コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
俺はそのまま、飲まず食わずで三日間、ただそこにへたり込んでいた。
頭の中は空っぽで、心に残ったのはただの絶望だけだった。
何も考えたくなかった。
考えれば考えるほど、父さんの笑顔や、村の人たちの温かい笑い声が思い出され、その度に悲しみが押し寄せてきた。
涙ももう枯れ果てて、ただ目の前の景色をぼんやりと見つめていた。
正直、俺もこのまま死ぬんだと思っていた。父さんや村のみんなと一緒に。
でも、四日目だったか、ふと気がついた。
……どうして俺は、まだ生きているんだ?
それまでぼんやりとしていた意識が、急に現実に引き戻された。疑問が頭の中に広がっていった。
何かの意図があって、俺は生かされたのか?
わざわざ俺を見逃した理由があるのか?
そもそも、何故こんな辺鄙な村を襲ったんだ?
次々と疑問が湧いてくる。
知りたかった。理由を、あいつの意図を、すべてを知りたかった。
そして――
あいつを見つけ出して、俺が味わった痛みと絶望を、そのままあいつに味わわせてやりたかった。
ぐちゃぐちゃにして、何もかも壊してやりたかった。
そこから始まったんだ。俺のくだらない復讐劇が。
あの時、もしそこで諦めていれば……
全てを忘れて、ただ静かに暮らしていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。
……まあ、今そんな話をしても仕方がない。
後々全てわかることだ。
話の続きをしよう。
----------------
数日が経過した。
あの村にいては、何も始まらない。
そう悟った俺は、父さんから貰った剣を持って、一番近い国であるフローレンス王国に滞在する事にした。
金はほとんど持っていない。
旅の途中で食料を少し買っただけでも、財布は軽くなってしまった。
これからあいつを追うためにも、金が必要だった。俺は自慢できる物は腕っぷししかなかったため、冒険者をやりながら追跡を進めることにした。
まずは、冒険者登録を軽く済ませ、街を歩いてみることにした。
初めて見る外の世界は、
華美な装飾の建物が立ち並び、見慣れない文化や人々の活気で溢れていた。
昔の俺なら、こんな異国の光景に胸を踊らせていたかもしれない。
けれど今は、目に入るものすべてがただの背景にしか見えなかった。
楽しむ余裕なんて、あるわけがない。
宿に入り、一息ついたあとで、俺はあいつについて調べることにした。
過去の文献や古い本を読み漁り、街の人々にも聞き込みを続けた。
情報は案外簡単に集まった。俺の村を襲った化け物。
その名は――ヘラクレス=ヴィクトリア。
五界覇神の第三位であり、この世界の何処かを放浪しているらしい。
五界覇神が分からない人の為に説明しよう。その存在は至ってシンプルだ。
「最強」、この言葉に尽きる。
本気を出せば軽く国を一つ消せる、そんな存在だ。
五界覇神は強大すぎて、何をしても罪には問われない。法の外の存在だ。
小さな村一つ消えたところで、誰も何も言わない。
ヘラクレスは、黒の髪をしていて、長髪、
高身長の男、という事だけがわかっている。
これだけの情報では、到底見つけることは不可能だ、と思うだろう?
実は、そんな事はないんだ。黒の髪と言うのはとてつもなく珍しい。
というか多分、黒髪のやつなんてヘラクレスしかいないと思う。
そして何より、俺は実際にあいつの顔を見ている。生涯、忘れることは絶対にないだろう。
犯人を特定できたが、俺に叶う相手ではない。その時の俺は、幼かったがそれぐらいは理解出来た。
では、どうするか。
強くなる他ないだろう。
そして、その日を境に、俺の途方もない修行が幕を開けた。