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廊下の空気が、どこかざらついていた。 誰の足音も聞こえない静かな放課後
――それなのに、空気がざわついている。
窓の向こう、黒いものがふわりと横切った気がした。
――でも振り向いても、誰もいない。
最近、こういう“見間違い”が増えた。クラスの誰かが転んだり、窓がひび割れたり……
――原因不明の小さなトラブルばかり。
「……まさか、“カゲムシ”……?」
最近、学校で噂になっている“黒い何か”。夜の廊下を歩くと足に影がまとわりつくんだとか。触れた人はしばらく運が悪くなる
――なんて話もある。
隣の席の子が、そんな話を小声でしていたのを思い出す。そのときは笑っていたけど、今は、あんまり笑えない。
時計の針がカチリと音を立てた。
ほんの一瞬、影が揺れた気がして――私は息をのんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
入学式から日数が経ち、桜も散り始めてきた頃。
私「柏木 由来」は、昼休みに教室の窓の外から風で揺れる桜の木を眺めていた。反射する自分の顔を見て、ため息をつく。
今日は、生徒会へ入るための試験を行った。合否はその日のうちに分かると担任から告げられた。
私の学校では、生徒会や委員会に“入試”がある。成績と人柄の両方を見られるから、みんな必死だ。頭のいい子ばかり受かるこの制度に、私はずっと不安を抱いていた。
合否を待っているこの時間が、憂鬱で仕方がない。不安で高鳴る鼓動を抑え、平常心を保とうとしていた。
「……ら、由来!」
「わっ!?ご、ごめん!……考え事してた」
頭上から声がし、ふと顔を上げると友達の「藤崎 智恵」が心配そうに立っていた。智恵は私の唯一話せる友達。小学校のときに知り合い、中学校も同じ。そして、高校も智恵と同じところへ入学し今に至る。上手くクラスへ馴染めない私にとって、ありがたい存在である。大人びた雰囲気を纏い、綺麗な長い黒髪をなびかせる。
「なぁに?また、忍者のこと?」
ニコニコしながらそう聞いてくる。
”忍者のこと”っていうのは私が好きなもののこと。忍者が好きで、よく歴史を調べてみたり、あらゆる言い伝えを辿ったりと……いわゆる忍者オタクである。
「ち、違うよ!……生徒会の入試の合否が気になるの……」
「そっかぁ……入試受けたんだもんね……受かるといいね」
「……ほんと…願うしかないよ」
何気なく、自分の心配を口にする。智恵はからかうことはしなかった。
あれから、昼休みが終わり残りの授業を真面目に受けた。退屈に感じてしまう長い時間も、窓の外を見て気を紛らわした。
放課後になった途端、人が少なくなった廊下は静けさを感じる。担任の先生に呼び出され、合否の書かれた紙を職員室にて受け取った。
――き、緊張してきた……
手汗が湧き出る感覚がありつつ、震える手で封筒を開ける。切り口が歪になってしまったが、中の紙をそっと取り出す。
「合格……」
声に出した瞬間、胸の奥がじんわり熱くなった。
頑張ったかいがあった――そう思った、ほんの一瞬。
でも、廊下を渡る風の中に、ひやりと冷たい気配が混じっていた。
心の中で万歳しながら、ウキウキな顔で職員室へと足を進める。判子で合格の2文字が押された紙を見る。夢じゃないんだと確信を得る。
口角が上がったまま、軽い足取りで目的地まで歩く。人はさほどいないものの、すれ違う人からは変な目で見られただろう。
「……っのに…………」
すれ違った時、ふと何かを言われたような気がした。急いで振り返ったものの、もうその子は角を曲がり姿を消してしまった。
かすかに、足元を黒い影が掠めていった。一瞬だけ、影が“息をしている”ように見えた。
はて、なんだったのだろうか。不思議に思いながらも、気づけば職員室の前で足を止めていた。