雨が降る日、俺にとっては最悪の日だ。体育の授業で泥だらけになったスニーカーを洗うのを忘れてた俺は、仕方なく放課後、校舎裏の水道でスニーカーをゴシゴシ洗ってた。
「……ったく、なんで俺がこんなこと……」
不機嫌な声で呟きながら、手に持ったスニーカーをひっくり返した瞬間、雨脚が強くなった。冷たい雨粒が制服に染み込んで、余計にイライラする。
その時だった。
「佐倉くん、何してるの?」
ふいに背後から柔らかい声が聞こえた。振り返ると、そこに立っていたのは神山胡々だった。学年で目立つわけじゃないけど、俺のクラスではいつも明るい笑顔を見せてくれる、あの神山だ。
傘を持ってない俺を見て、胡々は少し困ったように眉を下げた。そして、次の瞬間、何の迷いもなく自分の傘を俺に差し出してきた。
「濡れちゃうよ。これ使って。」
「いや、いいよ。お前が濡れるだろ。」
俺は慌てて断ろうとしたが、胡々は首を横に振るだけだった。
「大丈夫。私は走って帰ればすぐ乾くから。」
にっこりと微笑むその顔に、思わず言葉を失った。近くで見ると、胡々の笑顔はほんの少し幼くて、けど、どこか眩しい。
「……そういうの、甘えたくなるじゃん。」
俺はぼそっと呟いて、渡された傘に向かっていった。
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