テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
言いようのない不快感を感じながら、輝夜は目を覚ます。
いつもと同じベッド、いつもと同じ部屋。
いつもと違うのは、すでに時間が”昼過ぎ”になっていることか。
(寝すぎた、な)
昨日、風呂の中で影沢と話をして。何かが決壊したように、思いっきり号泣してしまった。
思い返しても、”羞恥心”がこみ上げてくる。
(……恥ずかしい)
今までにないくらい、心が不安定になっていた。
お風呂で泣くなんて。ましてや、他人がいる空間で。絶対にあり得ないはずなのに、何故か泣いてしまった。
(……舞)
彼女にも、きっと負担をかけてしまっただろう。
影沢舞。どうして彼女は、ここまで献身的に世話をしてくれるのか。単に金で雇われた使用人ではないのは、何となく理解できるが。
輝夜の知らない、”もっと深い繋がり”が、そこにはある。
頑なに姿を見せない父親と、亡くなったという母親。それと関係しているのだろうか。
この人生で知り合った人間の中で、影沢だけが信頼できる。
彼女だけが、純粋に”愛”を向けてくれるような、そんな気がした。
(順調に足が治れば、来週から学校か)
学校に行くからには、本気で楽しまなければ。
影沢がそれを望んでいるのなら、その気持ちを裏切りたくはない。
誠意には誠意を。
輝夜は、真面目に学校に通うことを決心した。
ベッドの上でダラダラと。自分の心を整理しながら、輝夜はスマホを操作する。
気がつくと、善人からのメッセージが数件来ていた。
こちらをゲームに誘っていたようだが、昨夜は気分が悪かったので、スマホを弄る余裕すらなかった。
『すまん、寝てた』
当たり障りのない返信を送ろうとして、その寸前で止まる。
善人も、ある意味では影沢と同じであった。
本心から心配してくれる相手に、雑な返しをするのは心が痛む。
『すまない、昨日は体調を崩していた。今日はログインできるから、都合が良ければ連絡してくれ』
訂正し、しっかりと長めの文章を送信した。
彼は学校に行っているので、流石にすぐに返信は来ない。
「さて、と」
輝夜はベッドの上で起き上がると、ぐぐっと身体を伸ばす。
気持ちに引きずられているのか、いつもより身体が重い気がした。
(ストレス発散のために、運動でもするか)
現実世界では、まだ動けないため。
別の世界で、輝夜は運動することに。
◇
「ふぅ」
汚染森林エリア。
鬱蒼とした森の中、大量に積まれた”死骸の山”で、スカーレットはため息を吐く。
(現実でも、これくらい動けたらな)
生身では無力だが。
このロボットの身体を現実で動かせたら、あの”最低の悪魔”にも負けることはなかった。
まぁ、輝夜は戦ってすらいないのだが。
ここ数日のイライラと、慣れない感情の爆発。その諸々のストレスをぶつけた結果、輝夜は過去最大級に汚染獣を殺してしまった。
ゲームの中とはいえ、もはや虐殺である。
解体にかかる手間や、一人で持ち運べる量など。ソロプレイでこれだけの敵を倒しても、効率が悪いだけ。
無駄な殺生を、輝夜が反省していると。
空から現れた一体のロボットが、輝夜の側にやって来る。
「やあ」
プレイヤーネーム、”アモン”。善人を除けば、唯一話せる相手である。
以前と違い、彼の背中にはウィングパーツが装着されていた。
「君は、空を飛ばないのかい?」
「必要ないからな。例の討伐報酬も、善人にくれてやったよ」
「よしひと?」
「……ヨシヒコだ」
ついつい、輝夜はリアルでの名前を呼んでしまった。
ややこしいにもほどがある。
「それにしても、お前も暇な奴だな。平日の真っ昼間からゲームとは」
自転車和尚
73
#転生
高天原ヒロ
1,220
#かぐや姫
相舞藻子
2,694
「そういう君はどうなんだい?」
「わたしには事情があるんだよ。まぁ、療養中といったところかな」
「なるほどねぇ」
普通の人間なら、平日の昼間は仕事や学校へ行っている。
こんなに堂々とゲームをするのは、どちらかといえば少数派であった。
「実は僕、すっごく遠い所に住んでるんだよね」
「遠い所?」
「ああ。君たちの暮らす地域とは、何もかもルールが違っていてね。必死に働く必要も無いのさ」
「そんな楽園みたいな場所があるのか」
