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冬の朝、薄く雪が積もった道を歩く私――神山胡々(ここ)は、思わず両手を吐息で温めた。寒さがじんわりと肌に染み込むこの季節、通学路はどこか静かで、清らかな空気が漂っている。

「今日は良いこと、あるかな…」

ふとそんなことを呟いたのは、ただの気まぐれだった。別に何か特別な期待をしていたわけではない。ただ、平凡な毎日に少しの彩りがほしいな、そう思っただけ。

その時だった。

「おっと、ごめん!」

突然、後ろから声がして、肩が軽くぶつかった。驚いて振り返ると、そこには見覚えのある男子が立っていた。

「えっと…佐倉くん?ごめんねっ」

クラスメイトの佐倉湊(さくらみなと)くん。彼は明るくて、みんなの中心にいるタイプ。けれど、私のような地味な女子とは特に接点がなかった。

「悪い、急いでて気付かなかった。怪我とかしてない?」

彼は慌てた様子で私を見つめる。その瞳は思ったよりも優しくて、なんだか胸が少しドキッとした。ううう……

「う、うん、大丈夫。」

思わず視線を逸らす私に、佐倉くんはほっとした表情を浮かべた。そして、にっこりと笑って言った。

「良かった。あ、これ落としたよ。」

彼の手には、私の定期入れが握られていた。

「あ、ありがとう!どこで見つけたの?」

「さっき神山が歩いてたとこ。声かけようと思ったけど、タイミングなくて。」

神山――そう呼ばれるのはなんだか新鮮だった。クラスでも特別仲がいいわけじゃないのに、自然に名前を呼ばれるのが不思議と嬉しい。

「本当に助かったよ、ありがとう。」

「いいって。じゃ。」

そう言って、佐倉くんは軽く手を振って歩き出した。その背中を見送りながら、私の心には小さな変化が芽生えていた。

これが、ただの偶然なのか。それとも、今日という日に訪れた小さな奇跡なのか。どちらにせよ、この瞬間が私の心を少しだけ暖かくしてくれたのは間違いない。

「良いこと…あったわ。」

冬の冷たい風の中で、私はそっと微笑んだ。

佐倉湊…くん。

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