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#魔法
しろのね
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U
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ちょん
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第1話、めっちゃ良かったです…!✨ 魔法が使えない公爵令嬢リリーの葛藤が切なくて、特に無意識に歌を口ずさんで泣いてる朝のシーン、すごく胸にきました😭💕 炎が怖い理由とか、夢に出てくる旋律の正体とか、伏線が気になりすぎます…! お父様との距離感も切ないけど、兄カールの優しさに救われる…。これからの学園生活でリリーがどう変わっていくのか、本当に楽しみです! 続きが待ちきれない〜っ🌸
1話 リリー・アルベール
時々、夢を見る懐かしい音と、誰かの笑顔が重なる夢――
魔法が使えない公爵令嬢、リリー・アルベール。
けれど彼女は、夢の中の旋律と共に、音楽という”魔法”に導かれていく
奏でるたびに心を揺らす旋律。胸を打つ誰かの記憶
それは幻か、あるいは遠い約束か
音が繋ぐのは、もう一つの自分
そして、忘れられた想い
これは、音楽が失われた記憶に火を灯し、
少女が「本当の私」に出会うまでの──物語
「おはようございます、お嬢様」
しゃっと心地よい音を立ててシルクのカーテンが開かれ、部屋が一気に眩い朝の光で満たされた。
重たい頭を持ち上げ、眠気でぼやける目をこする。まだ覚めきらない頭の奥で、美しい残響が漂っていた。
ふと、唇が勝手に動き出す。
頭の中に残っていた切ない旋律が、小さな歌声となってこぼれ落ちた。初めて聴くはずなのに、どこか途方なく懐かしい――胸を締めつけるような、胸の奥を激しく揺さぶる美しいメロディだった。
「何の曲を歌って……って、お嬢様泣いておられるのですか?」
「……え?」
控えていた専属メイドのアリサに促されるまま、姿見の前へ歩み寄る。
鏡を覗き込むと、そこには透き通るような白い髪に、神秘的な灰色の瞳をした一人の少女が、呆然と涙を流していた。
「私……こんな顔、してたかしら」
呆然と呟き、改めて室内を見回す。
ホコリひとつ落ちていない完璧に整えられた調度品、天井から吊り下げられた絢爛なシャンデリア。
そうだ、ここは私の部屋。サムジール王国の公爵令嬢である私に与えられた、大きすぎる大寝室だ。
そして目の前の鏡に映るこの少女こそが、私――リリー・アルベール。
不安そうにこっちの様子を伺っているのは専属メイドのアリサ。幼い頃から何不自由なく育てられ、誰もが羨む暮らしを送ってきたはずの存在。いつもと変わらない朝のはずなのに、どうして鏡に映る自分の姿すら、どこか他人のように思えてしまうのはなぜだろう。
「いかがなさいましたか、リリーお嬢様。どこかお体でもお悪いのですか? すぐにお医者様を――」
「いいえ、大丈夫よ。……ただ、少し不思議な夢を見ていただけだから」
「夢、でございますか?」
「ええ。とても綺麗で……どこか悲しい夢」
「……きっと緊張なさっているのですよ。さあ、顔を洗って着替えましょう。奥様方が食堂でお待ちですよ」
「リリー……」と、自分の名をもう一度、口の中で静かに呟いてみる。
胸の奥に小さな違和感が芽生えていたが、リリーは深く息を吐き出し、それをそっと押し殺した。
────
「おはようございます。遅くなり申し訳ございません」
食堂の重厚な意匠が施されたドアを開けると、すでに家族全員が着席していた。
「おはよう、リリー。ふふ、今日は少し眠そうね」
母はいつもと変わらぬ、包み込むようなやわらかな笑顔で出迎えてくれる。
「……」
父は無言のまま、視線すら上げない。手に持った書類から目を離さず、黙々と銀のフォークを動かしている。
サムジール王国の宰相として多忙を極める彼と、最後にまともに会話を交わしたのがいつだったか、もう思い出せなかった。いつも額に深いシワを刻み、国の重大事ばかりを考えている。
家族への挨拶を済ませ、用意された席に着くと、手際よくメイドたちが温かい朝食を並べていく。銀の食器が触れ合うかすかな音だけが響く、静寂に包まれた朝の食卓。
完璧なテーブルマナーのもとで食事が進み、やがて皿を完全に空にすると、父はナプキンで口元を拭い、一言もなく席を立った。振り返ることもなく仕事場へと去っていくその冷たい背中を見送ると、胸に冷ややかな寂しさが静かに広がる。
「なんだか元気がないようだけど、大丈夫かい?」
隣の席からかかった優しい声に視線を向けると、美しい青髪の兄が案じるようにこちらを見つめていた。
「そんなことありませんわ、カールお兄様」
カール・アルベール。アルベール家の次期当主。
その端整な顔立ちと穏やかな品格、そして優れた魔法の才能で社交界では絶大な人気を誇る、自慢の優しいお兄様だ。
「ただ……少し緊張してしまっているのかもしれませんわ」