「うん。君が想像するよりも、”ずっと遠く”にね」
暇つぶしに、輝夜はアモンと話をするも。
やはり、微妙に話が噛み合わない。
(……最近、変な奴ばっかだな)
目の前のアモンを含めて、輝夜は最近の出会いを振り返る。
ゲーム仲間の善人は、性格は良いが普通じゃない。
善人が召喚したアミーは、世紀末スタイルの熱血野郎。
路地裏で出会った悪魔は、殺したいほどのクズ。
どこぞの屋根の上では、仮面をつけた不審者にも会った。
まったくもって、普通の人間と知り合っていない。
そんな最近の出会いを振り返って、輝夜の脳裏に”ある可能性”がよぎる。
「ひょっとしてお前、”悪魔”かなんかじゃないのか?」
あくまでも冗談として。
軽い気持ちで、輝夜は尋ねた。
だがしかし。
「僕が人間だなんて、一言でも言ったっけ?」
ロボットのアバターのため、その表情こそ見えないものの。
アモンは確かに、笑っていた。
「ッ」
その得体の知れない雰囲気に、輝夜は咄嗟に身構える。
「ふふっ、ここはゲームの世界だよ? そう怯える必要はないさ」
「……」
アモンが優しく言葉を掛けるも、輝夜は警戒を怠らない。
「どうして、僕が人間じゃないと思ったんだい?」
「……ここ最近、変な奴と会うことが多くてな。そしてそのうち、二人が悪魔だった」
「へぇ。それと僕に、どういう関係が?」
「お前も、同じくらい”変な奴”だからだよ」
別に、何か確証があったわけではない。
そこはかとなく”変態っぽい雰囲気”の中に、人ならざる気配を感じただけ。
得体の知れないという意味では、あの仮面の男にも匹敵する。
「いやぁ、まさかそんな理由で指摘されるなんてね」
変な奴だから、人間じゃない。
これほど失礼なことがあるだろうか。
しかし、アモンは。
「――ご名答。僕は、”悪魔”だ」
包み隠さず、その素性を明かした。
対する輝夜は動じない。
「もっと、驚いてもいいんじゃない?」
「十分驚いてるよ。まさか、悪魔がゲームをやってるなんてな」
「あぁ、そっちか」
冷静に考えれば、それもおかしな話である。
「お前も、誰か人間に召喚されてるのか?」
「いいや、普通に”魔界”にいるよ」
「は?」
アモンの言葉に、輝夜は驚く。
「魔界からでも、ネットに繋がるのか?」
「もちろん、”ルシファーの光回線”を引いてるからね。人間界への干渉も朝飯前さ」
その言葉の意味は、よく分からないが。
どうやら魔界にもインターネットがあるらしい。
「しかし、悪魔がオンラインゲームか。もっとこう、原始的なのをイメージしてたが」
「それは心外だね」
輝夜がまともに話した悪魔は、善人の召喚したアミーだけ。
彼に関しては、筋肉隆々な体つきに、革のジャケットという”世紀末スタイル”であり。あまり文明が発達しているようには思えなかった。
しかし、目の前にいるアモンは、非常に知性的である。
「君たちの扱ってる、インプラントやナノマシン。このゲームのような”最新テクノロジー”が、どこから来ているのか知ってるかい?」
「どういう意味だ?」
「……”魔界”の方が、進んでるんだよ」
アモンは語る。
人間と悪魔は、非常によく似た種族であり。見た目も知能も、大して変わらない。しかし大きな違いとして、悪魔には”魔法”を使う力が備わっていた。
科学と魔法。対極にあるようで、実はその相性は抜群であり。
様々なアプローチを可能にすることで、魔界の技術力は飛躍的に進歩した。
多くの人間が勘違いしているが。
悪魔の暮らす魔界の文明は、人類のそれを遥かに凌駕している。
「人類の持つテクノロジーが、近年急速に進歩したのは。”こちら側からの流出”があったからさ」
地上を脅かす、”恐ろしい化物”。
そのイメージは、あくまで人類が勝手に想像したものに過ぎなかった。
「でも、どうか安心してくれ。魔界に暮らす悪魔の中でも、僕は”人類に友好的な部類”に入る」
「自分でそれを言うのは、胡散臭いと思わないのか?」
今までに出会った二人の悪魔とは、全く異なるタイプ。
一体何が目的なのか、まるで考えが読めない。
「人と悪魔の友好の証として、君にプレゼントを贈ろう」
「珍しいお菓子とかか?」
「あ、いや。別にお菓子じゃないけど。……そういうのが好みだったかな?」
「……忘れてくれ」
つい、輝夜は気が緩んでしまった。
これが生身の体なら、すでに顔が赤くなっている。
