テラーノベル
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思いのままに虎徹を抱いた。
コマンドを使って、力でねじ伏せて、ただ自分のためだけにプレイをした。
あんなに大切にしたかったはずの恋人を俺は欲をぶつけるだけのモノのように扱った。
飛びかけていた理性が戻る頃には暗かった外はすっかり明るくなり、下を向けば虎徹は意識を朦朧とさせていた。
それでも俺が肩を揺すれば目を合わせて弱々しくも笑顔を作る虎徹。
久我「そん…な顔しねえ…でくれ…。だいじょ、うぶ。これで元のお前に…戻れる、よ」
そんな虎徹を涙ながらに抱きしめることしか俺はできなかった。
頭痛がする。頭の中で違う声が反響しているように。
記憶がとぶ
身体中傷ついた虎徹がいる
記憶がとぶ
虎徹の自慢の髪が無惨に引きちぎられている
また、記憶がとぶ
健康的だった虎徹の身体は次第に痩せ細り、顔もやつれていく
「いつかきっと戻れるから」
先も見えないこの状況で縋るにしてはその希望はあまりに薄っぺらなものだった。
奴の暴力は何処までエスカレートするのか
このまま悪化し続けるのではないか……それこそ虎徹を殺すまで。
もう肉体的にも精神的にも俺たちはとっくに限界を超えていた。
俺は倒れ込むように眠る虎徹の頭をそっと撫でる。
紅林「ごめんな…虎徹。」
俺は静かに2人の思い出が詰まった家に背を向けた。
目が覚めると紅林の姿が見当たらない。隣室からの物音もない。
只々家の中は静かだった。
たったそれだけのことなのになぜか悪寒が止まらない。
プルルル…プルルル…プルルル…
突然俺の携帯が鳴る。
電話を取る前から嫌な予感がした。
えずきそうになるのをグッと堪えて電話に出た。
「こちら⚪︎⚪︎病院です。大変申し上げにくいのですが、病院までお越しいただけますでしょうか。」
その後はよく覚えていない。
気がつくと俺は病室にいて、白い布をかけられ横たわる誰かを見つめていた。
医者「⚪︎⚪︎駅から南に五キロほどの山道内で、全身から血を流して倒れているのを通りかかったドライバーの方が発見されたようです。申し訳ありません。病院に搬送された時には既に手の施しようが…」
久我「違います。俺の知り合いじゃありません。彼奴がこんな…ありえねえ。」
医者「お顔の損傷が激しく、直接ご確認いただくことは難しいのですが…服装等何か心当たりのあるものはございませんか。」
そう言って医者は腕付近の布をそっと捲った。
赤いシャツが顔を覗かせる。
嫌だ。二郎のはずないんだ。確認なんて必要ない。あいつはちょっと外出しているだけで、俺が家に帰ればきっと其処にいるはずで…
久我「やめてくれ。これがあいつだったら、俺は……ッ」
半ば奪い取るようにして再び布をかけ直す。
その刹那、遺体と手が触れた。
何度も何度も撫でられた手。冷たくなっていようがその感触を忘れるはずがなかった。
ああ、これは二郎なんだと、そう認めざるを得なかった。
久我「じ、ろ…………ッ………ぁ゛っ………あぁあぁ゛っっっ!!」
俺は膝から崩れ落ち、人目も気にせず泣いた。
信じたくない、それでも俺の中の記憶が痛いほど二郎とこの遺体を結びつけてしまう。
とても受け入れ難い現実に俺は顔をあげることができなかった。
医師「誠にご愁傷様でございます。お辛い状況とは思いますが、当時の状況を説明してもよろしいですか。」
長い時間が経った後、医者は俺を椅子に座らせてそう言った。
涙でぐしゃぐしゃの顔を俺は震えながら縦に振った。
医師「大変申し上げにくいのですが…結論から言うと自殺の線が濃厚でしょう。」
全く頭に入らない話をしばらく聞いた。
なんとなく理解できたのは山の切り立った部分からの飛び降りが疑われるということくらいだろうか 。
最初にあいつがおかしくなった時に俺が迎えに行ったあの駅の近くの山での自殺。
俺と決別しろという意思にも感じられてそれが余計につらかった。
再び二郎に目をやると、布からはみ出た指先には血が滲んでいて、爪の中にまで土が詰まっていた。
頑丈なあいつのことだ、高いところから転落して地面に叩きつけられても尚、即死とはいかなかったのだろう。
出血多量で意識が朦朧としてもがき続けていたのかもしれない。
最後の最後まで俺は二郎を苦しめてしまった。
久我「なんで…ッ、俺は……俺はッ」
嗚咽するばかりで言葉にならない。
遺体に抱きつくようにして子供のように俺は泣いた。
久我「……胸ポケットに…紙?」
血と泥で汚れたそれをゆっくりと開く。
『もう傷つけたくない。幸せになってくれ』
ただそれだけが書かれていた。
久我「ッ…俺のためって…なんだよそれ!」
いつか戻るかもしれない。
そんな希望だけで俺は十分だったのに。
お前を失った痛みに比べたら暴力ぐらいなんてことなかったのに。
医者に肩をさすられ帰宅を促されるまで俺は声を枯らして泣いた。