「そうだね。もうすぐ魔法学園の入学式だ。無理もないよ」
「今日出発よね。カールだけでなくリリーまで行ってしまうなんて……寂しくなるわ」
母が顔に手を当て、残念そうに首を傾げた。
この国には、貴族の義務として誰もが通うことになる最高峰の教育機関『魔法学園』が存在する。
完全な実力主義が支配するその場所で、リリーはこれから三年間を過ごすことになるのだ。
「リリーの事だから、学園では注目の的になるんだろうね。容姿端麗で頭脳明晰。兄としてとても誇らしいよ」
「そんなことありませんよ。お兄様もご存知でしょう?」
リリーは伏し目がちに、静かに言葉を溢ぼした。
「私……魔法が使えませんから」
────リリー・アルベールは魔法が使えない。
これは貴族社会における周知の事実であり、彼女の最大の「弱点」とされていた。
カールは暗い気持ちにはさせまいと、元気よく語り始めた。
「学園にはね、身分に関わらず素晴らしい図書室もあるし、庭園も綺麗なんだ。リリーなら、きっとお気に入りの場所が見つかるよ。僕も学園にいるんだから、何か困ったことがあればいつでも頼っておいで」
兄の温かい言葉が、かえって胸をちくちく刺す。まともに魔法を扱えない自分に対する優しさゆえの配慮だと痛いほど解るからだ。
二つ上の兄と一緒に過ごせるのは今年の一年間だけ。兄が卒業してしまうまでに、なんとか己の居場所を見つけなければならない。頼ってばかりはいられないのだ。
「そうよ、あなたらしく輝けばいいの。あまり思い詰めないでね」
「……はい。ありがとうございます、お母様、お兄様」
励ましてくれるふたりの優しさに救われながらも、リリーの心から憂鬱な雲が晴れることはなかった。
────
朝食後、リリーは人気のない屋敷の裏庭へと足を運んだ。ここが、誰にも見られずに魔法の練習ができる唯一の場所だった。
「ふぅ……」
辺りに人がいないことを確かめると息を整え、手のひらに意識を集中させる。
「……ファイアーボール」
ぽっと、手のひらに今にも消えそうな小さな火の玉が浮かぶ。
だが次の瞬間――激しい動悸がリリーを襲った。
「っ……はぁ、はぁ……!」
段々と浅くなる呼吸、早くなる心臓の鼓動。必死に震える手を抑えようとするが、恐怖で全身の血が引いていく。
発動してから二十秒足らず。限界に達したリリーは、耐えきれずに魔法を解除した。小さな炎が消え去り、その場に膝をつく。リリー・アルベールは魔法が使えない。
だが、彼女は単に生まれつき魔力がないわけではなかった。
「どうして……どうしてこんなにも、炎が怖いの……?」
────炎への異常な恐怖心
理由は分からない。ただ昔から、激しい炎を目にすると胸が締めつけられ、息ができなくなるのだ。自分が生み出したほんの小さな火球にすら怯えてしまう。そんな自分が悔しくてたまらない。
「これは気持ちの問題よ……しっかりしなさい、リリー・アルベール」
両頬を強く叩き、震える手でもう一度炎を生み出そうと試みる。
優秀な父や兄と比べられるたび、己の無力さに胸が押し潰されそうになっていた。まともに魔法を使えない「落ちこぼれ」の自分にとって、これから始まる学園生活は希望などではなく、ただの重苦しい不安でしかなかった。
────
魔法の訓練を終え部屋に戻り身支度を整える。
「お嬢様、そろそろお時間でございます」
背後から聞こえたアリサの静かな声に立ち上がり、リリーは屋敷の前庭へと向かった。
「気をつけてね。頑張るのよ、リリー」
「はい。お母様もお体に気をつけてお過ごしください」
「僕は後から馬車で追うから、また向こうで会おうね」
母と兄に見送られながら、豪華な紋章が描かれた公爵家の馬車へと足を進める。
ステップに足をかけ、乗り込む直前――リリーは抑えきれず、無意識に屋敷の二階を見上げた。
そこは、父の執務室がある場所。
重厚なシルクのカーテンの隙間から、一瞬だけ誰かの人影が見えた気がした。しかし、視線を凝らすよりも早く、その影はすっと部屋の奥へと消えてしまった。
(お父様は……ついに直接の見送りにも来てくださらなかったのね。せめて一言、「行ってらっしゃい」とだけ声をかけてほしかったわ。)
やはり魔法を使えない私は、父にとって失望の対象でしかないのかもしれない。込み上げる寂しさを振り払うように視線を落とし、リリーは馬車の中へと足を踏み入れ、重々しい音を立ててドアが閉まった。
「出発いたします」
御手の声とともに馬車が大きく揺れ、動き出す。
窓の外では、ハンカチを振る母と穏やかに手を振る兄の姿がどんどん遠ざかっていき、やがて広大な公爵邸の門をくぐり抜けた。
「……はぁ」
誰もいなくなった車内で、リリーは深く息を吐き出し、ふかふかのシートに身体を預けた。
公爵令嬢としての重圧、魔法を使えない劣等感、そしてこれから始まる未知の学園生活への不安。様々な感情が胸の中で渦巻き、疲弊した意識が徐々に遠のいていく。
車内の静けさと心地よい揺れに誘われ、まぶたが重くなり、ゆっくりと目を閉じたその瞬間――
朝方、目覚めたときに口ずさんでいたあの切なく美しい旋律が、記憶の底から蘇るように、再び頭の中で静かに響き始めていた。