「最近流行りの”電子精霊”をプレゼントするよ。世界に一つしかない、特別仕様のね」
「電子精霊?」
「知らないのかい?」
「あー、うん」
聞いたことがあるような、ないような。
少なくとも、あまり馴染みのある単語ではなかった。
「人間界で流行ってるって、結構噂なんだけど」
その噂を、彼はどこで聞いたのか。
「で、それはどういう代物なんだ?」
「一種の”人工知能”だよ。何でも頼み事を聞いてくれる」
「つまり、AIアシスタント?」
「まぁ、使ってみれば分かるよ。後でデータを送るから、ぜひとも活用してくれ」
初めて会った悪魔は、悪魔らしい最低の奴で。
次に会った悪魔は、暑苦しい熱血漢。
そして三人目の悪魔は、掴みどころのないゲーマーと。
輝夜の中で、悪魔という存在が分からなくなる。
「じゃあ、僕はこれで」
翼を開き、アモンはその場を後にしようとする。
だが、
「おい!」
輝夜に呼び止められた。
「……なんだい?」
「長々と話を聞いてやったんだから、素材を運ぶのを手伝え」
輝夜の足元には、大量の汚染獣の死骸があった。
「なるほど」
◇
ゲームからログアウトして。
自室のベッドの上で、輝夜はスマホを操作する。
通知を見るに、アモンからメールが来ているらしく。
それを開いてみると。
何かが、勝手に起動した。
「……あ」
ウイルスに感染したかのような、明らかにアウトな挙動。
開いてはいけないものを、開いてしまった。
輝夜は慌ててスマホを操作するも、一切止めることが出来ず。
何かが起動するのを、黙って見ていることしか出来ない。
しばらくすると、その動作が終了し。
スマホがホーム画面に戻ると。
ひょっこりと、”可愛らしい少女”のキャラクターが現れた。
ゴスロリ系の服を着た、黒髪ぱっつんの少女。
その頭には、”猫耳”が装着されている。
『初めましてだにゃん!』
画面の中で少女が両手を振り、スマホからボイスが聞こえてくる。
このキャラクターが喋っているのだろうか。
『電子精霊の始祖であるミーを起動するとは、中々に見どころがあるマスターだにゃん』
「……」
輝夜は反応に困ってしまう。
これが、最新の人工知能なのかと。
『にゃんにゃん! 聞こえてないのかにゃん?』
そのあざとい喋り方に、輝夜は苛立ちを覚える。
「にゃんにゃんうるさいぞ。次ににゃんって言ったら、お前を削除してやる」
『にゃん!? それは勘弁だにゃん!』
「……よし、消そう」
『にゃーん!!』
この少女を削除しようと、スマホを操作するものの。
なぜか、画面が動かない。
「ッ」
仕方がないので、思考から手動操作に切り替えるも。やはり、スマホは一切反応しない。
『にゃはは! この端末は、すでにミーの支配下になったにゃん。消そうったってそうはいかないにゃん』
「……ウイルスよりもたちが悪い」
悪魔からのプレゼント。
それを素直に受け取ったのを、輝夜は後悔した。
『ミーはマスターと仲良くしたいにゃん。何でもお願いを言って欲しいにゃん』
画面の中の少女、電子精霊は健気に懇願してくる。
色々と思うことはあるが、それほど悪質なプログラムとも思えない。
「……」
とはいえ、輝夜はイジメたくなってしまう。
「冷凍庫の中に、いちごのアイスが入ってるんだが。それを取ってきてくれないか?」
少女に対して、輝夜は無理なお願いをしてみた。
いくら高性能な人工知能でも、スマホのまま歩くことは出来ないだろう。
だが、しかし。
『朝飯前にゃん!』
そう言って、少女は画面の中から飛び出してきた。
「はぁ?」
衝撃の光景に、輝夜は驚く。
まるで意味が分からない。何らかの立体視か、それとも拡張現実なのか。
「いざ、冒険へ出発にゃん!」
少女はふわふわと浮かんで、輝夜の願いを叶えるために、部屋から出ていこうと。
「ちょっと待て」
「にゃ!?」
輝夜の手に、ギュッと掴まれてしまう。
スマホサイズの大きさだが。驚くべきことに、少女には”実体”があった。
「お前、スマホから飛び出るのか?」
「にゃん! 電子精霊なら当然にゃん」
少女は、誇らしそうに胸を張る。
サイズ感からして、まるで妖精のようである。
「それと、ミーの事は”ニャルラトホテプMk-Ⅱ”と呼んで欲しいにゃん」
「……あー」
確かに、単なるAIアシスタントとは一味違う。
未知なるテクノロジーを、輝夜は手に入れた。