいい音色だ。こいつの演奏を聴くのは何年ぶりか。

その音色は三味線が、弦の一本一本が生きているかのようだった。


「なあ、万斉。あの後何してたんだ?」


まだ曲の途中だってのに、その質問にだけ手を止めた万斉。

声を発する前に、かけていたサングラスを外してそっと桜の絨毯の上に乗せた。サングラスはほんの少し浮いた後、少量の泡沫を上げてゆっくりと水底に沈んでいった。


「あの後…、ずっとここで三味線を弾いていたでござるよ」

「ここは何故か永遠に景色が変わらない。だから、演奏にも最適と思ったのだが、何故か今の拙者にはこの一曲しか弾けぬようになってしまった」


止めていた手をまた動かし、万斉は三味線を弾く。どんな著名な音楽家にも劣らぬその腕捌き。聴かずとも、見るだけでも惚れ惚れする。

一曲しか弾けない、その曲は万斉が一番弾いていた曲。そして、俺が一番好きだった曲。かれこれ俺も三味線を何度も弾いていたが、未だにこの曲しか弾けない。死んでからもこの音色が聞けるなんて贅沢なもんだ。


「俺ァな、お前がいなくなっても正直上手くやってけると思ってた。ただ、数多くいる組織の中の一人が死んだ。たったそれだけだったから」

「でも、それが思いの外…いや、全然大丈夫じゃなかった」


いつの間にか隣に置いてあった徳利を手に持つと、盃に入れず、中身をそのまま全て川に流した。そのまま手首を水に沈めて中身が空になった徳利の中に川の水を入れた。徳利の中には水と桜の花びら。なんの意味もなく、俺はただそれを見つめていた。


「拙者が居なくなったのがそんなに寂しかったのか?」

「寂しかったなんてもんじゃねェ。俺の人生から一つ、嫌、半分以上音が消えた気分だった」

「ふっ、…それは光栄だな。拙者がそこまで晋助に想われていたとは」


くすりと笑い、万斉は徳利の隣に置いてあった盃を手に持ち俺に差し出した。


「なら、その想い人と共に酒でも一杯、どうでござるか?」

「…はは、そりゃあ…ずりぃよ」


盃に水を注いだ。

そしてその水をなんの躊躇いもなく一気に飲み干した。


「……甘いな。桜の香りだ」


ほぼほぼ味なんてしないだろうに。

サングラスがないおかげで万斉の表情が良く見える。優しく微笑みながらも、どこか悲しげな表情をしていた。



万斉、お前の命はこの桜達よりも儚く散ってしまった。未だにお前は宇宙に漂ってるんだろうか。いずれお前も、江戸の町に戻れたらいいな。

なんだか、今俺が此処に留まっている理由が何となくわかった気がする。


「万斉」


俺は名前を呼んだ。万斉は声で返事はしなかったものの、しっかり俺と目を合わせた。

両手で両肩を掴み、前に乗り出すようにして万斉の体を船の外に押す。万斉は抵抗しなかった。そのまま、二人は揃って川の中に落ちていった。


弦の切れかけた三味線と端が少し欠けた盃が甲板に残った。


当たり前だが水中では息はできない。だが苦しくはなかった。花びらの隙間から射し込む太陽の光が眩しい。そして、暖かい。

俺は万斉の手を握る。万斉もまた俺の手を強く握りしめた。声は出ないが、万斉にはきっと伝わっているだろう。


「もし、もしも生まれ変われるなら。俺はまたお前と共に人生を歩みたい」


「例え記憶が残ってなくても。お前を、この手で一生守り続けたい」



「来世は、俺の恋人になってくれ」



万斉は、最後の息を吐いて高杉の瞳を見つめた。


この世に「輪廻転生」なんて物があるとは思わない。だが、”信じてみるだけ無駄”になるなら俺はそれを信じるさ。どれだけ時間が経ってもいい。来世でも、そのまた来世、そのまた来世でも構わない。何百年経ったっていい。だから、だから次こそは万斉を、その寿命が尽きるまでこの手で守りたい。


この川に終わりは見えない。きっとこの先に待つのは地獄か、無か。俺は必ず、その地獄や無すらもぶっ壊してまた現世に戻る。そしてお前を探し出す。お前が世界のどこに生まれようとも、必ず俺が探し出してやるから。だからその時に、この俺の言葉に応えてくれ



「愛してる。万斉」____










________『廊下を走った者切腹』と大きく書かれたポスターが、 穴だらけの掲示板に貼ってある。

日が落ち始めた夕方頃、一人の高校生__高杉が廊下を全速力で走っていた。

廊下を走り終えたかと思えば、次は1段飛ばしで階段を駆け上がる。

そしてたどり着いた場所、

教室の扉よりも重い、屋上の扉を力一杯押して開けた。

太陽が眩しい。白いコンクリートの床は鮮やかな夕焼け色に染っていた。


屋上フェンスの近く、一人の青年が佇んでいた。


ギターケースを担いでいるせいであまり姿が良く見えないが、高杉は確信していた。それが誰なのかを。


一歩一歩、その青年の元へ足を運ぶ。

手が、足が震えている。今にも倒れてしまいそうだった。


「…万斉……」


思わず口からポロリと零れた言葉。近くにいなければ気が付かないほど小さな声だったが、青年はそれに気が付いたのか後ろを振り返る。

嗚呼、やっぱりそうだ。

あの時から何もかも変わってねェな……。相変わらずなそのヘッドフォンからは微かに、最近流行っているアイドルの曲が漏れている。

嫌という程脳内に縫い付けられていた顔。

何度も生まれ変わり、何度も探し続けていたその顔。もうあれから何年経っただろうか。


「万斉…、万斉!」


次ははっきり、聴こえるように名前を呼んだ。


「河上万斉!!」


フェンスに寄りかかり、ヘッドフォンを首にかける。微かに微笑み彼は言った。


「随分と遅かったでござるな。晋助」

「そりゃこっちのセリフだ…阿呆」


力の入らない手で万斉に掴み掛った。それは怒りなんかじゃなく、ただ単に感じていた喜びだった。

万斉は少し驚いていたが、すぐに微笑み高杉の頭に手をぽんと乗せた。


「あの言葉、「いえす」でござるよ」

「拙者も晋助と共に生きていきたい気分でござるからな」


正直、この言葉が返ってくるのはわかっていた。だが、改めて目の前で言われてしまうとこうも嬉しくなるものだ。本当はもっと早くこいつの顔を見たかった。声を聞きたかった。もうこれが何回目かも覚えていないが、結果こいつに会えたんだからそんなのどうでもいい。


今は春。屋上には、風に乗って桜の花びらが舞っていた。

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