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二人は、ある古い商業ビルのリノベーション下見に来ていた。
naは建築担当として、タブレットで構造を確認しながら眉をひそめる。
na「……えとさん。このエレベーター、ボタンがおかしいです」
naが指差した先。12階と14階の間、本来あるはずのない場所に「13」の刻印が、まるで後から浮き出てきたかのように歪んで存在していた。
et「あー? また業者のミスじゃない? 楽観的に行こうよ。一攫千金のお宝フロアかもよ?」
etはサバサバと笑い、迷わずそのボタンを押し込んだ。オレンジ色のタンクトップが、エレベーターの不自然に明るい照明に照らされる。
チン。
扉が開いた先は、どこまでも続く無機質なオフィスフロアだった。しかし、何かが決定的に狂っている。
na「……文字が、全部逆さまです……」
naが震える声で指摘した。壁の避難経路図も、非常口のサインも、すべてが鏡合わせのように反転している。建築の構造を知り尽くしているnaの鋭い勘が、「ここは人間がいていい場所じゃない」と警鐘を鳴らした。
et「naさん、私の後ろにいて」
etの声のトーンが落ちる。彼女は、mfから贈られたバットを静かに構えた。
奥の角から、カチ、カチ、と硬いものが床を叩く音が聞こえてくる。
現れたのは、顔のない「警備員」のような影。それは関節をありえない方向に曲げながら、鏡の中を歩くような不自然な動きでこちらへ突進してきた。
et「なっ……何これ、キモっ!」
etは反射的に、最短距離でバットを振り抜いた。
「すぐに手が出る」彼女の気性は、迷いを生む隙を与えない。鈍い衝撃音と共に、影の頭部がガラスのように砕け散る。
et「naさん、出口は!?」
na「あっち……! 突き当たりの窓、あそこだけ『反転』してません!」
naは恐怖に震えながらも、その優れた空間把握能力で唯一の「現実の出口」を見つけ出した。
二人は全力で走り出す。背後からは、砕けたはずの影が再生し、無数の鏡の破片のような音を立てて追いかけてくる。
行き止まりの窓。その向こうには、夕焼けに染まるいつもの街並みが見える。
na「etさん、飛び降りるしか……!」
et「わかった、信じるよ! naさん!」
etは、naの腰を抱き寄せると、そのまま窓ガラスをバットで突き破った。
落下する感覚。
オレンジとピンクが混ざり合い、視界が真っ白に染まる。
気がつくと、二人はビルの1階、エントランスのソファに座り込んでいた。
外はすっかり暗くなっている。
et「……ハァ、ハァ……。生きてる?」
na「はい……。etさんが、守ってくれたから……」
naは、etのアウターの袖をぎゅっと掴んだまま、まだ震えが止まらない。
etはサバサバと笑いながら、naの頭を乱暴に、でも優しく撫でた。
et「マジで怖かったけど、naさんの勘がなかったら詰んでたわ。ありがとね」
na「……etさんこそ、あんなの怖くないんですか?」
et「怖いよ。でも、naさんが泣きそうだったからさ。私がシャキッとしないとでしょ」
etはポケットからチョコを取り出し、naに差し出した。
あまりに無骨で、けれど運命共同体としての熱量だけが、夜の冷気の中で二人を温めていた。
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