二郎がいなくなって1ヶ月、 俺は只々仕事に打ち込んだ。
目の下に濃いクマを作ってまで組に顔を出し続ける俺を兄貴たちは心配して、休むように言ってくれたが俺はそれを全て断った。
前へ進み続けなければ、悲しみに体を打ち砕かれてしまうだろうと分かっていたから。
今日も俺はヤクの押収に取りかかる。
近頃悪質なものがシマに出回っているらしい。 もっと、もっと働かなければ。
薄暗い月明かりだけが差す狭い路地裏でヤクの取引が行われているのを発見した。
久我「おい。てめえ、何してんだ。」
俺の顔を見た途端、買った側の男が大粒の涙をこぼしながら俺に頭を下げ出した。
スーツを着たそいつの見た目はいかにも真面目な普通の男といった具合である。
今まで見てきた濁った目をした半グレどもとは何かが違うようだ。
久我「落ち着けよ、なんたってアンタみたいな普通の人間がヤクに手染めちまったんだ。」
男「…2ヶ月前、飲酒運転のドライバーに妻と子供を殺されて…ッ、その男が金持ちだったので金で裁判長を買収して無罪になったんです。もう全てがどうでもいい、そんな時につい声をかけられて…本当に、本当にすみません…ッ」
久我「確かに気の毒な身の上だが、これを見逃す理由にはなんねえよ。ずいぶんたくさん買い込んだみてえだが没収させてもらうぜ。」
そう言って強引に奪い取った小袋をポケットに突っ込んだ。
男「ま、待ってください…それがないともう生きていけないんです。それさえ、それさえあれば…亡くなった妻と子供に会えるんです」
俺は何も返すことができなかった。
俺の名前は一条康明。
最近突然顔を出さなくなった舎弟を心配し、家まで訪ねに行くところだ。
インターフォンを鳴らすが応答はない。
一応軽くノックをしてドアに手をかける。
鍵はかかっておらず、小さな音を立てていとも簡単に開いた。
一条「ッ…なんだこの匂いは…」
入るなり悪臭が鼻をつく。
周りは空き缶だらけでまるでゴミ屋敷だ。
一条「虎徹…いるのか?」
虎徹「………ぁ…ぅ゛……ッ」
一条「っおい。虎徹、大丈夫か!」
声のする部屋のドアを勢いよく開けると床にへたり込んでボロボロと涙をこぼす虎徹がいた。
慌ててそばに駆け寄る。
一条「この匂いは…!」
間違いない今まで何度も嗅いだことがある匂いだ。
まさしくこれは…
一条「ッヤクの匂いじゃ、ねえか…!」
怒りのままに首根っこを掴んで声を荒げた。
一条「何してんだ虎徹!それだけはやっちゃいけねえことだろうが!なんで…なんで一言も俺に相談してくれなかったんだよ…俺は、俺はそんなに頼りなかったのか!」
虎徹の顔を見つめて必死に語りかけるが虚な目に俺の影は映らない。
一条「本当は…ッ虎徹が好きだった。生意気ながらもひたむきに努力を続けるお前が好きだったんだよ!どうして……ッどうしてこうなっちまったんだ……」
虎徹の隣に紅林くんがいて、虎徹が幸せならそれでいい、そう思っていたのに。
やり場のない怒りと後悔の念が俺を襲った。
久我「じ、ろ………いかないでくれ……一人は、怖いんだ…………おいていかないで…」
涙ながらに必死に虚空へと両腕を伸ばす虎徹。
虎徹が求めているのは俺じゃない、そう分かっていても抱きしめずにはいられなかった。
だがヤクに手を出した組員への対処は一つと決まっている。
俺はそっと拳銃に手をかけた。
既に死ぬほどの苦しみを虎徹は味わっているのだろう。
だからせめて苦しまずに逝かせてやりたい、そう思ってこめかみに銃口を向けた。
引き金を引く瞬間、虎徹が小さく呟いた。
久我「…兄貴…すみま、せん……」
安心したように、身を委ねるように、虎徹の体から力が抜けた。
ーーーーバンッ
〜1年後〜
半グレとの闘いで虎徹は頭を打たれた。
俺がすぐに報復したが、病院に着く前に息を引き取っていた。
組にはそう説明するより他なかった。
葬儀を取り行った後、身内のいない虎徹を紅林くんと同じ墓に入れてもらえるようなんとか頼み込むことができた。
今日は虎徹の命日。
墓の周りには桜が咲き誇っていて、天気もいい。
そっと花を供えて俺は立ち去った。
一条「来世では幸せになれるといいな」
これて「俺とお前と、」は完結となります。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
あまりに悲惨なバッドエンドとなってしまったので、次回から「転生編」を書こうと思っています。
今後ともよろしくお願いします!
コメント
1件
うわ…読み終えてもしばらく言葉が出なかったです。最初の「記憶がとぶ」が繰り返される表現が本当に痛くて、読んでるこっちも息が詰まりそうでした。虎徹が最後に「兄貴…すみません」って言って力抜けたところ、一条さんの手で逝かせてあげたんだなって…それが救いなのかどうかすら分からないけど、そうとしかできなかったんだろうなって思いました。転生編があるとのこと、ぜひ読みたいです。お疲れさまでした。